203 殲滅するので新型を使います
『まさか霧の奥深くに隠れ潜むとはな』
通信に父アルブレヒトの嘆息が漏れ聞こえてくる。
「向こうも打つ手なしの状態なのは間違いないかと」
『下手に突入すれば手痛いしっぺ返しをもらいそうだな』
視界の効かない中での戦闘はリスクが高いからね。
特に後がないことを自覚している敵は何をしでかすか分かったものではない。
「追い詰められたネズミは死に物狂いで牙をむくと言いますし」
『とんでもなくデカいネズミがいたものだなぁ』
シューバのオッちゃんは笑っていたが──
『とはいえ、その通りだろうぜ。奴らは逃げ時を見誤って後がねえ。安易に飛び込めばこっちに死人が出るくらいの反撃はしてくるだろうよ』
すぐに真顔になったかのような声が通信機から追いかけてきた。
『アル、どうするのだ?』
リーアル氏が父アルブレヒトの判断を問う。
『父上、このまま待つのは下策です。奴らは霧よりも広い夜陰にまぎれて逃走を図る恐れがあります』
姉エレオノーラがまるで追い詰められているのは我々であるかのように強張った声で進言していた。
そこまで危機感を感じるのは行き過ぎな気がするのだけど、何を考え感じた末のことなのだろう。
ちょっと想像がつかないが殲滅することに変わりはないのでスルーしておく。
「じゃあ、丸裸にしますか」
『丸裸だとぉ?』
『霧を解除するか、シドくん』
「ええ。丸見えになれば遠隔攻撃も容易く当てられますので完封できますよ」
『大きく出たじゃねえか。連中が死に物狂いで牙をむくと言ったのはお前ぇだぞ、シド』
それは承知で言っている。
敵のデータが乏しく俺の発言は半分はったりをかましたも同然だが、それをおくびにも出す訳にはいかない。
『策はあるのか』
理知的な父の声が聞こえてきた。
「まず、アディの網で完全包囲してから霧を解除します」
『あの濃霧の中でそんなことが可能なのか?』
父が懸念を口にする。
万が一にも失敗は許されないから、そんな風に考えてしまうのも無理からぬことか。
「捕縛ではなく包囲です。おおよその位置は僕が把握しているので逃がさない程度に囲うのは難しいことではありません」
『檻に閉じ込めるみてえなもんか』
真っ先に反応したのはシューバのオッちゃんだ。
勘のいいことで。
「そうですよ。逃げ場を奪ってから本命の糸で縛り上げれば、後は一方的に攻撃できます」
『容赦ねえなぁ』
「捕虜にする必要がありませんからね」
扱いが人道的でなかったなどとクレームがつけられる心配のない相手だ。
『邪悪な死人に情けなどかけようもんならロクなことになんねえもんなぁ』
それもある。
人としての常識や良識を求めても受け入れるような相手ではない。
ゾンビやスケルトンは自我と知性の多くを失い本能に近い状態で行動する。
生きとし生けるものとは真逆の理であるが故に憎悪の対象なのかと思わせるほど目の敵にされてしまう。
グールは自我を残しはするが良心はアンデッドになった際に消えてしまうらしい。
良心の呵責を感じることなく生者を捕食対象として本能に従うようになれば、どうなるかは自明の理というもの。
下手に知恵が回るだけ質が悪くなるとも言える。
「とにかく、このままでは根比べになるだけで何も進展しませんよ」
『……分かった』
即答とは言えない父アルブレヒトの返事にどういう考えがあったのかは分からない。
それでも決定が下されたならば行動あるのみ。
『だが、霧の中は大部分が深い森だろう。ゴーレムアーマーで入るのは厳しくないか?』
敵が隠れ潜むなら開けた場所は避けるだろうし父が懸念するのも仕方あるまい。
動きが制限されるのは向こうも同じか、むしろこちらよりも厳しいものがあるのだけど。
ただ、いざとなれば奴らは力業で木々をなぎ倒すだろうしなぁ。
そうなると、たちまち障害物だらけになる。
