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72 どうでもいいことと位置特定の方法

「ガルフが犯人かどうかなんて、どうでもいいんですけどね」


「どうでもいいことはないわよ」


 不満そうに表情を渋らせて否定してくるエレオノーラ。


「ガルフに自供させる必要なんてないじゃないですか。奴に未来なんて無いんですから」


 端的に言うなら死人に口なしだ。

 迂遠な形の表現になったのは露骨な言い方を避けた結果である。


「どういう意味かしら」


 怪訝な顔で聞いてくる姉には露骨で通した方が良かったかもしれない。


「事実なんて勝者が都合の良いように変えられますから」


 俺がそう答えると姉はしばし唖然としていた。


「そうは言っても今はあの馬鹿に都合の良い状態だと思うけど」


「御心配なく。手は打ってあります」


 エレオノーラが大きく両眼を見開いた。


「いつの間に……」


「そりゃあ強制転移させられる前ですよ」


「魔法陣が結界で覆われていたじゃない。それにシドも私と一緒に転移させられているわ」


 どうやら姉は誤解しているようだ。

 魔法陣の外に出なければ対処できないという思い込みがあるかもしれない。

 俺があれこれ好き放題していることを知らないから無理もないか。


「実はちょっと珍しい魔物をテイムしてて離れの近くで待機させていたんですよね」


「え……!?」


 エレオノーラは困惑しながら驚くという器用な状態に陥っていた。

 どうやら俺の告白は思った以上にインパクトがあったようだ。


「テイムすると念話が使えるので指示を出しておきましたよ。奴を捕まえておくように」


「は?」


 姉はさらに困惑の色を深くする。


「仮にもバンパイアかもしれないガルフを捕らえられる魔物なんているのかしら」


 並の魔物では返り討ちにあうのが目に見えているから姉の懸念は当然というもの。

 ガルフは姉には敵わないが戦うことは奴の唯一と言っていい取り柄だ。

 魔法も戦闘用に限って言えばオルランを凌駕するかもしれない。

 まあ、齢を重ねたバンパイアならこんなもんじゃないだろうけどね。


「もうすでに拘束していますよ。念話で連絡が入ったので間違いないです」


「な……」


 絶句して固まってしまうエレオノーラ。

 そんなに想定外なことだろうか。


「不意を突けばどうと言うことはありませんよ」


「だとしても拘束し続けるのは難しいわよ。あれは筋肉バカだし魔法も合わせて使えば、いつまでも抑え込めるものではないでしょうに」


「魔法で影を縫い止めているので力じゃどうにもできませんよ。それに魔法で拘束を解こうにも魔力を常に吸われてカラカラの状態では不可能ですね」


「呆れたわね……」


 言いながら深く溜め息をつく姉である。


「その状態はどれくらい続けられるの?」


「いくらでも大丈夫ですよ。その気になれば何日でも」


 あまり長い期間だとリスタが飽きてしまうことも考えられるが対策済みだ。

 そして、それがここから帰還するための手段にもなる。


「……言葉がないわね」


 エレオノーラの顔は虚無の表情一歩手前の状態だ。


「まあ、いいわ。心配の種がひとつ減ったと思えば、むしろありがたいくらいだものね」


 切り替えが早いのは姉の長所のひとつと言えるだろう。

 ガルフでは逆立ちしたって真似できない。


「問題はどうやって帰るかだけね」


 ようやく本題に入れるよ。

 姉もさすがに強制的に転移させられたのは予想外すぎて動揺が尾を引いたようだ。


「せめて屋敷の方向が分かればね。どちらに進むか決められるのだけど……」


 そう言って姉は周囲を改めて見渡すが泉の他は木々ばかりで樹海と言っても遜色ないレベルだ。

 不幸中の幸いと言うべきか、近辺に敵になりそうな反応はない。

 3Dレーダーで確認しているので間違いはないんだけど、気を抜いていると姉に叱咤されそうなので表面上は気を張っているように見せている。


「方向なんて、さして重要じゃないですよ」


「え?」


「仮にそれが判明したとして、姉さんは歩いて帰るつもりですか?」


 俺の問いかけに姉はグッと言葉に詰まる。

 そりゃそうだ。

 落ち着いて考えれば俺たちが尋常でない距離を転移させられたことくらい容易に想像がつくからね。


「そう言うからにはシドは何か帰るための手段が用意できるのでしょうね」


「用意も何も転移すればいいじゃないですか」


「無茶言わないで」


 エレオノーラが目尻を吊り上げて噛みついてくる。

 殺気はこもっていないので犬に吠え立てられるのと大差ない。


「ここが何処かも分からない。屋敷がどちらにあるのかも距離がどれだけ離れているのかも分からない。こんな状態で転移魔法なんて成功させられる訳ないじゃない」


「座標設定する方法はありますよ」


「なんですって!?」


 そんな方法などあるはずがないと思っていたらしく、エレオノーラは絵に描いたような驚愕ぶりを見せた。


「そんな方法、聞いたこともないわよ」


「そりゃあ僕が考えた方法ですからね」


 本当のことを言えば、離れをマーキングしてあるので今すぐ転移することは可能だ。

 ただ、それを当然のように実行してしまうと俺が日頃から転移魔法を使っているのではないかと疑われかねない。

 実際に空間ゲートで頻繁に移動しているから間違ってはいないんだけど楽にできると印象づけてしまうのは避けたい。

 下手をすると今後のことに影響しかねないのだから慎重にもなるというものだ。


「当てずっぽうで転移するみたいな方法じゃないでしょうね」


「そんなこと、する訳ないじゃないですか」


 俺が即答すると険しくなっていた姉の表情が幾分かゆるんだ。


「さっき言ったでしょ。魔物をテイムしているって」


「ええ、言ったわね」


 姉は肯定するものの、それが何を意味するのかというところまでは考えが及ばないらしく不機嫌そうにしている。


「今も念話でつながっているんですよね。さすがに位置とか距離までは分からないけど」


 話の前半でおおっと上向きかけた姉のテンションが、後半でしおしおとしぼんでいく。


「位置が特定できないんじゃ意味ないわよ」


「誰が位置を特定できないと言いましたか?」


「え?」


 俺の問いかけに困惑の表情を浮かべるエレオノーラ。


「いま言ったばかりじゃない」


「位置や距離は分からないとは言いましたけど、その方法がないとは言ってませんが?」


 その問いかけにしばし考え込んでしまう姉。

 さほど待つことなく結論は出たようだけれど。


「つながりのあるテイムした魔物を使って位置を特定させる訳ね」


「そういうことです」


「具体的にはどうするの?」


「何も難しいことはしませんよ。召喚するだけです」


 俺がそう言うと姉はパチクリと瞬きをした。

 突拍子もないことを言い出したと思っているのだろう。

 苦笑を禁じ得ない。


「召喚したからって位置が特定できるの? それ以前に位置が分かっても転移魔法が使えるのかしら」


「分かりますよ。より正確に言うなら、どの方向からどのくらいの距離を跳んできたかですけど」


 それだけ分かれば転移魔法のための座標指定には充分だ。

 後は転移魔法の魔法陣を何処に展開させるかだけど密林の中ではどうにも厳しそうだ。

 最悪の場合、開墾して地面をならしてからということになりかねない。


 次から次へと難問が押し寄せてくるじゃないか。

 せめて、この泉くらいの平地を確保できればなぁ。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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