84 襲撃で終わりではなかったようで
「すまないが──」
ここでオリビア嬢が割り込むようにして俺に話しかけてきた。
「頼みがある。馬を2頭、貸してもらえないだろうか」
言ってくるだろうなとは思っていたんだよね。
向こうには馬車を引く馬さえ残っていなかったし。
「貸しても返却されないんじゃ困るんですけど」
「そんな真似は絶対にしない。エルブレイン家の家名にかけて誓う」
遠回しな言い方だと伝わらなかったか。
「死んでしまっては誓いも果たせないでしょう?」
「なっ!?」
そんなことは想像だにしていなかったのか仰け反って驚きをあらわにするオリビア。
「こんな露骨な襲撃を仕掛けてきた黒幕がこれで終わらせるとは思えないんですけどねえ」
おそらくは黒幕の目であったであろう鳥は消滅したので襲撃の第二陣が来るはずだ。
これだけのことをして証言者が残っているのは黒幕にとって良くない状況のはずだからね。
向こうの背景事情など知ったことではないけど、現状を見る限りにおいてはそうだと判断できた。
「そうだとしてもだっ。私はなんとしても姫様を王都に送り届けねばならない!」
あー、聞いてもないのにネタバレしちゃったよ、この人。
せめて「さる高貴なお方」くらいに言ってくれればスルーもできたのに。
どうしてトラブルに巻き込んでくれちゃいますかね。
「やめといた方がいいですよ。黒幕は絶対に城の中にいますから」
「なにっ!? 何を根拠にそんなことを言うんだ」
オリビアは血相を変えて聞いてくる。
ついさっき驚いていたのを見てるから、なんとなく予想はついていたけどね。
「根拠なら色々ありますよ。それらを総合的に見てですね」
鬼気迫る表情でズイッと身を乗り出してくるオリビア嬢。
これはすべて説明しろってことなんだろうな。
「まず召喚術者がいたでしょう」
俺の言葉に目を丸くさせるオリビア。
あれ、気付いてなかった?
「何故それを知っている?」
そっちか。
「あっちの丘の方から見ていましたからね。目はいい方なんですよ」
「あー、急にローブの奴が倒れたと思ったら坊ちゃんがやったんすね」
しばし話を聞いているだけだったうちの護衛が口を挟んできた。
「まあね。放置するとヤバそうだったから見えない攻撃魔法を使ったよ」
「いきなりでビックリしましたよぉ。んでもって助かりました。アザーす」
「騎士甲冑の連中もですか?」
軽い口調のチャラい護衛と同じようにぺこりと頭を下げつつも聞いてくるもう1人の護衛。
「ああ、そうだね」
スタンバレットが通用しなかったのには驚かされたけど。
逆にフラッシュミサイルが想像以上の結果を生み出したんだよな。
「あんな遠方から寸分違わぬ狙いで魔法を……」
オリビアは愕然としてしまい言葉が続けられないようだ。
「うちの坊ちゃんはスゲー魔法使いなんですぜ」
ドヤ顔で胸を張るチャラ護衛。
「なにせ、あのミューラー伯爵家の一員ですからねえ」
もう1人の方の護衛も同意するようにうなずいている。
頼むから人を勝手に持ち上げて目立たせないでくれと言いたい。
「そうだった……」
オリビアは思い出したかのように納得している。
それだけネームバリューがあるってことなんだろう。
おかげで多少の信用は得られたようだけど俺自身の功績じゃないことは肝に銘じておかないと。
「話はそれたけど、腕のいい召喚術者に加えて騎士装備で固めた連中を差し向けてくる奴がそこらの盗賊や傭兵くずれの訳ないですよ」
「坊ちゃんの言う通りっす。アイツら正規のそれも同じ訓練を受けてますからね。そんなのが刺客になるなんて普通じゃねーすよ」
「同じ訓練受けてるなんてこと、よく分かったね」
さすがに感心させられてしまう。
「太刀筋が同じで連携まで完璧なのに分からねーはずねえっすよ」
観察に基づく的確な分析だったか。
「当然だろう」
不機嫌さを隠すこともなく吐き捨てるようにオリビアが言った。
何事かと俺たちの注目を集めたところで──
「奴らは姫様に襲いかかるまでは護衛を務めていたのだから」
とんでもない爆弾発言をしてくれましたよ?
つまりは近衛騎士だった訳か。
道理で装備が整っている訳だ。
ただ、もはやキナ臭いどころの話ではなくなってきた。
同行した近衛騎士が見習い以外すべて裏切り者に成り果てるなど前代未聞もいいところだ。
「ますます黒幕は王城内にいるのが確定的になったと思うんですが」
俺の意見にオリビアは反論してこなかった。
本当は最初から薄々そうだと気づいてはいたんだと思う。
できればそうであってほしくないという気持ちが否定させていたと見るのが妥当ではないだろうか。
「姫様を襲う者が待ち構えていたとしても行かねばならない。姫様を救える者もあそこにしかいないのだ」
どうやら馬車に乗っているお姫様はなにかしらのトラブルを抱えているらしい。
「姫様は突然の病に伏せってしまわれた」
そういうことですか。
「並みの魔導師や神官では治療もままならず原因すら分からずじまいだった」
「なら、どうして王城から遠く離れた場所に居たんすか?」
チャラ護衛が当然の疑問を口にした。
「陛下の名代として視察に出向かれた先で倒れられたのだ」
それならもっと騒ぎになっていると思うのだが箝口令でもしかれたかな。
まあ、そういう大人の事情になりそうな点についてはどうでもいい。
今の俺は子供だし。
「それなら坊ちゃんに診てもらえばいーんじゃないっすか」
チャラ護衛がとんでもないことを言い出したぞ。
相方も同意するようにウンウンとうなずいているし。
それを見聞きしたオリビアがギョッとした表情で俺のことを見てくるんですが?
こんなの完全否定する訳にもいかないじゃないか。
「坊ちゃんは何でもできる本物の天才っすよ」
「使えない魔法がないと断言してしまえるくらいスゴいからなぁ」
うちの護衛たちは俺をなんだと思っているんだ。
「本当なのか?」
何かにすがるような目をしたオリビアが俺に聞いてくる。
「何がです?」
「使えない魔法がないというのは本当なのか?」
「それはいくらなんでも言い過ぎですよ」
この返答にオリビアは納得すると同時に酷く落胆した様子を見せた。
さすがに、そういう姿を目にすると罪悪感が湧き上がってしまう。
「使える魔法の属性に制限はないですけどね」
「は?」
訳が分からないという顔で固まってしまうオリビア。
「いくらなんでも……」
設定が盛りすぎだとでも言いたいのだろうか。
「別に騙すつもりなどありませんよ」
言いながら右手の指先に炎、水、光、風、砂の小さな球体を同時に生成する。
「────────────────────っ!!」
オリビアは信じられないものを見たとばかりに声も出ないほど驚愕していた。
威力を抑えることにばかり気を取られたけど5属性同時展開は非常識だったか。
待つことしばし。
どうにか気を取り直したオリビアが「んんっ」と喉を鳴らした。
「シド殿」
「なんでしょう?」
「治癒魔法も使えるということでよろしいか」
そこはちゃんと確認しないと安心できないだろうな。
「ええ。深手を負った動物に上位の魔法を使ったこともあります」
人間相手では使う機会に恵まれなかったので効果のほどを確かめたくて狩りをしたついでにだけどね。
「なんと慈悲深い……」
妙な勘違いをされてしまったみたいだな。
それを説明をする必要性も感じなかったのでスルーしたけれど。
読んでくれてありがとう。
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