77 廃墟へ向かう
万全とは言えないながらも、あれこれと対策して廃墟へと向かう。
すっかり日も暮れてしまっているので魔法で視力を強化中だ。
野宿して昼間に来た方が作戦遂行する上において安全性は言うに及ばず確実性が高まるのは百も承知である。
こういう密林では魔物にせよ獣にせよ夜行性の奴らが多いからね。
それでも無理を通したのは早く帰還したいという思い以上に時間をかけられない事情があったからだ。
ぶっちゃけ食料がない。
こんな場所に手ぶらで跳ばされたんだからお手上げだ。
今夜中に転移魔法陣を展開できる場所を確保できなければ数日をつぶす覚悟で方針変更しなければならないだろう。
つまり海岸へ向かうということだ。
その場合は食糧を確保するところから始めないといけない。
寄り道は必須となり余分に時間を取られてしまうのは仕方がないとはいえ業腹だ。
思わず廃墟のあたりで開けた場所がありますようにと願ってしまう。
あと、敵が強くありませんようにとも。
そちらについては期待を込めれば込めるほど願い損になるくらい望み薄であるのは承知の上だ。
それでも軽く願うだけなら損にはならないさと割り切っている。
こんな些細なことでリラックスできるのだから、むしろ安い買い物だろう。
ちなみにリスタは泉で留守番してもらっている。
抜け殻同然のガルフというお荷物を抱え込んで魔力を吸い続けているため戦闘になった場合は足手まといになることが予想されたからだ。
それに分体が擬態したフクロウで上空からの牽制をしてもらうという大事な任務もある訳だし。
そんなこんなで密林の中を歩き始めたのだが、じきに違和感を覚えることになった。
「シド、気付いてる?」
姉が下を見ながら聞いてきた。
「ええ。廃墟に向かって一直線に通れるようになっていますね」
まるでかつては道があったかのようだ。
さほど幅がある訳ではなかったが人が並んで通れるだけのスペースがあるのはありがたい。
「この先にある廃墟というのは何かの儀式を行う場だったのかもしれないわね」
「それはまた、どうしてでしょうか」
何を根拠にして導き出した答えなのかはぜひとも知りたいところである。
「どう考えても、これは道よね」
「ええ。舗装されてないですが獣道と言うには直線的すぎますし」
掘り返せば石畳が出てくるかもね。
だとしても延びた道の先にあるのが儀式場?
飛躍しすぎじゃないですかと問いたくなったさ。
「じゃあ、どうして泉まで道を作るのかしら?」
そう問いかけられてハッとした。
「儀式の前に清めるため……」
それなら離れた場所に儀式場を作らず泉のそばに作ればいいと思うかもしれない。
だが、それでは泉が不浄にさらされる恐れが出てしまう。
特に穢れを祓う儀式などは、そのリスクが大きい。
「そう考えるのが妥当よね。確証はないから根本的に違うこともあるかもしれないけど」
だが、こういう場合は最悪を想定しておくべきだろう。
「そうなると儀式によって生み出された何者かが待ち受けているかもしれません」
「だとすれば嬉しくないわね。このあたりを縄張りにしている魔物が廃墟で陣取っている方がマシよ、きっと」
姉の言うことにも一理ある。
こんな場所で生み出される何かが近隣の魔物より弱いというのは考えにくいからだ。
少なくとも創造者もしくは召喚者を守りきるくらいの力はあると見ておくべきだろう。
廃墟から出てきてリスタの分体を追おうとしないのも守ることが目的ならば納得できる。
「もしかすると生み出した側の誰かもいるかもしれないですね」
「それは無いんじゃないかしら」
「生きているなら儀式場を廃墟にするはずがないと?」
「わかっているじゃない」
フフッと不敵な笑みを浮かべる姉。
「だからと言って向こうにいるのが単独とは限らないけど」
姉は敵の数が多いほど歓迎するような雰囲気を出しているけど俺としては単独であってほしいと願ってしまう。
手間が増えれば帰還もそれだけ遅れるのは言わずもがなだし。
「勘弁してくださいよ。帰るのが遅れると面倒なことになるんですよ」
「そうかしら?」
姉は不思議そうに聞いてくるが忘れているのだろうか。
「ダッジたちを父のものとに向かわせたじゃないですか。彼らに追いつけなかったら騒ぎが大きくなりますよ」
「あー、そうだったわね」
嫌なことを思い出したとばかりに不機嫌そうな顔をするエレオノーラである。
「そうなると腰を据えて攻略法を検討するなんて夢のまた夢よね」
そんなことを考えていたのか。
姉は思っていた以上の戦闘狂だな。
さすがに年がら年中鍛えて戦うことしか頭にないガルフのようなことはないけどさ。
程度の差はあれミューラー伯爵家の血筋ってそういうのばっかなのか?
場合によっては戦闘を回避しないといけないというのに問答無用で斬りかかるとか無謀な真似だけはしないでほしいものだ。
ガルフだったらやりかねないからなぁ。
姉さんは大丈夫だと思う。思いたい。頼むから無茶だけはしない方向でお願いします。
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なんやかんやで廃墟のそばまでたどり着いた。
廃墟の周りだけ密林の鬱蒼とした感じが薄くなっている。
ここまで通ってきた道と同じような感じだ。
念のため周辺一帯に冷やした霧をばらまいて廃墟の主に冷気の煙突に隠れる俺たちの居場所が察知されないようにしておいたのは正解と言えそうだ。
「あからさまに警戒しているのがいるわね」
廃墟より遺跡と言うべき石の建造物が建ち並ぶ中で中央の空きスペースに陣取って威嚇するように構えている四つ足の獣がいた。
「あれは何かしら? 形容しがたいけれど一応は獣なのよね」
自らに確認するような口ぶりで姉は首をかしげる。
「頭は獅子のようですね。体は草食動物っぽいですけど」
「知っているの、シド!?」
姉の驚きっぷりに少しばかり泡を食ってしまう。
慌てて人差し指を口に当てた。
「姉さん、防音も完璧じゃないことを忘れてますよ」
ハッとして手で口を覆うエレオノーラ。
「普通に喋る分には問題ないですけど──」
正体不明の魔物の様子を見やるが音に気付かれたということはなさそうだ。
「大丈夫そうですね」
姉は安堵の表情でホッと胸をなで下ろす。
一応は見敵必殺の方針ではなさそうで俺も一安心だ。
「それはそうと、シドはあの魔物を知っているの?」
「図鑑で見た覚えがある程度ですよ」
「獅子って何?」
そこからなんだ。
「猫の仲間に分類される大型肉食獣ですよ。雄はたてがみで首や頭が覆われているのが特徴ですね」
「っ! あれで猫なの?」
大きな声を出しそうになったエレオノーラがどうにかこらえて聞いてくる。
街中で見かける猫とは明らかにサイズが異なるため、どうにも信じられないのだろう。
「狼のように犬っぽい顔じゃないですよね」
「……言われてみれば、そうだけど」
言葉では認めつつも納得し切れていないのは明らかだ。
「僕も図鑑で見ただけですから詳しくないですよ」
これ以上、ツッコミを入れられても面倒なので予防線を張っておく。
「図鑑によれば獅子はライオンとも呼ばれ暑い地域に生息しているんだそうです。もっとも、あれは頭だけが獅子の魔物ですけど」
「確かに。胴体はヤギみたいだわ」
みたいではなくヤギで間違いないだろう。
面倒な魔物がいたものだよ
読んでくれてありがとう。
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