調合11
「ご飯、食べよう!」
2階の私の部屋に、シャルロッテが声をかけに来た。
即席受験生ということで、居候な上に、家事も免除されており、本当に申し訳ない限りだ。
「明日の試験が終わったら、家事の分担、決めて下さいね。」
「え? あぁ、食事当番ね。それは、追々ね。」
野菜スープを口にしながら、シャルロッテは、あまり興味なさそうに答えた。
「お掃除とお洗濯は、妖精さんにお願いしてるから。大丈夫だよ。」
出た、妖精さん。
しかし、私をこの世界に招いたらしい存在なのだが、既に2週間が過ぎて、まだ、この目で見ることができていない。
招いておいて、放置ですか?
シャルロッテの工房に出入りしているようなのだが、私の目には見えない存在なのかも……。
「ひょっとして、エリーチェちゃん、料理上手だったりする?」
「あ、料理はそれほどでも……。こちらの世界の食材が分からないので、知りたいとは思っているんですけど。」
と、口にしてから、思い出した。
「お菓子作りは好きです。ケーキとかクッキーとか作りたいです!」
ただ、台所の竈の使い方が分からない。大丈夫だろうか?
「ケーキかぁ。いいなぁ。」
あっ、ものすごい、期待されてる……。
うっ、竈の使い方も学ばねば……。
とりあえず、全ては明日の入学試験が終わってからだ。
この2週間、とりあえずは、覚えられるだけ覚えた。
初日に覚えた属性から、錬金術の主な材料、調合に使う道具の名と特徴、魔方陣について、調合の鍵となる触媒剤について……。
色々、聞いて分かったことがある。
こちらの世界には、魔力が存在する。
シャルロッテたちは、こちらの世界をマギカコスモと呼んでいるのだけれど、マギカコスモの世界では、人、動物、植物といった生物から、鉱物などの非生物まで魔力を有している。
個々でその魔力量は異なり、ほとんどの人は僅かしか魔力を持っていないのだが、非常に膨大な魔力を持つ者が時として生まれる。アルランメディエ王国では、膨大な魔力を持つ者は強制的に王国の預かりとなり、国王直属の近衛魔術師になるべく教育されるという。
しかし、そのように膨大な魔力を持つ者は非常に希少で、また教育を受けても実際に働くことができる魔術師になれるかどうかは、かなり微妙なのだ。
その身に有する魔力を制御しきれず、精神的に壊れてしまう者や早逝する者が少なくない。
しかし、パンドラ大陸で、僅かしか魔力を持っていない者でも魔力を扱うことができる技術が開発された。それがこの世界の錬金術なのだ。
マギカコスモの全てから、それぞれが持っている魔力を少しずつ分けてもらうことにより、魔力量を確保する。そして、その集められた魔力で調合を行うのだ。
魔方陣は、魔力を調合に使うために必要なエネルギー転換装置らしい。
錬金術の材料は、そのもの自体が魔力量を多く有するものが多いが、属性と呼ばれる性質があり、その性質によって相性が決まる。属性が同じものは調合しやすい。
一方で、決定的に相性の合わない火属性と水属性のものでは、調合はできないとされている。そこまで相性が悪くない属性同士の材料を調合する場合に必要なのが触媒剤だ。
より効果の高い触媒剤を発見することが、錬金術師たちの大きな目標なのだという。
そして、錬金術についていろいろ分かってくると、早く調合をしてみたいと思う。
単語の覚えを再確認していると、シャルロッテがホットミルクを持ってきてくれた。
「はい、これ飲んで、もう寝た方がいいよ。エリーチェちゃんの頑張りは、私が保証する。」
私は、カップを受け取った。
「ありがとうございます。温まります。」
体がポカポカしてきた。
「あっ、一番大事なこと、教えてなかった。」
シャルロッテが、私の練習ノートをパラパラ捲った後、叫んだ。
「名前。えっと、これが、エリーチェちゃんの名前ね。」
ノートに、この世界の文字で、『エリーチェ=コー』と書いてくれた。
あ、江利千恵子は、そう解釈されてたんだ。今更ではある。
「シャルロッテさんの名前も書いて下さい。」
私が、頼むと、『エリーチェ=コー』の横に『シャルロッテ=ベロア』と書き足してくれた。
「うん、これで完璧! 明日は早いよ。おやすみなさい。」
私は、その夜、ノートを抱いて眠りについた。