だとしても巨大化グールならば踏みつけるなり跨ぐなりして易々と越すことができるだろう。
倒木を手や足で払いのけることも、あのサイズなら不可能ではないはず。
生憎と巨大化グールよりもずっと小さいデアリングベアにはそこまでのパワーがない。
そんな環境でもし戦闘になれば不利になるのはこちらの方だ。
「デアリングベアで突入したりはしませんよ」
『どういうことだ?』
「父上、誰がゴーレムアーマーを開発したと思っているんですか」
ハッと息をのむ声が通信機越しに伝わってきた。
『どれくらいで準備できる』
さすがは我が父、話が早くて助かるよ。
とはいえ今の口振りでは何機もあるように思っていそうだ。
そこまで用意をしているとは言っていないのだけど。
「すぐそこまで飛んで来てますよ」
『なにっ!?』
そんなに予想外だったのかというくらい驚きをあらわにした声だった。
格納場所から無人で飛んで来るとは夢にも思っていなかったんだろう。
実際にそれが飛来したことでちょっとした騒ぎの中心となった。
が、無線でのやり取りがあったおかげで敵襲と誤解されることだけはなかった。
変な形をしたゴーレムが空を飛んでいると驚きの声があちこちから無線機越しに聞こえてきたのには苦笑するしかなかったけど。
みんな飛行船を知っているはずなのに、その反応なのかとね。
戦闘機のような形をしているだけで既知の情報と結びつかなくなるとは思わなかった。
飛行機を知らないのは大きいようだ。
現にミューラー伯爵家の関係者はさほど驚いていなかったようだし。
『おい、シド。あれは飛行機ではないのか』
飛来した新型を目撃した父アルブレヒトの言葉には困惑が含まれていた。
どうやって戦うのかと言いたいのかもしれない。
別に戦闘機形態でも戦闘は可能なんだけど、デアリングベアの戦いぶりを見続けたことで思い込みが発生しているのかもね。
「あれもゴーレムアーマーですよ」
直上に来た新型は獣型の中間形態に変形しデアリングベアから降りた俺の方へ向けて降下してくる。
フロートの魔法が使われているのでヘリコプターや垂直離着陸機のように風圧が襲いかかってくることはない。
着地した後は伏せの体勢で待機するところへ駆け寄って搭乗する。
『シド、そのゴーレムアーマー1機だけか』
「そうですよ。変形するタイプの機体の量産化は簡単じゃないんで」
脆弱性とかメンテナンス性の問題をクリアするのが難しくて現状だとどうしてもワンオフになっちゃうんだよね。
『1人で行くつもりではあるまいな』
策があるとはいえ相手のうち1体は間違いなく今までの巨大化グールより強力な上位種であると目されている。
普通に考えれば反撃されることを考慮に入れないなど油断しすぎというものだろう。
だから父はたとえ少人数でも部隊を形成して連携して戦えと言いたいはず。
もっとも、俺としてはそう言われるであろうことは端から分かっていたことだ。
「ワイバーンたちがいることをお忘れじゃありませんか」
故に余裕を持って反論した。
『ぬっ』
返す言葉もなく言葉に詰まる我が父である。
どうやら護国大臣にしてはめずらしく失念していたようだ。
目撃できる範囲でも半数は活躍していたんだけどなぁ。
指揮官としてはそれだけ神経をすり減らす戦いだったということなんだろう。
「それじゃあ、ちょっと行ってきまーす」
そう言い置いて飛び去ろうと思ったのだけど。
「ああ、そうそう。シド・ミューラー、グリフォンゼロ出る!」
これを言っておかないと出撃って感じがしないというか物足りないのだ。
ぶっちゃけると気分が上がるというか定番の様式美みたいなものなので言わないと落ち着かないんだよね。
誰だ? 厨二病患者なんて言ったのは。
読んでくれてありがとう。
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