83 新たなトラブルの予感
「嘘だろ!?」
スタンバレットは敵の騎士どもすべてに命中させたはずだ。
にもかかわらず、どいつもこいつも着弾時に軽くふらついただけ。
電撃をくらっても何事もなかったかのように動いているのが信じられない。
「魔法耐性が付与された鎧なのか?」
思わずそう呟いてしまう。
が、それは考えにくい。
どう考えてもリーダー格であるとおぼしきローブ姿の輩は簡単に死んでしまったからね。
奴の方が良い防具を装備していないとは考えにくい。
物理攻撃に関しては騎士どもに守られるから無視していたとしても、魔法に対する防御はあのローブに付与されていても不思議ではない。
少なくとも俺が奴らを差し向ける立場であれば相応の装備を渡している。
魔物を召喚して多勢に無勢の状況を作り出す襲撃の要とも言うべき存在なんだし。
それが単発の魔法で簡単に始末されたんじゃ目も当てられない。
だとするなら最初から魔法対策は一切していなかったと考える方がうなずけるというものだ。
いずれにせよ電撃は通用しないことだけは確かだ。
ならば別の手を考えるべきだろう。
電撃がダメでも無力化する方法は他にもある。
「今度こそ」
次に使ったのもライフル弾を模した魔法だ。
着弾すると外殻が破裂してゲル状の中身が広がってへばりつくのも同じ。
そこから先の効果だけが異なりゲルが覆い被さった内側に閃光を発する。
音のしないフラッシュグレネードみたいなものだ。
その名もフラッシュバレットとまんまなネーミングなのは御愛敬。
「ちっ」
撃ち出そうとして思わず舌打ちしてしまった。
効果の都合上、ヘルメットのそれもフェイスガードの部分に当てる必要があるからだ。
甲冑の何処かに当てれば良かったスタンバレットより難易度は格段に高くなっている。
この緊急時にあえて難しいことにチャレンジするつもりはない。
フラッシュバレットの術式に手を加えて難易度を下げた。
見た目は変えないがロックオンした対象を自動で追尾するように変更。
昔の映画に標的を追尾する弾丸を撃つ銃を使っていた敵がいたのがヒントだ。
名付けてフラッシュミサイル。
センスがないのは分かっているさ。
撃ち出すのは弾丸なのにミサイルとはこれ如何にってね。
術式が完成すれば、さっそく使う。
騎士ども全員のフェイスガードに照準を固定。
その数だけ生成される弾丸。
それを一斉に射出したが狙い違わず全弾命中。
必中のホーミングミサイルみたいなものだから、それが当然なんだけど。
スタンバレットと同じように弾が破裂しフェイスガード前面を覆った。
これだけでも無力化したに等しいが、それだけで終わるならヘルメットを脱げば済む話だ。
もちろん、そんな訳はない。
次の瞬間には付与した効果が発動し、わずかな隙間から光が漏れ出す。
そして、ビクリと騎士どもが痙攣したかと思うと動かなくなった。
「ん?」
騎士どもが動かなくなったのとほぼ同じタイミングで馬車の上空を旋回するように飛んでいた鳥が落下してきた。
まるで銃で撃たれたかのように。
どういう訳か騎士どもにダメージを与えたら鳥にもダメージが入ったらしい。
漏れた光で目にダメージを受けた?
近くにいたうちの護衛たちがそれらしいダメージを受けていないんですが?
そこまで派手に漏れていた訳じゃないからね。
「もしかして使い魔?」
騎士どもの襲撃を確認するために使役していたのかもしれないと、そんな風に思ったのだ。
ほとんど勘のようなものだったが、不思議とそれが正しいような気がした。
攻撃していないはずの鳥が同時にダメージを受けている事実については何も分からないどころか推測することすらできなかったけれど。
なんにせよ、そう思ったことで俺は反射的にスタンバレットでその鳥を撃った。
使い魔に監視されていたなら復活されても困る。
全滅同然の状況を察知されて増援を送られても面倒だからね。
今なら騎士ども全員が無力化されたことには気付かれていないはず。
それに他の役割があってもおかしくない。
例えば使い魔を介して騎士どもに魔法防御の魔法をかけていたとか。
あるいは、襲撃者たちが全滅した場合に備えた攻撃手段のひとつであったりとか。
鳥1羽でどれほどの攻撃ができるのかと思うかもしれないが、魔法を使ったり自爆させたりすれば無視できなくなる。
弾丸は鳥に命中すると破裂して電撃を浴びせた。
耐えられた場合を想定して次の魔法をスタンバイしていたが、それは杞憂だった。
鳥は地面に落下する前に霧散したからね。
やはり、俺の直感は間違っていなかったか。
念のため他に監視している何者かがいないか魔法で索敵してみた。
けれど生き物の反応も魔力の流れが他と違うような所も無い。
それならと光学迷彩を解除して再びバイクで走り始める。
今の状態でうちの護衛たちと合流したくないんだけど仕方ない。
皆を王都に向かわせてしまうとガルフの件を現在進行形の案件として報告されてしまうからね。
それだけは阻止しないと。
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「坊ちゃん!?」
「どうしてここに!?」
程なくして襲撃現場に到着した俺は驚きを持って護衛たちに迎えられた。
「迎えに来たんだよ」
それ以上、言わせるなと目で語れば察してくれたようだ。
どうなったとか何故なのかと聞かれずに済んだのはありがたい。
この場にいるのは俺たちだけじゃないからね。
「すまないが──」
そう言いながら割り込んできたのは軽装の女騎士だった。
馬車の一行として随行している護衛だろう。
ただ、それらしい人員を他に見かけないのは不思議だった。
死体すら見当たらない。
「君は誰だ?」
訝しげに誰何してくる女騎士。
「僕はミューラー伯爵家の次男、シド・ミューラーですが」
危うく三男と言ってしまいそうになったよ。
オルランが存在ごと消滅してしまった今となっては、それではおかしいのでどうにか踏み止まった。
これからは注意しないとね。
「っ! これは失礼。自分は近衛騎士見習いのオリビア・エルブレインだ」
「そうですか。よろしく」
手を差し出そうかと思ったけど向こうが警戒心を残したままなのでやめておいた。
敵は全滅させたというのにピリついているのはなんなんだろうね。
まだ何かあるのか?
だとしても詮索するとロクなことにならない気がする。
深入りせずに、さっさと皆を連れ帰るのが正解なんだけど……
「ダッジは?」
護衛隊長が何処にいるのか護衛たちに聞いてみたのだけど。
「若様っ」
護衛たちが答える前にダッジの方から来てくれた。
「どうなさったのですか?」
「状況が変わったから迎えに来たんだよ」
「エレオノーラ様は」
「屋敷で掃除の後片付けをしている」
部外者に余計なことを知られたくないから言葉を選んだ。
これで伝わればいいんだけど。
「……そうですか」
しばし考え込む間はあったもののダッジには充分通じたようだ。
が、しかし。
「このまま帰るという訳にも……」
ですよねー。
ダッジは背後の馬車を気にしているけど無理もない。
向こうの護衛はオリビア嬢しか残っていないみたいだし足となる馬もうちの護衛たちのものしか残っていない。
よく馬車が無事だったなと言いたいくらいである。
車輪は大きく破損しているけど、馬車の被害はそのくらいのものだ。
こんな状況で「はい、さようなら」とお別れなんてできる訳がない。
読んでくれてありがとう。
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