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調合17

「あの、エルさんでしたっけ? お客さんはお帰りになったんですね。」

「まだいるけど。エリーチェちゃんのことほったらかしにしちゃって、ごめんね。お昼ご飯がどうなったかも気になったから、こっちに来たけど、問題なかったね。」


シャルロッテは3人分の食器を出してきた。


「まさかと思いますけど、これ、お客さんにも、食べさせるんですか?」

「パンは残りがあるし、十分、足りてるよ。大丈夫!」

「量の問題ではなくてですね。コンロの火の調節法をきちんと確認しておかなかったせいで、火加減がかなり雑になっちゃったんです。これ。」

「問題なく見えるけど。」

「卵のフワッ感は台無しになってる気がするんです。あと、調味料が、塩しか分からなかったから、味付けも単調な感じに……。」

「フワッ感? それ大事なの?」

「はい、大事です!」


しかし、冷めてしまうと、もっとダメな感じになりそうなので、仕方なく、昼食を運んだ。


「今日のお昼ご飯は、エリーチェちゃんが作ってくれました~。」

「ん、何やら、いい匂いがするな。」

「あの、実は料理、それほど得意ではなくて……、ちょっと失敗しちゃったんですが……。」


火加減の失敗が気になって、言い訳めく私をよそに、2人は興味深そうに昼食を見ている。


「いただきます。んっ? 何コレ?」

スープをひとくち、口にして、シャルロッテが固まる。


「これは、エリーチェの元の世界の料理なのか?」

同じくスープを口にしたエルリッヒも戸惑っているような感じだ。


やってしまった。

でも、味見した時は、そこまで悪くなかったんだけど。むしろ、ソフ海老が予想以上にいい感じのお出汁を出してくれて、スープは成功かと思ったのに……。


しかし2人は無言のままで、スープをさっさと片付けてしまった。


「これ、おかわりはあるのか?」

「鍋の中に残ってるよ。ねぇ、この赤いのは何なの?」

シャルロッテは、ソフ海老の欠片をスプーンに乗せて、私に尋ねた。


「ソフ海老です。シャルロッテさんがお肉屋さんで買ってたじゃないですか。」


あっ、お味噌汁を作る時の、煮干しを出し忘れた感じになったのか。スミマセン。雑な料理で。


「ソフ海老? このちっさい赤いのか? 初めて食べたぞ。」

エルリッヒは、鍋から自分の皿にスープを注ぎ、2杯目を前にして言った。


「あぁ、ちょっとずるい! 1人でそんなにおかわりして。鍋の中、ちょっとしか残ってない!」


えっと……。大丈夫そうですね、スープ。


「私、ソフ海老が入ったスープなんて初めて食べたわ。」

「食材を見て、出汁が取れそうなものがよく分からなかったんです。干した海老なら、いけるんじゃないかと思って。」

「ダシとは何だ?」

「料理をおいしくする旨味成分を煮出した汁です。昆布という干した海藻とか、かつおぶしや煮干しを代表とする魚を煮てから乾燥させたものとか、干した貝柱、干したキノコ、そういう食材から出汁を取るんです。」

「ソフ海老にそんな使い方があったなんて。あぁ、何だか、すっごく損してた気がする。これ、サラダのトッピングにって勧めてるんだよ、肉屋では。」


出汁は知られてないんだ。昆布もかつおぶしも入手困難そうだなぁ。


「この丸いのは何だ。」

「野菜入りの卵焼きです。切り分けますね。あと、そっちはワイバーンのもも肉のソテーです。おまけでもらった藁シメジも一緒に炒めました。」

卵焼きをナイフで放射状に切り分けて、それぞれの取り皿に乗せる。


「そうそう、ワイバーン!」

「ロティは好きだよなぁ。」

「あれっ? これ何か、表面がパリパリしてる。でも中は柔らかい。いつもよりずっとおいしい!」

「野菜入りの卵焼きもうまいぞ。中に入っているのは芋か? ほくほくしてる。」


ワイバーンは、やはり鶏肉に似ていた。唐揚げでもイケそう。卵焼きは、やっぱり火加減がうまくいかなかったせいで、フワッ感が足りない残念な感じになったが、2人は気にしていないみたいだ。


「こちらの世界に来て、何か困っていることはないか?」

唐突に、エルリッヒが言った。


「まだ慣れていないので……。こちらに来て、今日、初めて買い物をして、料理を作ったんです。シャルロッテさんとグランさんがすごく親切なので助かっています。」

ふと思い出して、続けてみる。

「あ、調味料が塩しか分からなかったのですが、醤油とか味噌とかありませんか?」


「ショウユ? ミソ? 聞いたことないな。ロティは?」

「私も知らない。でもそれ、おいしいんだよね?」

「呼び名が違うだけかもしれません。私が知っているのは、大豆という豆を発酵させて造られた調味料です。」

「ハッコウ? 錬金術とも違うのか?」

「発酵は、目に見えないほどの小さな微生物が栄養を得るために食材を分解して、別の食品や調味料などを生み出すことです。元の世界では、錬金術とは関係なかったです。」


あれ? こちらの世界にもワインやチーズがあるよね。


「酒やチーズも発酵を利用して造られるはずですが……。」

「そうなのか? しかし、豆を利用した調味料というのはやはり聞いたことがないな。」

「う~ん。豆の種類が分かれば、錬金術でも作れるかもしれないけど。」

「私のいた元の世界では、塩、砂糖、酢、醤油、味噌の5つは、味付けの基本なんですよ。」

「えっ、基本の5つのうち2つ無いってこと?」

「まぁ、単純に、おいしいものの5分の2、損してるって言えるかもしれませんね。」

「5分の2の損失だと。それは由々しき事態だ。食は生活の基礎だ。その5分の2が欠けているなどあり得ん。否、5分の2どころではない。少なくとも私はダシも知らなかったぞ。私にとっても大問題だ。ああ、ソフ海老は肉屋で手に入るんだったな。」


何だか、凄く真剣。エルさん、ひょっとして、料理関係のお仕事なのかな?

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