秘密の絵画
それは、私とクリストフ様が同じ家に住み始めて、しばらくした頃のことだった。
「奥様、お荷物が届いております」
「奥様…!何度聞いてもいい響きで、ドキドキするわ」
「それは良かったでございます。…こちらは、絵画でしょうか?」
「…そうね、そうだと思う」
執事のベンも、私の奇行にも慣れてきた頃。
あの日──私とクリストフ様が、まだお互いを婚約者だと知らなかった日
…というか、私だけ知らなかったあの日にデートをした際に、画廊で購入した絵画が届いた。
(そういえばあの日、購入するものとは別に、作者に依頼するものがあるから、届くのはしばらく後って話されていたかしら)
そんなことを考えて、ふとあの日の会話を思い出す。
『必要な枚数は足りましたか?』
『うん。あと一枚、別で依頼するものがあるから、それと合わせて十分かな』
『依頼、ですか?』
『うん。…自画像、みたいな感じかな?』
『…自画像?』
あの時は、
(クリストフ様って、私の思っていたよりも自分のお顔が好きなのかしら…)
などと失礼なことを思っていたけれど、今思えば、あれはきっと、うまくはぐらかされていたんだろう、と思う。
「これ、私が開封してもいいのかしら?」
「宛名は奥様宛ですし、開けても大丈夫かと思いますよ」
たしかに、絵画の包まれた箱を見ると、宛名は私宛となっていた。
「…じゃあ、開けてみようかな」
ベンの言葉に恐る恐る包みを開封してみると、やはりあの日選んだ絵画が入っていた。
そして、その中にはひときわ大きく丁寧に梱包された絵画が一枚。
ひとつだけ内容のわからないその絵画を丁寧に開け、出てきた絵は、なんと、──私の自画像だった。
「えっ、えぇ!?私!?」
「うん、エマの自画像。よくかけてるね」
すると、絵画に気を取られていた私の背後から、突然聞き覚えのある声が聞こえてきて、肩が跳ねる。
「っわぁ!クリストフ様!?」
「ただいま、エマ」
「おかえりなさいませ…じゃなくて!あの、自画像って、私のものだったんですか!?」
「うん。(エマの)自画像、ってことだね」
「それは自画像と言わないのでは…?」
改めて絵を見てみる。
たしかに、なんだかやたらキラキラと美化されて書かれている気はするものの、とてもきれいに可愛く描かれていた。
「まぁ、エマになんて言おうか色々考えてあれだったから。ちょっと言葉としては違うかもね」
「…どうせなら、二人の絵が良かったです」
つい口らが出てしまった言葉に慌てる。
まるで、この絵が嬉しくないみたいに聞こえたのではないかと。
「あっちが、ちがくて。嬉しいんですけど、その、せっかくなら私一人じゃなくてもと思いまして、」
「わかってるよ。というか、このエマのイラストは僕が欲しかっただけだしね。…たしかに、今度は二人の絵も頼もうか」
クリストフ様の言葉に、自然と笑顔がこぼれた。
───そういえば、この絵画はひときわ大きいサイズだが、どこに飾る予定なのだろうか。
「ちなみに、こちらの…私の絵画は一周り程他の絵画よりサイズが大きいみたいですけど、どちらに飾る予定ですか?」
すると、クリストフ様はなんてことのないように答えた。
「あぁ、玄関の…そこの、一番大きなスペースに飾る予定だよ」
「…!?や、やめてくださいね!?」
「え?でも、買ったときから決めてたからなぁ」
「大きいし恥ずかしすぎます!!」
「そう?家に帰ってきてエマと、エマの絵画が出迎えてくれるなんて、幸せじゃない?」
「ク、クリストフ様はそうかもしれないですけれど、私はそんなことないです!!」
楽しそうに笑うクリストフ様と慌てる私、そんな二人を見て微笑ましそうにするベンや侍女達で、公爵家は本日も平和に過ごしていくのであった。
そして、こっそりと玄関前のフロアに絵画を飾ったクリストフ様がエマに怒られるのは、また別のお話。




