調合10
「では、始めましょう。まぁ、入学試験まで2週間しかないので、最低限の詰込みになりそうなんだけど……。」
そういうことである。
アルランメディエ王国で使われている文字は、元の世界では見たことがない文字だったが、書かれている内容はなぜか理解できる。そして、会話も通じる。しかし、書くことができない、ということが分かった。文法と単語の綴りがまったく分からないのだ。
基本文字は、アルファベットなどと同じ表音文字であった。数字と基本文字を覚え、最低限の単語を覚えることを目標とする。問題文は理解できるのだから、錬金術に必要な単語だけを可能な限り覚えて、書けるだけ書くという作戦だ。
時間無さ過ぎ。ほぼ、負け戦だな、こりゃ。まぁ、余計なことを考えても、仕方ない。
「錬金術は、簡単に言うと、材料を組み合わせて調合する技術なの。その調合に重要な要素が属性と呼ばれる性質です。」
シャルロッテは、そう言って、私のノートに単語を書き並べる。
「錬金術、材料、調合、属性、あぁ、書かれた文字は読めますね。」
どうしてこうなったのか不明だが、字が読め、理解できるだけでもありがたい。
「属性には火属性、水属性、木属性、風属性、土属性、無属性があり、それぞれの属性は色で表現されます。赤、青、緑、白、黄、黒の6色です。」
シャルロッテは、次に色を表す単語を、並べて書いてくれた。
「同じ属性のもの同士、相性の良いもの同士での調合は可能ですが、相性の悪い組み合わせ、火属性と水属性では調合はできません。」
シャルロッテは、確か、金の調合に成功したと言っていた。
そう、私の知っている『錬金術』と、こちらの世界の『錬金術』は別物なのだ。
私の知っている『錬金術』は、化学的手段を用いて卑金属から貴金属(特に金)を精錬しようとする試みで、言ってみれば、未発達な化学だ。そして、卑金属から金を精錬することはできなかった。だって、元素が違うのだから。つまり前提が間違っていて、失敗した化学とも言える。
元素を別の元素に変える、つまり新しい元素を作ることは、通常の化学実験レベルでは無理なはずだ。
原子炉とかが必要なんじゃなかったっけ? 原子核に荷電粒子をぶつけるとか、そんな話がどっかに書いてあったなぁ。
「これらの属性を考慮して材料を組み合わせ、魔方陣により力を発動させ、調合を成立させます。」
魔方陣……。
妖精さんが存在するんだもん。魔方陣だってありだね。
あ、封書鳥だっけ? あれこそファンタジーな感じだったよね。教えてもらうの忘れてたけど。
「それぞれの属性の材料で、初級の頃から使われるものも、覚えておいた方がいいかもしれないね。え~と。」
材料の名前の単語も並べて書いていく。
「とりあえず、今日はここまで。文法が分からないみたいだから、文章として回答するのはもう諦めよう。その代わり、要点は理解してますよの表明として単語は間違えられないからね。しっかり覚えてね。」
シャルロッテは、勝算ありと見ているのか、それとも、やはり玉砕決定と見ているのか、さっさと初日分を終了としてしまった。
私は、明日までに今日習った単語を覚えるべく、その後の時間を、ひたすら単語を書いて過ごしたのだった。