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82 追いついたと思ったら

 朝早いとは言え街を出るまでの間にそこそこ目撃されたと思う。

 猛スピードで走り抜けたので、いちいち確認はしなかったけどね。

 そんなことを気にしている暇があったら運転に集中すべきだ。

 事故っては元も子もないんだし。


 その割には安全性を無視した全開走行なんだけど。

 車の時のように同乗者はいないからセーブもしていない。

 最初の方こそ事情が事情なのでしょうがないと自分に言い訳していたけれど、街を抜けた頃にはそれすら雑念として切り捨てるように考えなくなっていた。


 何度も言うようだけど良い子は真似をしてはいけません。

 一歩間違えば悲惨な事故になるのは目に見えているからね。


 もっとも、俺の場合は万が一の場合に備えて特殊な結界でガードしているから怪我をすることはないだろう。

 バイクの車体ごと覆っているので損傷もしないはずだ。

 想定外の衝撃を受ければ話は違ってくるかもしれないけど、防御力にはかなり余裕を持たせてあるので滅多なことはないと踏んでいる。


 そう言うと、どんなスゴい結界なんだと思われそうだけどクッション性のある層をいくつも挟み込んで積層構造にしているだけである。

 ちょっとした工夫みたいなものだ。

 この結界のために消費した魔力もすでに回復済みなので言うほど大層な魔法ではない。


 そのぶん何かと衝突するようなことがあれば何枚かは壊れると思う。

 ガチガチにすると衝撃を吸収しきれずに俺が怪我をすることになるし、あえてそうしているところはあるけどね。

 言ってみれば車の衝突安全ボディのような結界だ。


 今回は間の層を壊れやすくしてあるけれど、あえてハード層を強固にすると通常の結界よりも防御力が上がる。

 この場合のイメージは複合装甲に近いかな。


 いずれにせよイメージが複雑になるから展開時の制御が困難となるため上級を超える特級相当の魔法だ。

 一方で同程度の強度を持たせた単純な結界よりも消費魔力は少ないから気軽に使える。

 まあ、制御できればの話だけどね。

 制御面だけで言えば、もうひとつ上の超級に分類されてもおかしくない。


 これだけの安全措置を取っているので普通に考えれば無謀なスピードを出していても心理的には余裕がある。

 でなければ、さすがに精神的に疲弊して早い段階でヘロヘロになっていたことだろう。

 ノーミスが絶対条件だからね。


 どのくらいの距離を走っただろうか。

 アスファルトじゃない上に路面状況は良いとは言えない状態だったので思ったほど距離を稼げていないのがもどかしい。

 それでも馬で走るよりも何倍もスピードは出せているはずなので、そろそろ追いついてもおかしくないと思うのだけど。


 こんなことならリスタを分体させて先行偵察させながら走れば良かった。

 悔やんでも今更だ。

 致命的なミスという訳でもないので気にしない。

 ただ、この後の状況に冷やっとはさせられたけどね。


 それは小高い丘を越えた直後のことだった。

 勢い余ってジャンプしたのは御愛敬。


「あれはっ!?」


 空中で目撃した遠方の出来事に反応して光学迷彩の魔法を迷わず使う。

 もしかするとジャンプ中の姿を目撃されたかもしれない。

 だが、向こうは俺のように視力を魔法で強化したりはしていないだろう。

 仮に何らかの方法でこちらの姿を視認していたとしても消えた後の動きは追えないはずだから、これでいい。


 それにしても、なんでうちの護衛たちはトラブルに巻き込まれているんだろうね。

 完全に足止め状態だ。

 まあ、そのおかげで想定よりも早く合流できそうなんだけど。


 問題があるとすれば謎の集団と戦闘になっていることだな。

 停車した箱馬車の周囲に陣取って襲いかかってくる連中と戦っていた。

 普通に考えればこういうのは盗賊の仕業なんだけど、あまりにも違和感がある。


 世の中には傭兵崩れの盗賊団もいるとはいえ騎士のような甲冑を身にまとった連中が襲撃者だというのが何よりも変だ。

 しかも、その背後に魔法使いのような出で立ちをしたローブ姿の奴が控えている。

 どう見ても魔法使いだろう。

 ピンからキリまでいるとはいえ、ああもあからさまな格好をしているなら相応の実力はあるはず。


 これで自分たちは盗賊団だと言われても、はいそうですかと鵜呑みにはできない。

 おまけに襲撃の主体は魔物のようだ。

 何処から引き連れてきたのかは知らないが、ウジャウジャと群がって守備側を包囲している。


 その外側を囲うようにして待機しているのが騎士もどきの連中である。

 魔物の包囲網を強引に切り抜けてきた場合に対処する陣形だ。

 どうやら何がなんでも馬車の中にいる何者かを抹殺したいらしい。

 それを邪魔しようとするうちの護衛たちも抹殺対象になっているのは間違いない。


「良かろう。ならば戦争だ」


 俺は下り坂の途中でバイクを停車させた。

 人差し指で魔法使いを指差す。


「まずはお前だ」


 指先がキラリと光った次の瞬間、ローブ姿の輩は糸が切れた操り人形のように倒れ込んだ。

 戦いの喧噪と奴自身は後ろに控えていたのが災いしたようで騎士もどきどもは気付かない。


 もっとも、魔物たちがうちの護衛たちに次々と倒され数を減らしていくと連中も何かがおかしいことに気付いたようだ。

 それまでは魔物が切り伏せられても死体を残さず姿を消し入れ替わるように新たな魔物が出現していたからね。


 つまり、あのローブ姿の輩は召喚術士だったってことだな。

 あれを先に仕留めて正解だったようだ。


 ただ、多少の間はあったが襲撃側も特に狼狽えた様子を見せることもなく待機状態から臨戦態勢に切り替わった。

 練度は低くないようだ。

 もしくは指揮官がそこそこ有能なのか。

 いずれにせよ今のままではうちの護衛たちの方が不利だ。


 魔物がいなくなれば数は互角のようだけど騎士たちは全身甲冑で身を守っているのに対し、うちの護衛たちは軽装である。

 おまけに無数の魔物と戦い続けて疲労も蓄積しているはず。

 まだまだ俺が加勢しないといけないだろう。

 できれば馬車に乗っている誰かさんとは関わりになりたくないのだけど。


「仕方ない」


 騎士どもは全員潰そう。

 尋問する必要もありそうだから殺さない方向で。

 となると、さっき使ったマジックレーザーの魔法は点の攻撃だから使いづらい。


 ちなみにマジックレーザーとは、なんちゃってレーザーを発射する攻撃魔法である。

 目に見えず光の速度で針のように細い熱線が対象に向け瞬時に飛んでいくので、そう命名した。

 今回は初使用なので発射したことが確認できるよう一瞬だけ光らせたが光らないようにすることも可能だ。


 さて、騎士どもを無力化する魔法なんだけど、これも新魔法だ。

 全身甲冑なんてものを着込んでいるなら大いに利用させてもらうよ。


 使う魔法はスタンバレット。

 一見するとライフル弾のようであり魔法の力で撃ち出すものの貫通力は無いに等しい。

 ただし、着弾すると外殻が破裂してゲル状の中身が着弾対象にへばりつき強力な電撃を見舞う。

 金属甲冑なんて着込んでいたらひとたまりもないだろう。

 死なない程度に威力は調整したから、もしかすると耐える奴もいるかもしれないが平気ではいられまい。

 あとはうちの護衛たちが無力化してくれるさ。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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