95 潜入してみた
「酷い目にあった……」
言い訳をしようと思ったら先に質問攻めにされるとはね。
1人で儀式魔法レベルのことをして体に負担はかからないのかかとか。
魔力は足りたのかとか。
そもそも、どうやって対象を把握したのかとか。
ひとつの質問に答えても、そこから派生して根掘り葉掘りされたし。
細々したことまで含むと数え切れないほど追及されたのには閉口した。
それでもエレオノーラがフォローしてくれなかったら、あんなものでは済まなかったと思う。
その姉がドヤ顔で語っていたことについては別の意味で気疲れさせられたけど。
ぶっちゃけて言うと黒歴史を聞かされている気分だった。
疲労感も倍増するというものである。
どうにかこうにか切り抜けて解放された時には数時間が経過していた。
離れの書庫に逃げ帰ってきた後はベッドに倒れ込むようにダイブして脱力。
体力的には余裕があるはずなのに気力は枯渇寸前で、しばらくは起き上がれそうにない。
「前世じゃ、こんな感覚味わったことないもんなぁ」
思わず声に出して愚痴ってしまったのは御愛敬、だと思いたい。
「ふう……」
ひとつ大きめの溜め息をついた俺はうつ伏せの状態からゴロンと寝転がって仰向けになった。
「さて、リスタはどのあたりかな」
実は俺が屋敷に向かう前に我が相棒をフクロウに化けさせて王都方面へ飛ばしていたのだ。
本物のフクロウであれば巡航速度はさほど速くはないが、リスタはスライムが化けているだけなので本物以上に速く飛べる。
魔法で補助すれば俺が開発した車以上。
それ故に早馬で1週間はかかる距離を数時間に短縮させることが可能だ。
なんの指示もなければ、すでに王都上空ということもありえそうだ。
事前に先代の記憶にあった王都の映像を覚えさせて視認したら減速するように指示は出してある。
そうしないと何が起きるか分からないからね。
さすがの先代も王都の防衛体制なんかは知らないし。
俺は感覚共有の度合いを高めて視界をリンクさせる。
すると、大きな街の像が遠景で脳裏に飛び込んできた。
中央に背の高い城がそびえ立っているが、これは王宮と言うより王城と言った方がしっくりきそうだ。
「王都だな」
先代の記憶が間違いないと言っている。
街道を歩いている状態から見るのと上空から見下ろすのでは雰囲気が異なりはするものの、槍のようなとんがり屋根は他国の城には見られない特徴だ。
故に見間違えるはずもない。
俺はリスタに王都近郊の森へ降下するよう指示を出した。
空間ゲートの魔法で転移するためのポイント確保は大事だからね。
それと魔力を込めて確認すれば王都の警戒態勢も、ある程度は把握できる。
そう思ったのだが……
「冗談だろ?」
結界のひとつも施されていない。
王都全域は言うに及ばず王城さえも魔力が感じられないのだ。
一瞬、魔力が隠蔽されているのかと思ったほどである。
しかしながら魔力を込めて見ている以上は、どんなに巧妙に隠そうとしても魔力の揺らぎくらいは見て取れる。
それが何もない。
無いものを隠すことはできないし隠している振りをすることも無意味だろう。
つまり、魔力的な仕掛けは何もないということだ。
空を飛ぶ魔物だっているだろうに。
それらが忌避したり侵入を感知したりする程度の結界すらないとは想像だにしなかった。
王都の守りは街全体を囲う城壁だけということになる。
貴族の領地ならともかく国の要である王都がそれでは話にならない。
とはいえ、こちらからすれば好都合というもの。
潜入し放題だからね。
念のためリスタの仮想分体を城壁の上空をかすめるように飛ばしてみた。
仮想分体とは魔力を充填して作り出す仮初めのボディを分体のようにリスタの意思で操れるようにしたものだ。
通常の分体であればダメージを受けると本体であるリスタと融合した際にそれが反映されてしまう。
しかも、分体を失えば本体にとっては欠損ダメージが確定する。
それを無くすために編み出したのが仮想分体という訳だ。
こちらも仮初めとはいえボディは存在するのでダメージも受けてしまうが、本体は元のままなので欠損しないのはもちろん、ダメージを負うこともない。
失うものがあるとすれば魔力だけだがダメージを受けた時より回復は容易いし、仮想分体に魔力が残っているなら回収することも可能である。
リスクは0に等しいというのはありがたい。
最悪、使い捨てられるからね。
今回の場合は発見されてしまうと敵を警戒させてしまう懸念があるので、何の心配もないとは言えない。
仮想分体の行動も慎重にならないとね。
だから警戒はしていたんだけど城壁に接近しても何の反応もなかった。
それは王城の上空でも同じことである。
屋根の上に降り立ってすら何の騒ぎにもならなかったのには驚きを通り越して呆れすらしたほどだ。
暗くなりかけていたので目立たなかったというのもあるかもしれないが。
ここまで来たら深く潜入したい。
そして、完全に暗くなるまで待って潜入開始。
夜になっても上階は窓が開いていたので王城内に入り込むのは容易かった。
こんなところから賊が侵入するとは誰も考えないようだ。
発覚すれば警備責任者の首が飛ぶだろうな。
場合によっては物理的に。
もっとも、見つかるようなヘマはしない。
気配の感じられない窓から侵入してフクロウの擬態を解除しリスタを猫の姿に変化させる。
色は無色透明なので置物のような外見だけどね。
その状態で壁を歩き天井まで上る。
普通なら爪をかけても落ちそうなものだが、壁や天井が床であるかのように歩くことができていた。
スライムの張り付く能力を併用しているからだ。
これだけやれば発見されることもほぼないだろう。
逆にここまでやっても感覚が鋭い奴や勘のいい奴には見つかってしまうので油断はできない。
幸か不幸か近場では人の気配はしないのだけど。
という訳で天井を徘徊しながら城内を見て回る。
目当ての場所があるなら一目散に行きたいところなのだけど、城の構造も把握できていないからね。
マッピングしながら行くしかないだろう。
そうやって見て回ることしばし。
収穫は乏しいと言わざるを得なかった。
あまりにも人が少ないのだ。
というより誰もいないと言っていいだろう。
何度か巡回している兵士を見かけたけど人ではなく骨であった。
そう、スケルトンだ。
「完全にアウトじゃないか」
思わず書庫のベッドの上で愚痴ってしまった。
王城内を巡回しているスケルトン兵に聞かれる恐れはないとはいえ、気がゆるんでしまった証拠だ。
こんなことではいけないと気を引き締めなおし探索を再開する。
くまなく探し回ったけれど、ついぞ生きている人間を発見することはできなかった。
大半が巡回兵士のスケルトンだ。
まれにそれらを指揮しているらしいグールもいたけど、これもアンデッドとしては下級の方だ。
少なくともこの世界ではね。
上位種もしくは死霊術師がいないのは不可解だった。
もぬけの殻と言ってもおかしくはない状態なのも合点がいかない。
もしかして王城がアンデッドの巣窟と成り果てたことで王族たちが脱出した?
今の状況からだと、そう考えるのは違和感がある。
巡回しているスケルトン兵たちをすべてかき集めても王城内にいたであろう戦力の方が上回っているはず。
逃げ出すより戦って殲滅することを選択するのが普通ではなかろうか。
読んでくれてありがとう。
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