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87 種明かし

 新たな移動手段を確保するべく馬車から降りたのだが。


「若様」


 護衛隊長であるダッジが待ち構えていた。

 その目は問題があると訴えている。

 しかしながら敵襲があるような気配は感じないし、見張られている様子もない。


「何か?」


「見てほしいものがあります」


 あまり嫌な予感はしないのだけどなんだろう?


「わかった」


「こちらへどうぞ」


 案内されたのは道の脇に広がる野原に入ってすぐの場所だ。

 そこに騎士甲冑に全身を覆われた遺体が並んでいた。

 往来の邪魔になるから戦闘終了後にここへ運んだんだな。


 どうやらダッジが見せたいのは襲撃してきた彼らの亡骸のようだ。

 薄々そうじゃないかとは思っていたけどね。

 ここが現代日本なら子供に何を見せようとしているのかと非難が殺到することだろう。


 が、生憎とここは元の世界の常識が通用しない異世界である。

 おまけに今の俺は貴族の子息であり、うちの護衛たちよりも立場が上だ。

 こういう状況において報告を受けたり確認したりする義務が生じるのは言うまでもない。


 そして、オリビアも報告のための確認義務が生じるだろう。

 もっとも彼女を呼び寄せるまでもなく本人も己の立場を理解しており俺の横に並び立っていた。

 アンナはお姫様のそばを離れることなど考えられないので馬車に残っている。


 ダッジが一礼し黙祷する。

 俺もそれにならうとオリビアも硬い表情で続いた。

 その心中は察するにあまりある。


 彼女自身は見習いゆえ正式な近衛騎士ではないとはいえ上司や先輩だったことに違いはない。

 しかも全員が裏切った。

 おそらく事情が説明されることなどなかっただろう。

 きっと頭の中では「何故?」が渦巻いているはずだ。


 黙祷を終えたダッジが亡骸の脇に片膝をついてしゃがんでいる部下に無言で合図を送った。

 部下が甲冑騎士のヘルメットに手をかけフェイスガードを上げたのだが。


「なっ!?」


 オリビアが驚きと困惑が入り交じったような声を漏らす。

 彼女にとって馴染みがあるはずの近衛騎士の顔がなかったからだ。

 あるのは頭蓋骨のみ。

 それも目の周りはくり抜かれたような空洞になっていた。

 お姫様を治療するとなった際にダッジが何かを言いたそうにしていたのも、これのことだったのだろう。


「他もすべて同じなんだね」


「はい。これが一番マシかと」


「マシ?」


「少し動かしただけで骨が粉々になったものもあります」


「ああ、そういうこと」


 粉々になったのはフラッシュミサイルがオーバーキルしたからだろう。

 人間相手じゃ、そんなことにはならないはずなんだけど。


「道理で魔法の利き方が極端だった訳だ」


 スタンバレットがほとんど利かずフラッシュミサイルで無力化できた種がようやく分かった。


「どういうことなんです、坊ちゃん?」


 チャラ護衛が聞いてきた。

 いっせいに皆の注目を集めることとなった。

 オリビアなどは聞き逃すまいと思っているせいか眼光が鋭くなっている。


「襲ってくる前から彼らは死んでいたんだよ」


「いや、意味わかんねえっす」


「消えたのは僕の魔法の影響だよ」


「どんな魔法を使ったんすか!?」


 チャラ護衛が目を白黒させていたが無理もない。

 人間が魔法の一撃で骨だけになったと思い込んでいるだろうからね。


「最初は雷と同じショックで無力化しようとしたけど通用しなかった」


 今にして思えば彼らは死んでいたのだから電気ビリビリが通じなくて当たり前だったのだ。


「だから目潰しのつもりで強い光を顔面に当てたんだよ」


「いやいやいやいやいや、光を当てたくらいじゃ人間は消えませんって」


 絶対にあり得ないとばかりにチャラ護衛が否定する。


「人間はね」


「は? 甲冑を着込んでいるんだから人間っしょ?」


 チャラ護衛は困惑しているがダッジやオリビアは驚愕のあまり固まってしまっていた。


「アンデッド……」


