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201 10倍級vsGAX-01デアリングベア

 破裂したミサイルから飛び散った原液のポーションが10倍級の巨大化グールを濡れ鼠にする。


「どうだっ?」


 思わず声に出てしまったが返事のあるものでないのは百も承知だ。

 むしろ変なフラグを立ててしまったかもしれない。

 巨大化していないアンデッドで実験していた時と比べると溶ける反応の始まりが遅い気がする。


『シド、あまり接近しすぎるなよ』


 父アルブレヒトから無線で注意の言葉が飛んで来る。

 反撃を警戒しているのだろう。

 溶けるかどうかを気にするあまり、そのことを失念していたのは事実だ。


「了解」


 返事はしたものの減速した程度で接近は止めない。

 間近で観察した方が分かることもあるからね。


 接近してようやく巨大化グールが溶け始めていたことが判明する。

 よく見れば、傷を負ったあたりは大きく溶け出していた。


「巨大化グールのダメージを確認。等身大のものよりも効きが悪い。ただし、傷口の周りは溶けやすい模様」


『了解した』


 これで先陣を切った俺の役割はほぼ終了である。

 つまり自由時間ということだ。

 俺1人で戦っている訳ではないのだから普通は撤退するところなのだろう。

 けれど、情報は多い方がいいよな。


「これより追加攻撃に入る」


『待て! 無理をするなっ』


 アルブレヒトの焦りが手に取るように分かる通信だ。

 貴族の子息として戦いで先頭に立つのは当然のことだろうが、それは成人していればこその話である。

 いかに実績があろうと現代日本で言えば中学生にすらなっていない子供だから無理もないんだろうね。


「御心配なく。引き際は見誤りませんよ」


『馬鹿者! そういうことではないわっ』


 俺の手綱がゆるゆるで引こうにも引けない状態であることに苛立ちを隠さないアルブレヒト。

 無鉄砲な子供を持つ父親の気持ちは数多ある前世の経験から分からないでもないんだけど、今回は柳に風で総スルーだ。


「いやあ、馬鹿ですみませーん」


 返事をしながらデアリングベアの右手に装備させた魔法銃で拳大のファイヤーボールを撃つ。

 アンデッドを捕食したことで空いた右手に命中したがほとんどダメージがない。

 むしろ、その周りのポーションを蒸発させてしまった。


「火属性の耐性は大。ポーションを蒸発させるため何があっても使用すべきではない」


 この報告をするためでなければ使っていなかった魔法だ。

 これをやっとかないと使おうとするのが出てきかねないんだよなぁ。


 続いて左手装備のボウイナイフに酷似した大型ナイフで走行しながら太ももあたりを斬りつける。

 減速による敵の反撃を警戒しながらだったので、なでるような斬り方になった。

 そのせいで深手は負わせられずに終わる。

 それでも得られる情報は貴重だ。


「軽いダメージは与えたが痛覚はない」


 こんなことはアンデッドのことを知っている者からすれば常識だが、辺境伯たちが連れてきた助っ人たちは初めて相対する敵だ。

 念のために知らせておくべきだろう。


「通常の魔物より固い。表皮が頑丈なようだ」


 それを確認するべく背後から接近して足を止めふくらはぎに深く切り込んだ。

 今度は骨まで届いた感触があったが、そのまま振り抜くことはできた。

 長居は無用とアクセル全開で離脱する。


「肉はさほどでもない。大きめの魔物を斬ったのとそう変わらない」


 報告が終わるかどうかのタイミングでズシンと音がして小さく地響きがあった。

 見れば、巨大化グールが転倒している。


「あ、切断しちゃったか」


 何故かこらえきれなかったような失笑がいくつも湧き上がっているようだ。

 今の何が受けたんだ?


