63 ゴーレム職人の出番がない
「思うがままに作りたいように作ると言うのなら職人ではなく芸術家にでもなればいい」
親方に視線を向けながら言ったが、これはやらかした奴に向けた言葉だ。
これだけ独善的な輩が面と向かって語ったところで耳を傾けるはずがない。
それどころか反発するだけだろう。
漏れ聞こえてくる話にも過剰反応するなら、その時はその時だ。
その可能性は充分にある。
お前なんて職人じゃないと言ったも同然だからね。
反応が薄いのはエレオノーラが怒りを爆発させた瞬間に殺気を放ったからだろう。
護衛の面々がさほど反応しなかったとはいえ素人をビビらせるには充分だ。
「どんな相手も客として受け入れろとは言わない。それでも職人の技がないからと他人を見下すのは論外だ」
前世でもいたよなぁ。
天狗になって自分が勝てない相手以外すべてを下に見る奴。
自分を見失っているから砂上の楼閣から見下ろしていることに気付けないんだけど。
ヨハンがこのタイプであるのは、ほぼ間違いないだろう。
「当家が発注した車が馬車などとは比べものにならないことを身をもって知るがいい」
冷たく言い放つと職人たちは凍り付いた表情を見せながらたじろいだ。
ヨハンも例外ではない。
つい、先程の姉と同じくらいの殺気を乗せてしまったからね。
ゴーレム職人にとっては、とばっちりになってしまったか。
中年男ではないもう1人の弟子も縮こまっている。
申し訳ないことをした。
なんにせよ、ビビってくれるなら好都合というもの。
「姉さん」
呼びかけながらエレオノーラに視線を向ける。
特に返事はなかったが、こちらに首を巡らせ俺のことを見下ろして視線を合わせてきた。
「予定が少し変わってしまいますが、いいですよね」
「彼らを乗せるの?」
エレオノーラがギョッとした顔で俺を見る。
「わからせるには身をもって知らしめるのが一番でしょう」
意地の悪い笑みを浮かべてみせると一応は理解してもらえたようで止められることはなかった。
そのかわり嘆息されてしまったけどね。
姉の怒りをそらすのも狙いのうちだったし目的が達成できたようなので、それくらいは甘んじてスルーしておこう。
「そのかわり私も同乗するわよ」
何を思ったのか姉がそんなことを言ってきた。
もしかして俺が暴走するのを抑止しようとしてる?
舐められないようにと殺気立ったのは失敗かな。
「それは構いませんが何も変わりませんよ?」
「いいのよ。最初に乗らないなんて考えられないもの」
そういうことか。別に俺が無茶をしないようにと考えてのことではないんだな。
建前で言っているだけで本音ではないということも考えられるけど。
なんにせよ責任者のオーケーがもらえたのだから堂々と目にもの見せてやることができるぞ。
そのためには少しばかり予定の変更が必要だ。
この場に呼び出したゴーレム職人の仕事を奪ってしまうことになるけど、そこは仕方がない。
俺はゴーレム職人と思われる人物の前に立つ。
すると向こうは困惑の表情で俺とエレオノーラを交互に見てきた。
「貴方がゴーレム職人さんですね」
「はい、そうですが……」
「初めまして。僕はシド・ミューラーです」
「は、はじめまして。自分は、あの、エドガーと申ひます」
あたふたしている上に噛んでしまったか。
俺が名乗っても驚く様子がないのはエレオノーラを姉さんと呼んでいたからか。
親方の弟子であるヨハンは俺をチラ見して胡散臭いと言わんばかりの表情を覗かせたけど。
少なくともエドガーは俺のことを軽く見たりはしていないと考えて良さそうだ。
まあ、家名にビビっているだけかもしれないけどさ。
「申し訳ないですが、今日は貴方の仕事がありません」
「そははどういう……」
再び困惑の表情に戻ったエドガーが恐る恐るといった感じで聞いてくる。
「届けられたものが、あの有様ですし」
馬車もどきの方へ視線を送ると釣られてエドガーもそちらを振り返って一瞥した。
「あれを指定の術式でゴーレム化するのは無理ですよねえ」
こちらに視線を戻しながらエドガーは言った。
「ちゃんと理解してもらえているようで助かります」
「いえ、渡された術式の書面は図解入りでわかりやすかったですよ」
「それは重畳。なによりです」
「それで、あちらにあるものが本来の形状をしている自動車というものですね」
俺たちの後方で鎮座する自動車に視線を送りながら確認してくるエドガー。
「ええ。比較検証のために同じ職人にゴーレム化してもらおうと思っていたのですがね」
「あちらも私の出番はないということですか」
「そうなります。お渡ししたものより遊びが少ない術式にしますので」
「え?」
俺が自己紹介したときには驚かなかったエドガーだったが、今の俺の発言には目を白黒させている。
仕事がキャンセルになったら、そのまま帰ることになるとでも思っていたのだろうか。
エドガーだけを帰すのは非効率だし最低限の護衛しかつけられないので危険だ。
領都の街からさほど離れていないとはいえ油断は禁物である。
「せっかくですから見学しますか?」
「……は、はいっ。ぜひっ」
イエスの返事をした割にエドガーはキョロキョロと視線をさまよわせて落ち着きがない。
「どうかしましたか?」
「いえ、術者の方が見当たらないなと思いまして……」
驚いていたのは、そういうことか。
見渡しても領主代行の姉と護衛しかいないからね。
術者なら真正面にいるんだよ、エドガー青年。
「こちらにどうぞ」
あえて何も教えずに自動車の方へ誘導する。
何か聞きたそうにしていたけどエドガーは黙って俺について来た。
当然、姉も来たし鍛冶職人の親方であるボッシュも後に続く。
反抗的な姿勢を崩さないヨハンはシカトするかと思ったのだけど、コイツも来た。
奴としては俺について来たのではなく親方に従っているだけという体なんだろう。
そのことを指摘すると逆ギレしそうだな。
必ずそうなると決まった訳ではないけれど。
とはいえ、奴が発しているネガティブな空気が高確率でそちらのルートに進んでしまいそうだと俺の勘が告げていた。
面倒な男である。
「全然違う……」
間近で車を見たエドガーがぼそりと呟いた。
そりゃそうだろう。
あっちはボディだけSUV車の馬車もどきで、こちらはまごうことなきSUV車なんだから。
中身は向こうの世界の自動車とは別物だけど。
「では、始めます」
車体に両手をついて魔力を流し術式を展開して発動させる。
「なっ!?」
驚きの声を発したのはエドガーである。
だが、そちらのフォローはしない。
途中でゴーレム化を止めてしまうと中途半端に術式が定着しかねないのでね。
人前で失敗するようなみっともない真似はできない。
それと批判的な姿勢を崩さないヨハンの口撃材料にされる恐れもある。
今のところは姉や俺が放った殺気に気圧されているようだけど何を切っ掛けに勢いづくかわからないし。
とにかく今はゴーレム化の方に集中だ。
足回り、動力、操作系、安全装備などなど、同時に複数の術式を刻み込んで時間短縮をする。
ひとつずつ仕上げる方が術式を多重制御せずに済むので楽なんだけど、それだけ待ち時間も長くなるからね。
「はい、終わり」
仕上げて振り返ると約1名が唖然呆然を絵に描いたような姿で固まっていた。
エドガーである。
俺、なんかやっちゃいました?
読んでくれてありがとう。
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