80 ちょっとした工夫で時短する
「効果の方はどうです?」
ポーションガムを利用する上で最も大事なのはこれだ。
試作品だからね。
自分でも試したけど子供と大人では効果も違うだろうし。
そもそも俺は自分で言うのもなんだけど普通の子供じゃないというのもある。
それ故、姉に使用感を聞いてデータを蓄積するのはとても重要だ。
期待した効果が得られず味がよろしくないだけで終われば踏んだり蹴ったりと言う他ないんじゃないかな。
姉の様子をうかがうが、キョトンとした顔をしていた。
「いつの間に……」
液体ポーションのような即効性がないので聞かれるまで効力を発揮していることに気付かなかったようだ。
「液体のポーションと違って効き目がパッと現れてくれないんですよ。日持ちはするんですけどね」
「一長一短なのね」
そうなんだけど時短は喫緊の課題だ。
疲労回復だけならともかく、魔力回復が急がれるような状況では悠長にガムなど噛んでいられまい。
他の効力のポーションの場合は命の危機に直結することだってある。
「今のところ、これが限界です」
「充分じゃない? 携帯性も高い上に保存容器に気を遣わなくてすむのは小さくないわよ」
「状況によると思います」
解毒や怪我の治療で使われるポーションだと一刻を争うことだって間々ある訳だし。
「これで完成じゃないんでしょ。改善できるならいいじゃない」
できるならね。
今でも最初の試作品よりは大幅に時短したものなのだ。
これ以上となると、コストに跳ね返ってくるのは目に見えている。
あちらを立てればこちらが立たずという訳だ。
悩ましいものである。
「とにかく、これなら帰ることができるわ。急ぎましょう」
今度こそ反対する理由がないので行動に移る。
キマイラを倒した時点でリスタを念話で呼んだので、じきに姿を現すだろう。
という訳で魔法陣を展開する場所の確保にかかる。
キマイラが陣取っていた場所であれば広さも申し分ない。
海岸ではなく、こちらに来て正解だったな。
とはいえ問題がゼロかというと、そうではなかったりする。
石畳が波打っていたり隙間から雑草が生え放題だったりと荒れているのが一目瞭然の状態だったからね。
キマイラに接近戦を挑んでいたらどうなっていたことか。
足場の悪さにバランスを崩して転倒したり、なんとか踏ん張れても大きな隙ができるから奴の攻撃をまともにくらったりは充分に考えられる。
バランスを崩さなくても機動力は確実に削がれてしまう。
向こうは四本足で二本足の俺たちより踏ん張りがきくから圧倒的に不利だと言わざるを得ない。
そう考えると俺たちは正しい戦い方をしたと思う。
もっともノー整備で使える状況ではないので手放しで喜べる段階ではない。
「まずは草をすべて引っこ抜かないと」
「魔法で燃やしてしまった方が早いんじゃない?」
「森に飛び火するのが怖いんですよね。生えている草を燃やす場合はそれなりに火力を高めないといけませんから」
水分を含んだ草は意外に燃えにくいものだ。
「あー、短慮だったわ」
なんとしても早く帰りたいという焦りがそうさせたのだろう。
それを思うと姉のことは責められない。
帰還が遅くなればなるほど問題が大きく多くなっていくからね。
「でも、石畳に魔法陣なんて描けるものなの?」
姉が疑問を呈してきた。
「波打ってなければ」
正確に魔法陣が描けないからね。
それ以前に邪魔な草を除去しないことには始まらない。
故に闇系統の魔法で草を枯らしてみようかと思ったのだけど……
「どうしたの?」
不意に考え込んでしまった俺を不思議そうに見てくるエレオノーラ。
とはいえ、そんなに長々と考え込んだ訳でもないのだが。
それだけ姉には気にかけてもらえているということだろうか。
ありがたいことだよ。
数多ある前世の中でも、そういう機会に恵まれたことは数えるほどしかないからね。
とはいえ先代よりはマシなのか。
