96 王族はいずこに?
何かがおかしい。
しかしながら、それを明確に説明できないもどかしさも同居している。
ハッキリ言えるのは王城内に生きている人間はいないということだけだ。
そのことを明確に意識した途端、嫌な予感に襲われた。
「まさか……」
リスタの仮想分体を猫からフクロウに戻して王城の外へと飛び立たせる。
旋回しながら王都の様子を確認してみた。
これで街中がアンデッドだらけなら最悪の事態なんだが。
それだけは避けられたようだ。
王城とは打って変わって城下の方は明かりが灯り人通りもある。
歓楽街などは、なかなかの賑わいぶりだ。
それと王都全体を囲う城壁にはアンデッドではなく人間の兵士が見回っていた。
見張りを務める警備兵としては充分な数がそろっているようだ。
しかしながら、軍勢から攻め込まれた場合は話が変わってくる。
待機している全兵力をかき集めても早期に攻め落とされてしまう程度しかいない。
小さな城なら籠城してもしばらくは落城することなく持ちこたえることもできるかもしれないが王都は広大だ。
それを囲う城壁ともなれば守備には相当数の兵士が必要である。
もし籠城戦になった場合は交代の要員も必要になるため、さらに人員を要するのは言うまでもあるまい。
ここまであからさまに人を引き上げていると王都を攻め落としてくれと言っているようにしか思えない。
が、それは常識的に考えてあり得ない話である。
自国を占領させたいなどと考える王がいたとしても乱心したとして玉座から引きずり落とされるのがオチだ。
こんなことになっているとは偵察する前は思ってもみなかった。
前の世界で経験してきた数多ある前世においても、こんな事態には遭遇したことがない。
おそらく王都は他国から攻め寄せられることなどないと高をくくった判断がこの無防備さを生んでいるのだと思う。
でなければ説明のつけようがないからね。
説明のつけようがないと言えば王城内のスカスカぶりもそうだ。
王都全体がアンデッドの巣窟になって城内の死者たちも合流したのかと思っていたけど違ったし。
ならばアンデッドにはなったものの何らかの理由で消滅したのだろうか。
ただ、それだと城内を見回っているアンデッドが規則正しく動いているのが説明できない。
あれは誰かの命令を受けている。
いないはずの王族に?
だとしても見回る理由はなんなのか。
まるで誰かに引き渡すことを前提にしているみたいじゃないか。
一瞬、そんなことを考えてしまったが物じゃないんだからあり得ない話だよな。
たとえ莫大な金を積まれても国を売る王族など何処にいるというのか。
けれども、それくらいしかこの状況を説明できないのも事実。
他につじつまの合う話があるとするなら遷都くらいしか思いつかない。
しかしながら、これとて王城をほぼ完全に放棄する理由にはならない。
王都は物流の拠点だ。
遷都したなら、その流れが大きく変わることになる。
御用商人だっている訳だし。
それをなんの触れもなく主要な王侯貴族がこっそり離宮に移動してしまうなど考えられるものではない。
これなら国を売り渡したバカがいると考える方が、まだ合理的と言えそうである。
いずれにせよ、これ以上の偵察を続けても収穫はなさそうだ。
それならば消えた王族を探す方がいいだろう。
俺はリスタに近くの離宮へ飛ぶように指示した。
仮想分体の方は王城の屋根に陣取らせて何か大きな変化があったときに連絡が入るようにさせる。
いずれは魔力切れで消滅するだろうけど、しばらくは大丈夫だ。
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リスタを離宮へ向かわせているところで胃がカロリーを要求してきた。
久々にクリエイションの魔法で向こうの世界のメニューでも作ってみようか。
手早く食べられるものがいいんだけど米が恋しい気分でもあるんだよなぁ。
そうなると、つき屋の牛丼かCuCu壱番亭のカレーライスだろうか。
ふっと思い浮かんできたのが、このふたつ。
「気分は牛かな」
ということで牛丼をチョイスした。
カレーライスだってビーフがあるけど、肉を食ったという気になれるのはやはり牛丼だろう。
いずれにせよイメージするのは容易いのでサクッと出現。
できたてでほのかに湯気を放つそれを割り箸で掻き込んでいく。
タレがからんだ肉の味に米の甘みがマッチする。
「うめえ~~~~~~~~っ!」
久々に食べたということもあるけど掻き込む箸の動きが止まらない。
なんというか俺って安上がりな舌をしているよな。
だけど、今のところはクリエイションを使わないとダメなのが最大の泣き所だ。
牛肉は煮たような肉が調達できたとしても我が国には米がないからね。
先代が数多の人生で旅をしてきた中でも米に遭遇したことは一度もない。
何処かで種籾が手に入らないものだろうか。
最悪、クリエイションでどうにかすることになりそうだけど可能な限りはこちらの世界産のものだけで解決したいところである。
こちらの世界の植生に影響が出るのを避けるためという高尚な理由ではない。
種籾の出所を探られると俺の正体に疑問を抱く人間が出てくる恐れがあるからだ。
悩ましいところだけど異世界転生したなんて余人に話せるものじゃない。
打ち明ける相手を身内だけに絞ったとしても何を言われるやら。
姉でさえ、この秘密を明かした結果がどうなるかは読めない。
たぶん酷いことは言われないと思うけど、それでもドン引きされる恐れはあると思う。
そして、父アルブレヒトだ。
信頼関係を構築できているとは到底言い難い中でどう転ぶかは未知数だ。
罵倒や非難されるだけならまだいいさ。
放逐や迫害なんかされたんじゃ先代に申し訳が立たないよ。
俺が生きていく世界はここだったんだと胸を張って言えなくなってしまうじゃないか。
「おっ」
あれこれ考えている間にリスタが離宮の近くまで来たようだ。
ここは本当に王都から近いよな。
他の離宮はそれなりに距離があるはずだけど。
街の名前はなんだっけ?
確かジオールとかなんとか。
いや、それはどうでもいいことだ。
大事なのは王都にいなかった王侯貴族がここにいるかどうか。
いれば何か分かるかもしれないし、いないなら他の離宮に向かわねばならないだろう。
ここでも仮想分体を作り出して送り込んでみる。
侵入は問題なくいけたが、ここにも王族はいなかった。
王都と違って警備や維持管理の人員は普通にいたけれども。
外れを引いたということで次の離宮へ飛ぶことにする。
ジオールの離宮には不審な点はなかったので仮想分体を魔力に戻して回収していく。
そんな調子で次の離宮に向かったのだけれど、これもジオールの街と同じように外れだった。
その次も同じく。
残すは最後のひとつのみなんだが……
あそこは行く前から望み薄である。
国境が目と鼻の先ってくらいに近いんだよな。
しかも、昔から隣国との小競り合いが絶えないため離宮とは呼ばれているものの実質的には要塞だそうだし。
歴史書によると数百年前には長年にわたる激戦が繰り広げられたという。
小競り合いが絶えないのは、その名残のようだ。
そんな最前線に王族が赴き腰を落ち着けるなどあり得ないだろう。
開戦しようとしているのだとしても後方に控えるのが普通だと思うのだが。
読んでくれてありがとう。
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