 とにかく、巨大化グールが歩けなくなったのは大きい。

 移動のために這いずるしかないのであれば手も満足に使えなくなるからね。

 止まればその限りではないとはいえ向こうの攻撃手段を削いだのは事実。


 それに切り落とした足はポーションの影響が強まったようで急速に溶けている。

 どうやら頭か心臓に該当する部分から切り離されると弱体化するようだ。

 こいつは確かめないとね。


 高速移動しながらまずは四肢を切り落としていく。

 やはりポーションはノーマルのアンデッドと変わらぬ働きをしていた。


「切り落とした部位はポーションの効果が顕著になる」


 次は胸を穿つべく腹ばい状態の奴の上に乗り上げて大型ナイフを突き刺した。

 そのままナイフを軸にクローラーで走りながら周回する。

 胸に大穴が開いたが、四肢を落とした時のように一気に溶けたりはしなかった。


 ならば頭だ。

 今や首を振り回すのがせいぜいとなったコイツの首を切り落とす。


 首を失った胴体も溶解が加速したものの首は健在だった。

 けれども今度こそ身動きは取れない。

 そんな訳で、ジ・エンドだ。


「頭を潰さない限りトドメを刺せない模様。留意されたし」


『了解。よくやった。次が来る前に戻れ』


 父アルブレヒトが淡々と返事をしてくる。

 俺が好き放題やっていたせいでやきもきしていただろうに冷静だな。

 まだ始まったばかりだから当然なのかもしれないが、それを普通にこなせる者は意外に少ないものだ。


 通常は感情を表に出しつつも判断を誤らないのであれば上出来なんだと思う。

 何度も経てきた人生の中で見てきた者たちの多くは感情に振り回されて時間を無駄に消費してしまうか判断を誤るかだったからなぁ。


 上から目線になってしまったけど、セルフコントロールができる父のことはリスペクトしている。

 数多の人生を使って得た経験をベースにしている俺と違って一度の人生でこれだけのことができるのだ。

 護国大臣として濃密な時間を過ごしてきたことを考慮に入れてもチートキャラであろう。

 俺と同じ経験をしていたなら今回の件などもっとスマートに解決していたと思うんだよね。


『後ろだ!』


 不意に霧の中から大きな塊がぬっと現れた。

 巨大化グールの手だ。

 戻るために背を向ける格好になっていた俺のゴーレムアーマー、デアリングベアに向けて手を伸ばしてきた。


「残念。見えてるんだよ」


 レーダー上には接近する赤い光点があった上にバックモニターがあるから回避のタイミングを間違えたりはしない。

 機体を操作して真横に飛び退かせれば空中でクローラーが空転する。

 お構いなしでアクセル全開にすれば接地すると同時に土煙を上げてダッシュし始めた。


 巨大化グールがデアリングベアの残像を握りつぶしながら倒れ込む。

 その時には奴がさらに手を伸ばしても捕らえられぬ位置まで離脱していた。

 勢いを殺さぬまま反転しつつ背面の大型オプションラックに装備した大型ミサイルの照準をロックする。


 が、発射はまだだ。

 いま射出してしまうと腹ばい状態となった奴の全身をポーションまみれにすることが難しいからだ。


 巨大化グールが立ち上がるのを待つものの、なかなか動き出さない。

 こういう時にありがちな時間の進みが遅く感じるせいかとも思ったのだけど何か様子がおかしい。


「立てないのか?」


 どうやら舗装した路面に倒れてしまったためにアディの粘着糸が張り付いてしまったようだ。

 ならば迷う必要はない。

 魔法銃に風魔法をセットしつつミサイルを発射。

 奴の頭付近で近接作動術式が作動するタイミングに合わせて魔法銃を撃つ。


 一発勝負で飛び散るポーションを全身くまなく降りかかるように魔法を制御するのは痺れる作業だったが、うまくできた。

 これは記録から再現できるようデータ化しておこう。


 後は頭を潰すのみ。

 魔法銃からストーンジャベリンを射出し粉砕。

 巨大化グールはポーションの効果もあって一気に溶けていった。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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