調合18
「他に足りないもの、エリーチェの欲しいものは何かあるか?」
「とりあえず、こちらの世界で私でもできる仕事を探したいんですが、私、文が書けないんですよ。」
「普通に言葉は通じているようだが?」
「はい。会話はできます。あと、書かれたものは読めるんです。読めるというか、内容が分かる、なのかもしれませんが……。」
「うちで働くのは嫌ってこと?」
「違います。シャルロッテさんのお手伝いができればしたいんです。でも、文は書けた方がいいですよね。」
「それは、そうね。」
シャルロッテの声が少し不満そうだ。
「書かれたものは読めるので、本があれば、応用できそうな文を抜き出して、覚えることができるのではないかと思って……。」
「本が欲しいの?」
「でも、こちらの世界で本って、ひょっとして、とても高価だったりしませんか? 校長先生、手袋をはめて扱ってましたよね。」
「あぁ、あれは、100年前の本だから……。」
「私みたいな普通の人が利用できる図書館はないですか? 稀覯本とか、文化財的な本ではなくて、童話とか、大衆向けの小説とか、あと料理の本なんかあれば、こちらの料理や食材についても知ることができそうですし……。」
妖精の招かれ人について記録された本ほどではないにしても、こちらの世界では、やはり本は高価なものだった。
大衆向けの小説なんてものはないらしい。童話は口伝で伝えられるという。
「ザラにある図書館は、王宮図書館と錬金術師養成学校の図書館、そして貴族の私設図書館ぐらいだな。錬金術師養成学校の学生になれば学校図書館は当然利用できるはずだが……。」
「入学試験は受けさせてもらえたのですが、……多分、不合格です。答案が書けなかったので。」
「どちらにしても、君が考えているような本の入手は難しいな。家庭料理は親から子に直接伝えられるものだし、王族や貴族のお抱え料理人の場合は師匠から弟子に伝えられる以外は、基本的に秘匿される。」
そうなんだ、残念。
「しかし、それ故に、ダシや新たな調味料の情報が広まるのが遅れているのかもしれぬ。」
エルリッヒは、私から、今日のスープの作り方を聞いて、紙に書きだした。
「こんな感じでいいか?」
「あ、そうですね。でも、キャベ人参やソフ海老の綴りが合っているかは、分からないのですが……。」
「キャベ人参は合ってる。ソフ海老は、フェルトが1つ足りないよ。2つ重ねるの。」
「エルス、オン、フェルト、フェルトか?」
「そう。」
3人で作ったレシピが完成した。
「こういうのがあれば、食材や道具の綴りも覚えやすいと思います。」
私は、訂正やら、付けたしやらの部分を見ながら、新しい紙に清書していく。
「ねぇ、エリーチェちゃんが、新しい料理を作ったら、それをこんな風に書いていくのはどう? 単語や作文は私が教えてあげる。私はおいしい料理の作り方が覚えられて、エリーチェちゃんも綴りや作文の勉強になって、いい感じじゃない?」
「私は仲間外れか?」
「完成したレシピを届けるから、それでどう? その代わり、エルが新しい食材や調味料の情報を入手したら、最優先で教えてもらうけど。」
やっぱり、エルさん、料理関係のお仕事の人なんだ。新しい情報を得る伝手があるんだな。
エルリッヒは、シャルロッテからソフ海老を分けてもらい、清書前のレシピの草案の方を持って帰った。




