202 経験豊富でも胡座をかいてはいけない
2体の巨大化グールを屠ったことで勝ちパターンが見えてきたが、それで楽に勝てるようになるほど世の中甘くない。
まず、敵がアディの粘着網トラップを抜けてくる量が増えた。
まさか霧の中で完全に足止めする訳にもいかないから多少は緩めているけれど、敵が突破する数を自在に制御できたりするほどではない。
濃霧を発生させていなければ話はもう少し変わってくるのだけど。
とにかく、そのせいで巨大化グールが同時に複数出てきたりノーマルのアンデッドがわらわらと現れたりして臨機応変な対応を求められたのだ
俺もずっと戦いっぱなしでは体力が持たないので後方に下がっている。
むしろ以後は前に出るなと父や他のトップの面々から釘を刺されてしまった。
単身で先陣を切って武勇に優れたところを見せ貴族の子息としての責務を充分に果たしたのだからと。
士気はこれ以上ないというくらい上がったので、俺が単独で無双すると逆に皆のやる気を削いでしまうとも言われた。
そんな訳で、よほどのピンチにならない限りは戦えなくなってしまった訳だ。
もっともバトルジャンキーではないので静観するのも苦痛ではない。
ずっと観戦していると、もどかしく感じる瞬間が何度も訪れたけれどね。
特にデアリングベアの扱いがまだまだ甘い者が少なくないせいで何度もピンチに陥った。
そこは連携や魔導砲の支援攻撃によってしのいでいたけれど。
幸いにして死者は出ていない。
こちらの損害はゴーレムアーマーの小破が数十を超え中破もいくつか。
搭乗員の保護を優先的に設計した機体なので死者はゼロ、戦闘続行が困難な負傷者は出ていない。
ただ、戦闘が間断なく続き全体的に疲労が蓄積しているため、今後はどんどん厳しくなっていくだろう。
敵は疲れを知らぬアンデッド軍団だから尚更ね。
現状はどうなっているかというと未だ敵が城壁まで至ることはないものの徐々に押し込まれている。
滅した敵の数から推定される残敵は半分を切ったかどうかぐらい。
正直、かなり厳しいと言わざるを得ない。
想定では2割を切っていてもおかしくなかったのだけど。
こちらに大きな問題がある訳ではない。
敵が巧みに粘着網と霧のダブルトラップを抜けてきているようだ。
もっと闇雲に突破しようとしてくると思っていたのだけど読みが甘かった。
罠にかかっても統率する者が取り乱すことなく指示を行き渡らせているのだろう。
あと、敵の指揮能力が影響して敵の進軍速度を遅らせるための霧が思ったほど効果を上げていない。
ワイバーンたちの風魔法による攻撃も霧が命中率を落としている。
だからと言って霧を解除することはあり得ない。
現状よりも戦況を悪化させるのは間違いないだろうからね。
『シド、聞こえるか』
父アルブレヒトから通信が入った。
「はい。何かありましたか」
『ワイバーンたちの半分をこちらに回すことはできるか』
「可能です。念話でそう指示すればいいだけですので」
『では、それで頼む』
「了解」
特に説明はなかったがアルブレヒトの意図するところを読み取るのは難しくなかった。
こちらには迎撃用の大砲がないからね。
霧を突破して見える場所に現れた瞬間を狙ってウィンドカッターを浴びせれば百発百中で大ダメージを与えられる。
最初からそうしておけば良かった。
範囲兵器のない戦闘しか経験していないことが判断を遅らせたか。
いや、つまらない言い訳だな。
数多の前世を経験しておきながら、その発想に至れなかった己の未熟さを露呈しただけだ。
とにかく、ワイバーンたちに配置の変更を指示する。
彼らは隊列を組んだ状態ですぐに飛んできた。
来るなり味方の手薄な部分に向けて一撃離脱で攻撃を仕掛けていく。
ウィンドカッターだけでなく見たことのない風属性の魔法を何種類か叩き込んでいた。
狙った範囲全体に行き渡る矢の雨ウィンドショット。
大穴を穿つ馬上槍のごときウィンドランス。
回り込むように飛んで風を巻き起こすことで敵の動きを阻みながら攻撃するウィンドブーメラン。
さすがは風魔法が得意と言われるワイバーンたちだ。
霧の向こうに見える影に向かって放つ威力を絞ったウィンドカッターよりもはるかにダメージを与えていた。
誰も彼もが疲れを見せ始めていた俺たちの三伯連合軍からは大きな歓声が上がる。
ギリギリで踏み止まるような状態だった士気が一気に盛り返したのは言うまでもない。
もしかしたら最初からこの状態で戦うよりも結果は良かったのかもしれないな。
ずっと実戦に身を起き続けてきた父の凄みを思い知らされたが気分は悪くなかった。
むしろ清々しくすらある。
『全軍、油断するな。敵はまだまだ残っている。ここが正念場だ。諸君の奮戦を期待する』
引き締めも忘れていないか。
もはや脱帽ものだ。
俺も負けていられないな。
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敵が霧の向こうから出てこなくなった。
『終わった……のか?』
通信機の向こうで問いかけの言葉を口にするシューバのオッちゃんの声には戸惑いが大いに含まれていた。
その問いに答える者は誰もいない。
シューバの言葉が誰に向けられたものなのか明確でなかったからか。
それとも同じように唐突な終わりに戸惑っているのか。
「終わってなどいませんよ」
『なにっ!? 分かるのか』
「魔力を感知すれば簡単ですよ。禍々しいのが2体ほど奥の方で残っていますね」
『たった2体か?』
「おそらく指揮していた奴らです」
『おいおい。指揮官が2人なんてまともに用兵できんぞ』
「言い換えましょうか? お飾りのトップと実質的に取り仕切っていた参謀が残っていると思われます」
メインの方針はトップが決めるが詳細を詰めるのは参謀だ。
どちらが警戒すべき相手かは言うまでもない。
ただ、この状況になってしまっては打つ手なしだろう。
霧を利用して籠城しているとしか言いようがないからね。
援軍が望めない上に数も絶望的に少ない。
唯一のアドバンテージが超大型種であるということ。
それも攻略法を確立した上に実戦の中でずっと訓練を続けていたようなものだ。
2体の末路はもう見えていると言っても過言ではない。
これ、俺の出番もうないかもしれん。
『そういうことかい。当然、お飾りの方が馬鹿領主なんだよな』
馬鹿領主ときたか。
言うまでもなくスカム・ラビッシュのことである。
馬鹿と言われるのも無理はない。
戦力を失い続けた挙げ句、逃走の機会を逸してコソコソ隠れ潜んでいる訳だからね。
もしかして俺たちが戦闘態勢を解除するのを待って夜にでも移動を開始するつもりか?
ないとは言えないが、運頼みで賢いとは言い難い発想だ。
「それ以外に奴らが2体いる説明ができます?」
『違えねえ。あの野郎がまともな頭してたら、とっくの昔に撤退してただろうよ』
ガハハと豪快に笑うシューバのオッちゃん。
しかしながら、戦いはまだ終わった訳ではない。
アンデッドを完全に殲滅するまで終わったと思うことは許されないのだから。
『シド、敵は残り2体で間違いないのだな?』
父アルブレヒトが他にアンデッドが残っていないかを念押しするように確認してきた。
「ええ。超大型が2体で間違いないですよ。細かいのはゼロです」
『分散して逃亡を図っているようなことは?』
「魔法霧を媒介にして瘴気を感知してますから漏れはないです」
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