 オリビアがどうにか絞り出すようにして呟く。

 正解だ。

 が、彼女にとってこれほど嬉しくない正解もないだろう。


「若様が使ったのは浄化の光だったのですね」


 ダッジの推理も正解だ。

 もしも、あの時に使ったフラッシュミサイルの発光が浄化の効果がない普通の光であったなら何も効果はなかったはず。

 実はあの時の気分として「汚物は消毒だぁ!」と言いたかったんだよ。

 卑怯なやり口に腹が立っていたからさ。


 こういうのも怪我の功名と言えるのかね?

 なんにせよラッキーだったことに違いはない。


「買い被ってもらうのは勘弁してほしいね」


「買い被りですか?」


「そうだよ。浄化の光は狙ってやったんじゃなくて偶然だからね」


「またまたご謙遜を」


 偶然を強調して言ったはずなのにダッジは信じてくれない。

 他の皆も誰一人として信じてくれないばかりかダッジの言葉に無言でうなずきつつ生暖かい視線を送ってくる始末。

 実にありがた迷惑な話である。

 とはいえ否定するのも面倒くさそうなのでスルー決定。


「そんなことより、いつまでもここに留まるのは危険だよ」


「そうでしょうか」


「生きていたはずの人間をアンデッドにしてまで目的を果たそうとする奴だからね」


「なるほど。人の道にもとるような手段に頼る輩は執念深いという訳ですな」


「そういうこと」


「では、さっそく引き返すとしましょう。少しお待ちください。馬車にこちらの馬をつなげます」


「おっと、馬車はここに残していくよ」


 うちの護衛たちがテキパキと動き始めたところでストップをかける。


「なんでですかぁ?」


 チャラ護衛が不服そうにしながら聞いてきたものの一応は止まってくれた。


「どうしてもだよ」


 理由はあえて説明しない。

 すれば納得してくれるだろうが、それでは情報漏洩の可能性を高めてしまう。

 それに移動するならやるべきことがある。

 俺は皆に背を向けた。


「あー、あー、聞こえますか?」


 端から見れば奇妙な光景だったと思う。

 見当違いの方を向いて話しかけているのだから。


「なんすか、急に?」


 チャラ護衛が怪訝な表情を浮かべて聞いてくるのも無理はない。


「聞こえてるに決まってるじゃないすか」


 俺はチャラ護衛の方を向いて両腕でバツ印のジェスチャーをした。

 話しかけた相手が違うからね。

 そのあたりの説明は省略して俺は再び皆に背を向ける。

 向こうも驚いて泡を食っているようだし対応に集中したい。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 屋敷の者たちに軽く事情を説明した後は執務室でシドの帰りを待ちながら書類仕事をしていた。

 相変わらず書式がバラバラなせいで効率が悪いことに苛立ちを覚える。

 これのせいでガルフはよくミスをしていた。

 その上、計算でも頻繁に間違えていたので領主代行は絶対に任せられないと思ったのも一度や二度ではない。

 にもかかわらず姉である自分からその地位を奪い取ろうとしていたのだから身の程知らずにも程がある。

 返り討ちにあって当然というものだ。


「愚か者め」


 吐き捨てるように呟いた言葉に家族の情はない。

 アレは人であることを捨て魔物に成り果てたのだから。

 人のままで行動を起こしていたのであれば少しは話も違っただろうに……


 ふと、自分が感傷的になっていることに気付いて苦笑する。

 ごくわずかにではあるが情は残っていたようだ。

 だからと言ってアレを許すつもりも家族として名を残すつもりもない。

 父に報告し承認されれば最初から存在しなかったことになるだろう。


「さて、物思いにふけっている時間は終わりだ」


 気持ちを切り替え再び仕事に取り掛かるべく伸びをしたタイミングで机の上にシドの使い魔であるリスタが猫の姿でピョンと飛び乗ってきた。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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