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200 戦いが始まる

 あのサイズの敵が動き出せば進軍速度も上がるかもしれないと懸念していたが、そういうことはなかった。

 巨大化していない数千を越えるアンデッド兵の動きに合わせているようだ。


 俺が向こうの指揮官なら巨大化グールだけで先行し奇襲をかけるけどな。

 いくら数は力とはいえ、7から10倍ほどの体格差で攻めてこられると簡単に覆されかねない。


 デカいってだけで恐怖心を煽ることができるからなぁ。

 士気が駄々下がりになってしまえば数の有利など簡単に瓦解する。

 後から追いついてきた通常サイズのアンデッドで蹂躙すれば容易く全滅させられるだろう。


 こちらには向こうの弱点を突くことができるアドバンテージがあるものの、それも士気が維持できてこその話だ。

 たとえ奴らが同時に進軍してきたとしても容易に勝てるとは思っていない。


 巨大化グールに対してポーションがどれほど効果を発揮するのかは現時点では不明な訳だし。

 ノーダメージということもあり得る上に効果があっても再生されてしまう恐れだってある。


 奴らと戦う場合、じっくり腰を据えるのは悪手と言わざるを得ない。

 向こうはすでに死んでいるせいで微塵も体力を使わないが、こっちは時間の経過と共に消耗していくだけなのだから。


 短期決戦で行くなら初手が大事だ。

 向こうを調子づかせるのは良くないどころか悪手中の悪手と言わざるを得ない。

 絶対にそうさせてはいけない。

 こちらが勢いに乗るのが必須である。

 でなければ、ズルズルと尾を引いて長引いてしまうことになりかねないからね。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 配置についてどれほどの時間が経過しただろうか。

 戦いの火蓋が切られるまでは待つのが仕事だ。

 そのせいで退屈極まりなかったりするのだけど気を抜く訳にもいかない。

 予定通りであるなら敵であるアンデッドどもがそろそろ姿を現すはずなのだ。


『各員、今のうちに装備の再点検を』


 父アルブレヒトの言葉が機体に据え付けられた無線機から聞こえてくる。

 歩兵や砲兵は各所に設置したスピーカーから今の指示を聞いていることだろう。

 テストで音声を流したときは騒然としたものだが、準備期間が短かったにもかかわらず今や慣れたものだ。


 その時のことを思い出すと苦笑がつい漏れ出てくるが指示は守らねば。

 ちなみに今の指示にあまり意味がないのは百も承知だ。

 緩みかけた気を引き締めるためだけに出されたものだからね。


 ならば無視しても構わない?

