調合15
台所の道具の使い方を教わり、さっそく今日の昼食を作ることになった。実践あるのみだ。
「では、食材を買いに出かけましょう! 試験勉強中はどこにも出かけられなかったもんね。街を案内するよ。」シャルロッテは宣言し、私たちは工房を出た。
工房から中央の円形広場に出て、そこから真南に通りを下る。
「ここは、職人通りって呼ばれてる。市場も立って、平民街では一番賑やかなところだよ。」
農家の人たちが朝採れたばかりの新鮮な野菜や果物などを売っている区画に立ち寄り、シャルロッテは積まれた野菜を吟味し始めた。
「マッサ蕪が出てる。これ、スープの材料にするとおいしいんだ。あ、でもちょっと高いか。」
「今年の初物だよ。できはいいんだ。重さ確かめてみてよ。葉っぱだってピンとしてるだろ。」
「う~ん。あ、そっちの、カイザー芋、見せて。」
「はいよ。あ、そうだ。フクド豆はどうだい?」
「フクド豆は、使い道が限定されちゃうからなぁ。煮豆一択だもん。おいしいことはおいしいんだけど。」
色々おまけしてもらって、野菜を買った。
「こっちは、肉屋ね。」
「今日のお買い得品は、新鮮な、ワイバーンのもも肉だよ。魔物討伐隊から直接買い取ったんだ。」
ワイバーン? 魔物討伐隊?
そんなの食べて、おなか壊しませんか?
しかし、シャルロッテは青い瞳を輝かせ、「それ、それちょうだい。久しぶりのワイバーン。ラッキーだわ。」と、即決していた。
「あと、そっちのベーコンと、あっ、ソフ海老もちょうだい。」
なぜ、肉屋に海老?ではあるが、ワイバーンの前では、些細なことだ。ちなみにソフ海老は干し海老だった。
食材以外にも、下着やタオル、ハンカチなどを買ってもらった。
仕事、早く覚えてシャルロッテさんの役に立たないと……。
「あ、もう1軒寄るね。」
私たちは、買ったものを抱えて、レンガ造りの建物に入った。
「こんにちは。」
シャルロッテはカウンターの向こう側の女性に声をかけた。
「王城騎士団から連絡がきてると思うんだけど、この子のギルド登録の手続きをしにきたの。」
そこは、ギルドと呼ばれる仲介所だった。
「こちらの世界で通用する身分証が必要なの。どう見ても、エリーチェちゃんの持ってる身分証の方が作りはいいんだけど、こちらの人間に読めない字でしょ。」
ギルド登録には3名の身元の確かな推薦人が必要とされる。そのため、こちらの世界では、ギルド登録証が身分証として通用するという。
「3名って、シャルロッテさんとグランさん、あと1人は誰方が引き受けて下さったのですか?」
「……、あぁ、それなんだけど。ルドルフ2世陛下が、最初、引き受けるとおっしゃられて……。」
「ちょっ、ちょっと待って下さいよ。」
「さすがにそれは、かえって、色々めんどうになるっていうことで、シュヴァルツデュエルさんが……。」
「きっ、騎士団長が推薦人なんですか?」
「そういうことになりました。」
ギルド登録の手続きが完了するまで、私たちは、依頼の張り出された掲示板を見て過ごした。
「この辺は、魔物討伐でも楽な方だから、主に新人冒険者向きだね。」
オドリタケの討伐依頼を見て、シャルロッテが言った。
「オドリタケ?」
「うん、踊るキノコなんだけど、とにかく大発生するんで、よく討伐依頼が出されるの。」
踊るキノコ……。ブレイクダンスをするシイタケが頭に浮かんだ。
ブレイクダンスをするキノコが大発生……。
「少しも楽そうに思えないんですけど。」
しかし、ギルド登録が完了すれば、ここで仕事を紹介してもらうことになるだろう。
踊るキノコと遭遇する日も遠くはなさそうだ。




