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74 周辺探索する方法

「仮にもしも魔力が足りない状態で転移してしまったらどうなるのかしら」


 おずおずとエレオノーラが聞いてくる。


「さあ、僕にもわかりませんよ」


 俺は肩をすくめて答える。


「空間魔法を暴走させた結果なんて記録として残っているとは思えませんし」


 もっとも穏便なのは転移が発動しないことだろうか。

 その場合でも残された魔力が暴発することだってないとは言い切れないのだが。

 逆に転移が発動した場合もすべての魔力が使われるとは限らない。

 発動するしないにかかわらず被害が出る恐れがあるという訳だ。


 しかも発動したらしたで不足した魔力分の距離がどう処理されるかが問題だ。

 転移先の指定は方角と距離で記述するか座標をピンポイントで記述するかの2通りがある。

 ただし、距離が遠くなればなるほど前者ではズレが大きくなる恐れがあるため使用されない傾向にある。

 今回の場合だと角度が1度ずれただけで、まるで違う場所に転移してしまうことになるだろう。

 後者であればその心配こそないが、魔力が不足するとその限りではない。

 魔法陣に刻まれた座標とはまったく異なる場所へ跳ばされることも充分に考えられる訳だ。


「もちろん、うちの書庫にはそういう書物はありませんでしたよ」


「それもそうね。あれこれ予想することはできるけど確かめる術はないでしょうし」


 やりようは無いこともないのだけど、意味のないことに労力や資源を費やすのは無駄なのでやらない。


「そうなると多めに魔力を込めるのは決定事項ではあるわね。問題はその場合、泉が何ヶ月も凍ったままになりかねないということかしら」


「ですね」


「それでは、ここを水飲み場にしている生き物が死滅するかもしれない」


「まず間違いなくそうなるかと」


「もし、この辺りに人が住んでいたら大変なことになるわね」


「魔法が使える者がいないときは全滅もあり得ます」


 俺の言葉に姉が渋面を浮かべた。


「二度とここへ戻ることがないとしても気分のいいものではないわね」


 見ず知らずの相手だからこその言葉だろう。

 オルランやガルフのような奴ばかりなら躊躇いもしないのだけど。

 もちろん住人がいると決まった訳じゃない。

 とはいえ、いないと決めつけて行動するのは軽率というもの。

 だから俺は首肯して姉の考えに同意した。


「となると大変よね。開けた場所を探すか木を伐採して場所を作るか……」


「とりあえずは周辺の様子を確認してからにしませんか?」


「それもそうね」


 俺が提案すると姉はうなずき同意はしてくれたのだが。


「ただ、無闇に歩き回るとここに戻って来られなくなるわよ」


 もっともな理由で釘も刺されてしまった。


「それなら御心配なく。僕たちはこの場に留まりますから」


 俺がそう言うと姉はハッとした表情を浮かべリスタの方を見た。


「まさかスライムに?」


「そのまさかですよ」


 姉は苦り切った顔を見せたかと思うと嘆息した。


「バカはどうするつもりよ。まさか飲み込ませたままで向かわせるつもりじゃないわよね」


「そちらも御心配なく。リスタはスライムだということをお忘れではないですか?」


「どういうことかしら? 私、スライムの生態には詳しくないのだけど」


 あー、そういうことね。失敗したな。

 自分が知っているから相手も知っていると思い込むのは初歩的なミスと言わざるを得ない。


「言葉で説明するより見た方が早いですよ」


 そう前置きしてから念話でリスタに指示を出す。


「なに?」


 リスタが体表面を大きく波打たせたことで姉がビクリと反応した。


「大丈夫ですよ。念話で指示を送った結果ですから」


「何をさせるつもりなの?」


「これですよ」


 俺がそう言ったタイミングでリスタが波打たせた部分をソフトボール大に膨らませて分離した。


「なっ!?」


「分体というやつです」


「分体? 増殖ではなくて?」


 姉は知らなかったのか困惑の表情を浮かべている。


「増殖とは違いますね。増殖だとそれぞれ別の個体になってしまうじゃないですか。分体は体がいくつあっても意識はひとつだけですから同じ固体なんです」


 エレオノーラの反応が薄い。

 どうにか理解しようと色々と考えているようだ。

 たぶんだけど固定観念が強すぎるんだと思う。


「大きいのも小さいのも同じリスタとして意識を共有していると言いますか、とにかく同じ存在なんですよ」


 言いながら余計に姉を混乱させてしまうなと思ってしまった。

 今までにない概念を受け入れろと言われても容易ではないだろうからね。


「これが増殖なら小さい方はリスタじゃないということになりますが、どちらもリスタなんです」


 姉は眉根を寄せながら首をかしげている。

 これ以上、説明を続けても今は理解してもらえないんじゃないだろうかとさえ思えてきた。


「人間で言えば体を部分的に切り離しているような状態です」


 厳密に言えば違うんだけど、それを説明してしまうと余計に訳が分からなくなってしまうだろう。

 各自が独立して自立行動ができるなんて言われたら混乱に拍車がかかるんじゃないかな。

 現状でも受け止め切れずにしかめっ面になっているくらいだ。

 これ以上の説明を続けても受け止め切れない気がしてきた。


「難しく考えずに、どちらもリスタだと思ってください」


 サジを投げてしまうようで申し訳ないがこれを理解できなかったところで大した問題にはならない。

 むしろ理解するためにこれ以上の時間を費やす方が問題である。


「……そうさせてもらうわ」


 姉も諦めたのか少しの間はあったものの力なく同意した。


「では、小さい方のリスタに偵察してきてもらいます」


 その言葉と同時に小リスタは飛び跳ねたかと思うとフクロウに姿を変え俺の肩にとまった。


「ええっ!?」


 目をむいて驚きをあらわにするエレオノーラ。

 スライムの生態に詳しくないんじゃ無理もない。


「捕食した相手に変身できる能力があるんですよ」


「そういうことなのね」


 目を丸くさせてはいるが受け入れられない訳ではないようで感心するようにうなずいている。


 とにかく、これ以上の説明は不要なのはありがたい。

 さっそくリスタを偵察に向かわせる。

 飛び立ったリスタは、まず上空で旋回を始めた。


「姉さん、ここから先は無防備に近くなるので警戒は任せます」


「わかったわ」


 返事を受けると同時に俺は目を閉じてリスタと視覚を共有する。

 上空から地上の俺たちを見下ろす光景が見える。

 念話でリスタの視線を少し上向きに変えさせてみたが徒歩で密林を抜け出すのは難しそうだ。


「この近辺は緑しかないですね」


 半径数キロといったところだと思うが緑の海といった感じだ。

 視界の端に何か映ったような気はしたが旋回中なので再び見るためには多少時間がかかる。


「開けた場所はないかしら?」


 姉から注文が来たので高度を上げてみることにする。

 高度を上げながら旋回していると、先程チラッと見えたものが確認できた。

 岩……いや、石を積み上げたなにかしらの建造物のようだ。

 ただ、数多の植物に覆われて確認しづらくなっている。


 視線を下方向から上げると、遠くの方にキラッと光るものが……って、水面が陽の光を反射しているのか?

 それがずっと続いている。

 ということは、あれは海か。

 遠くに陸地もあるようだけど泳いで渡れるような距離ではないな。

 転移で帰る予定なので渡るつもりはないけどさ。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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