幾度となく人生をやり直していたにもかかわらず、ついぞこのような機会は訪れなかったのだから。
そんな俺より酷かった先代のことを思うといたたまれない気持ちになってしまう。
とはいえ、いまシド・ミューラーなのは俺だ。
過分な同情はしない。
気持ちを切り替えて、ふと思いついたアイデアを提案してみることにする。
「ここには戻ってきませんよね」
「ええ。家に帰れたのは偶然だったことにしておきましょう。余計なトラブルは御免よ」
姉も俺と同じ考えのようで助かる。
「では、ここを整備する必要はないですね」
転移魔法を使って舞い戻ることがあるなら整地しておくべきだろう。
転移が成功しても直後にバランスを崩し転倒する恐れがある。
それで頭を打って死んだりしたら目も当てられない。
「何を言ってるの、シド? こんな場所で正確に魔法陣なんて描けないでしょ」
姉は困惑の表情とともに慌てた様子で聞いてくる。
「それがそうでもないんですよね」
「どういうこと?」
「何事も工夫しだいということですよ、姉さん」
論より証拠と俺は地面と水平に半透明の結界を展開する。
石畳に当たらないよう余裕を持たせたので段差として考えると大人でも高く感じると思う。
それでもいくつかの雑草が結界の高さを超えているため自然と草刈りをしたも同然の結果になってしまった。
「結界で草刈りとはユニークな使い方ね」
エレオノーラは感心して笑っているが、それがメインの目的ではない。
俺は魔法で強風を吹かせて刈り取った雑草をすべて吹き飛ばした。
間を置かずに光属性の魔法を使う。
結界の上に魔法陣を展開するためだ。
「これがシドの言う工夫だったのね」
それは囁くような姉の呟きだったが、しっかりと俺の耳に届いた。
工夫とは言ったが俺のオリジナルという訳でもない。
前の世界でアニメとかマンガだと空中に魔法陣を描いたりすることが普通にあったから、それを応用したまでだ。
転移魔法陣でなければ結界の上に描いたりはせず端から邪魔な草よりも高い位置に展開させただろう。
魔法を発動させるだけなら、それで充分。
ただ、転移となるとそうはいかない。
魔法陣の上にあるものだけが転移させられてしまうからだ。
半端な高さに転移魔法陣を展開すると上下で泣き別れになってしまう。
そういう事故を防ぐために台のかわりとなる結界を用意したというわけだ。
「後は魔法陣の上に乗って必要な魔力を注ぎ込むだけです」
「魔力は足りるの?」
「供給源がありますからね」
もちろん、ガルフのことだ。
魔力はリスタがかなり吸収したからなんとかなるだろう。
足りなければ奴の生命力を魔力に変換する手はずになっている。
ガルフが死んでしまうかもしれないが、その時はその時だ。
姉を亡き者にしようとしたのだから自業自得である。
今回の件が知られたならガルフに殺意はなかったと考える者もいるかもしれない。
俺たちは転移させられただけだからね。
だけど、あの男は家督相続に執着していたし、あわよくば死んでくれと思っていたはずだ。
故にランダムで転移を仕掛けた訳だ。
これなら一瞬だし証拠も残らない。
それで事故が起きれば儲けものってね。
仮に事故がなくても超遠距離の転移だから普通は生きている間の帰還は無理だと考えたに違いない。
毒殺だと屋敷の外で実行するのは難しいため目撃される可能性も高くなる。
その上、死体が残るのでは脳筋のガルフには荷が重い。
だから遠方に強制転移させて行方不明からの死亡扱いに持っていく。
オルランの行方不明がヒントになったのだろう。
転移魔法陣もオルランの部屋を漁っていて資料があることに気付いたものと思われる。
実行に移すまでは悪運が強かったと言えそうだ。
詰め切れなかったけどね。
読んでくれてありがとう。
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