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81 問題はひとつじゃなかった

 超長距離の転移魔法による帰還は無事果たせた。

 それだけで安堵し何もかも投げ出して休みたくなるところだ。

 もう明け方だからね。


 残念だけど休んでいられないのが現実である。

 ここからが本番だと言っていいくらい問題が待ち構えているせいでね。


 そのうちのひとつはガルフが骨と皮だけの姿になってしまったことである。

 ガルフの転移魔法陣に座標を追加しただけだったのが影響したか。

 大本の術式に無駄が多いせいで消費魔力量の見積もりが大幅に狂ってしまったのは想定外だ。


 偶然で帰還できた言い訳のために奴の魔法陣をコピペで利用したとはいえ術式を細かくチェックしなかったのは反省しなければならない。

 まあ、反省したところでガルフが元の姿に戻ることはないんだけど。


「さすがに死んでしまったようね」


「人間の基準ではそうなりますか」


「まさか!? 生き返るというの?」


「血をかければ復活してもおかしくないですよ」


「当に人間をやめてしまったのね」


 姉は苦々しさを隠そうともせず吐き出すように言った。

 愚かな選択をした弟への侮蔑とわずかに残った情が入り交じっているように感じる。


「下手に人前には出せないわね。シドのスライムで溶かすことはできないの?」


「マズいから嫌だそうです」


「困ったわね」


「消滅させていいなら、そうしますが?」


「できるの!?」


「許可がもらえるなら」


「お願い。今のままだと余計な揉め事の元にしかならないわ」


 という訳でリスタに吐き出させたガルフをディスインテグレイトの魔法でチリすら残さず分解した。

 これで、ようやく問題がひとつ解決したのだけれど。

 生憎と問題はひとつだけではない。


「屋敷の方で動揺が広がっているようですよ、姉さん」


 大きな騒ぎにはなっていないものの、そういう気配がする。

 日が暮れても姉が帰ってこなかったのだから当然の反応だろう。


「そんなことが分かるの!?」


 俺の指摘にエレオノーラは目を丸くさせていた。

 が、周辺に気を配っていれば気配で察することができたはずだ。

 姉くらいの達人であればね。

 強制転移させられた際の影響が残っているのかもしれない。


「こんな時にっ」


 姉は苦々しげな表情を浮かべ歯噛みする。


「そちらは姉さんでないと対処できないでしょう」


「でもっ」


「護衛たちを追って説得するのは僕にもできますよ」


「そうだったわね」


 断腸の思いがあると言わんばかりに沈痛な面持ちを見せるエレオノーラ。

 停車したままのゴーレムSUV車をチラリと見やった。


「車は使いませんよ。大きくて目立ちますからね」


 それは乗って屋敷に戻ってくる際に痛いほど実感させられた。


「まさか自転車で追うつもりじゃないわよね!?」


 他に手段がないならそうしたかもね。

 身体強化を使えば馬を追うくらいなら不可能ではない。

 疲れるから、やらないけど。


「それこそ、まさかですよ」


 姉からすると単に疲れるだけでなく限界を超える無謀な行いに思えたのだろう。

 でなければ驚きながら確認してきたりはしないはずである。

 思わず苦笑させられてしまう。


「じゃあ、どうやって──」


「2輪車を使います。オートバイと言うんですけどね」


 追うつもりなのかと続いたであろう姉の言葉を遮って先に答えた。


「え? オート……、なに?」


 聞き覚えのない単語に困惑する姉。


「オートバイです。自動車と自転車を融合させたようなものだと思ってくれればいいですよ」


「そんなものが……」


 姉は唖然として言葉を続けられずにいたが、ふと我に返る。


「いつの間にオートバイ……」


 それで間違いないとうなずきを返す。


「を作っていたの?」


「車を作るついでに、ですよ」


 再び唖然としてしまう姉である。


「とにかく護衛たちは僕が追います。屋敷の方は姉さんがなんとかしてください」


 言いながら書庫の中に飛び込んでいく。

 姉の前でストレージから引っ張り出す訳にはいかないから建物の奥に仕舞い込んでいる体で出してくる必要があるからだ。


 念のためタイミングを見計らってバイクを押しながら書庫から出る。

 案の定、状況的に即応しなければならないはずの姉は場に残って待っていた。


「姉さん、のんびりしていていいんですか? 下手すると、ここからも早馬が出されるかもしれませんよ」


「そんなのは戻ってくるアナタたちが止めてくれるでしょ」


 そういうことか。

 向かう方向は同じなのだから俺の方が速い。

 確実に追い越すだろうし、王都に向かった護衛たちを止めて戻ってくれば嫌でも鉢合わせするよねって話だ。


「それに、シドの出陣くらい見送りたいじゃない」


「出陣って……」


 大袈裟がすぎるんですけど?

 まあ、今はそんなことを気にしている場合ではない。


「これがオートバイ」


「呼びにくいならバイクでもいいですよ。自転車もバイクと呼ぶので紛らわしいことがありますけど」


「これで本当に追いつけるのかしら」


 車と比較すると明らかに小さいことから姉は心配しているようだ。

 オフロード主体のアドベンチャーバイクのようなデザインにもかかわらず10才児である俺の体格に合わせたから原付のようなサイズ感になってしまったのが原因だろう。


「御心配なく。車よりずっと軽いですし乗るのは僕1人だけですから」


 正直に言うと、これは初期の試作型なので走っている途中でガス欠ならぬ魔力切れを起こすと思う。

 ただ、そこは俺自身の魔力で補うので大丈夫だ。


「そう、わかったわ。気をつけて行ってらっしゃい」


「はい」


 俺は返事をしながらサッとバイクにまたがった。


「リスタはここに残していきますので連絡したいときは話しかけてください」


 念のためリスタには黒猫に擬態させておく。


「あら、可愛いのに化けたのね」


「これなら屋敷の人たちも抵抗は少ないでしょうから」


「むしろ、スライムのままの方がいいわよ」


「そうですか?」


「後でスライムとバレたら印象が悪いでしょ」


「なるほど」


 それならと、スライムの質感を残した状態で猫の形態を取らせた。

 半透明なので動かなければガラスの置物のようにも見える。


「猫にこだわるわね」


「移動させやすい姿の中で威圧感がないものを選んだだけですよ」


「そういうこと」


 姉も納得してくれたようなので──


「では、行ってきます」


 俺は姉の返事を待たずにバイクのアクセルを開け急加速で走り始めた。


 その後、屋敷ではエレオノーラが戻ってきたことで使用人たちの動揺は即座に収まった。

 同時にリスタの紹介もしてくれたが大きな混乱は生じていない。


 歓迎はされなかったが。

 テイムされているとはいえ魔物だもんな。

 最良の反応でスルー、最悪で若干の嫌悪感を抱きつつも拒絶はされないといったところか。


 書庫暮らしの俺にしてみれば排除だとか抹殺だとかを要望されないだけで上出来だ。

 あとは印象を悪化させないように注意していれば大丈夫だろう。


 なお、バイクをかっ飛ばしながら屋敷の様子をうかがうのは危険なので良い子は真似をしてはいけません。

 おまけにノーヘルだし。

 しかも、ここが日本だったら制限速度超過も追及されるのは確定的だ。


 護衛の面々を追うためなので勘弁願いたい。

 向こうは馬なので休ませるためにも夜通し走ったということはないはず。

 馬が潰れてしまうからね。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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