 そんなことはない。

 少なくとも俺はそう思っているのでコクピット内のコンソールを操作してチェック術式を動かす。

 サブモニターのひとつに情報が流れていくのを目で追った。


「異常なし。各部、正常に作動中」


 モニターを指差して間違いがないことを声に出して確認。

 無線の送信スイッチは入っていないので俺の声はコクピット内にこだまするのみ。

 もし、この状況を観察する者がいたなら声に出すのは無駄と感じるのかもしれないな。

 そう思った者は基礎をおろそかにする愚か者だが。


 たったこれだけの所作で無意識のうちにたるみかけていた気の糸がピンと伸びた。

 これは俺だけでなく他の面々も同様だったようで、機体の装甲越しでも広い範囲で適度に空気が引き締まったのが分かる。


 ナイスタイミングで士気の低下を防げたと言えるだろう。

 さすがは長らく護国大臣を務めてきた父である。


 俺がさす父してニヤリと笑みを浮かべていると──


『敵、発見!』


 監視塔から一報が入った。

 どうやら絶妙の間だったようだな。


『各員、構え!』


 再びアルブレヒトの指示が飛んできた。

 待機状態だった機体を完全に目覚めさせるべく操縦桿を引き起こす。

 すると二足歩行のそれは人間で言うなら起座の状態からすくっと立ち上がった。

 アニメであれば独特の動作音がするところだろうけど、実機は演出の必要がないのでそういうことがない。

 むしろ、敵に位置を気付かれるような要因は極力排除すべきなのだ。

 今回に限ってはその必要性は薄いけど。


『10倍級と推定。他に敵影なし』


 一番大きいのが霧のトラップを抜けてきたか。

 膂力に勝る奴がディア改めアディの立体網を強引に突破してきたな。

 Gタイラントスパイダーは極太から極細まで糸を自在に紡ぎ出すことができる。

 広範囲に展開した魔法の霧の中では見え方は意味がないかもしれないが、敵の移動をコントロールするという意味では重要な役割を持つ。


 人のサイズの高さまでは細い糸で目の細かな網を展開し、上に行くほど太く拘束力を強くしてある。

 これに突入すれば簡単には抜け出せない。

 アディが本気を出せば10倍級の巨大化グールも身動きなど取れなくなるはずなのだが、広範囲の網の維持と再生をさせているので無理はさせられない。

 何もアディだけで敵と戦う訳ではないのだから進軍を遅らせられれば充分である。


『複数の裂傷を確認』


 よしよし。ワイバーンたちも指示通りに仕事をしているな。

 周囲を覆う霧よりも上空から風魔法のウィンドカッターで攻撃させているのだ。

 普通は風を起こせば霧も吹き飛んだり散ったりするものだが、特殊な術式で展開した魔法の霧なのでその心配がない。


『手に何かを持っている模様』


『何かとは何だ。ちゃんと確認しろ』


 今のはシューバのオッちゃんだな。

 大雑把な性格をしているかと思っていたのだけど、戦闘に関しては必ずしもそうではないらしい。

 敵の攻撃を受ければ死傷者が出るかもしれないのだから当然の話か。


『お待ちください。……アンデッドのようです』


 その報告は想定していたもののひとつであった。

 奴らは再生能力があると目されているが、それは条件付きでの話だ。

 条件とは言うまでもなくアンデッドを捕食することである。


『10倍級、立ち止まりました』


 その場合に考えられるのは投てき武器として投げるか、読み通り食うかだ。


『食らい始めました』


 読み通りだったか。

 が、生憎とそう簡単に傷の再生はできないんだよなぁ。


『どうだ、傷は? 再生しているか』


 父アルブレヒトが物見櫓の見張りに問いかける。


『していません!』


 やはりな。

 粘着性のあるアディの糸がアンデッドにからんでいるために食らうことはできても、そこまでが限界だ。

 再生するためには食ったものを溶かさなければならないがアディの糸が残ったままではね。

 低い位置の網を細かくした理由には移動速度の調整だけではなく、こうなることを見越していたというのもある。


「トドメを刺します。許可を」


『許可する。気をつけて行け』


「了解。シド・ミューラー、デアリングベア出ます!」


 直訳すれば大胆な熊と名付けた試作量産型ゴーレムアーマーのアクセルを開ける。

 人の倍ほどの背丈でガッシリ体型のゴーレムが足裏のクローラー機能を起動させ土煙を上げながら馬よりも速く走り始めた。

 このデアリングベアの型式番号はGAX-01だが今回の運用で問題なければXの文字は取り除かれるだろう。

 つまり、試作機でなくなる。


「気合い入れていかないとねっ!」


 魔導無線を一時的にカットしてあえて声に出した。

 それがもっとも気合いの入る方法だったからだ。

 まさか機体を全開走行中に両頬をはたく訳にもいかないからね。


「まずはオープニングヒットだ」


 デアリングベアの背面左側に装備した大型ミサイルをぶっ放す。

 ホーミング性能はほどほどだが、足を止めたデカブツなら問題なく命中する。

 もっとも今回は命中の直前に爆発させるんだけどね。


 ミサイルが破裂すると中に詰め込んだポーションの原液が奴の全身に降りかかった。

 これの結果いかんでは今後の作戦に大きく影響するのだが……


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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