195 気味悪さが増していた
「けどよぉ、外で待機している奴らにゃ効果があるよな」
アンデッドの繭にポーションが効かないことは理解してくれたようだけど、それで止まるシューバのオッちゃんではない。
「ありますが、向こうがどう動くか読めません」
「どういうことだ?」
「まったく動かないのは変だと思いませんか。通常、アンデッドは整列などしませんし動かず静止したままでいることはありません。指揮者がいれば話は別ですが」
フリーの下級アンデッドは上位者の支配下になければノロノロとした動きで徘徊するのが定番だ。
これについてはアンデッドどもと戦うことになると分かった時点でアカシックレコードにアクセスして確認済みである。
「つまり、あの有象無象の中にスカム・ラビッシュがいるということか」
リーアル氏がスルッと流すように誰かの名前を口にした直後は誰のことかと頭を悩ませてしまった。
まあ、それも一瞬のことだったけどね。
ラビッシュと言えば迷惑なお隣さんである子爵領の領主の家名だ。
つまり今回の件の首謀者である。
「さて、どうでしょう。予断は持たない方がいいと思いますが」
「だろうな。城壁内の繭の中にいることも考えられる」
「それはねえんじゃねえのか? 欲張りなくせに後ろで引っ込んでるような輩だろ」
「そうやって決めつけるのが危険なんだ」
「へいへい。とにかく操っている奴がいるのは確定なんだろ」
またしても口ゲンカが始まるかと思ったが、どうやら自重してくれたようだ。
「それは間違いないと思います。ですので我々の手の内を先にさらすのは得策ではないでしょうね」
「対策されるってか。心配しすぎじゃねえのか」
「そうとも限らんだろう。連中がポーションを防げるようになれば、こちらは一気に不利になるのだぞ」
「あー、そうだったな。全滅しなきゃ止まらんとか害虫みてえな奴らだぜ。迷惑極まりねえったら」
害虫と聞いて蝗害を思い出した。
大群で押し寄せて何も残さないことを思えば言い得て妙かもしれないな。
話はその後もしばし続き大まかな方針や兵の配置などについてが決められた。
連中が再び動き出すまで余計な真似をせず準備に専念することもそのひとつである。
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「へえ、これが新型の魔導砲か。骨みたいに細いが本当に遠くまで飛ばせるのか?」
「妙な高さに椅子が設置されているな。必要なものなのか?」
ポーションを撃ち出す魔導砲を両辺境伯に見せた感想がこれである。
「座れば分かりますよ」
促されたリーアル氏がタラップを数段上り席に着く。
「ハンドルを握って適当に動かしてみてください」
「これか?」
リーアル氏はやや躊躇いながらも素直にハンドルのグリップ部分を掴んだ。
そして、持ち上げるように上に動かした瞬間。
「うおっ、動いた!? 砲が下を向いたぞ」
そりゃ動きますがな。そういう風に作っているんだから。
「給水ホースはつないであるので試しに撃ってみてください」
「いいのか? ポーションの無駄遣いになるだろうに」
「訓練用のダミーですから御心配なく」
「分かった」
そう返事をしたものの一向に発射される気配がない。
「グリップの頂点に発射ボタンがあるので──」
「先程からそれらしきものは押しているが何も反応しないぞ」
言われて大事なことを説明し忘れていることに気付いた。
「失礼しました。先にセーフティカバーを親指で弾いてください」
「これか」
直後、パチンという乾いた音が聞こえカバーが跳ね上がりボタンが露出した。
「で、これを押す、と」
言葉通りに発射ボタンが押され銃口から訓練用の青い弾丸が勢いよく飛んでいく。
そして着弾。同時に地面が軽くえぐれた。
「速え。しかも小さいから一瞬で見失ったぞ」
シューバが目を丸くしているのは予想を上回った証拠と考えて良さそうだな。
「これはとんでもない代物だな。弓矢よりも速く遠く飛んで威力も上だ」
「お前は見えたのか?」
「ハンドルの真ん中に映像が映るんだ。幻影魔法の応用のようだ」
「ほう、そいつはスゲえ。ワシと代わってくれ」
「待て待て。もう少し具合を確かめてみたい」
「早くしろ」
ずいぶんと食いつきのいいことだ。
このままだとケンカに発展しかねないとさえ思えてきたのでシューバを別の魔導砲へ誘導した。
さすがにリーアル氏が使っている魔導砲でなければダメみたいな子供じみたことは言われることなく素直に従ってくれる。
魔導砲の操作に夢中になる姿は無邪気な子供みたいなんだけどさ。
その後は特筆するようなことは何もなかった。
準備と訓練と打ち合わせで数日が経過したのみである。
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「動きがあっただと?」
書庫にシューバのオッちゃんが息を切らして駆け込んできた。
「遅い」
とはリーアル氏である。
反論しようとしたシューバであったがむせ込んでしまい何も言えずじまいで終わってしまう。
コップに水をついでオッちゃんに差し出しつつ──
「まあまあ、急いでこられたのは間違いないようですから」
そう言うと、リーアル氏も深く追求することはなかった。
ドワーフの足が遅いのは承知の上で叩いた軽口だったのだろう。
反撃を待っていたつもりが事故で不発に終わり気まずさを残しているようだからね。
とにかく、シューバが一息つくのを待ってから展開しておいた大型スクリーンにリアルタイムの映像を映し出す。
燃えさかる炎の海の中でもっとも大きな繭の殻が破れ巨人が上半身を露出させていた。
が、少し様子がおかしい。
「あれがアンデッドだというのは分かるが、それにしても気味の悪さが際立っているな」
そう言ったのはレイチェル殿下の護衛騎士オリビアである。
専属メイドのアンナなどは顔を背けて見ないようにしていたほどの有様だったので決してオーバーな言葉ではない。
皮膚が定着せずドロリとした溶岩のように流れ落ちているせいだろう。
「シド、あれはゾンビなのかしら?」
姉エレオノーラに尋ねられる。
「いえ、おそらくですがグールです」
俺の返答に驚きの声が次々に上がった。
「どういうことだ、シド。あれはゾンビにしか見えないのだが」
父アルブレヒトが半信半疑で問うてくる。
「ふ化に失敗したんでしょう」
「そういうこともあるのですね。向こうの戦力が減ってくれるのは助かります」
言いながらレイチェル殿下が少しホッとした様子を見せている。
「殿下、まだそうと決まった訳ではありません」
「えっ!? でも、あの様子ではすべて溶け落ちてしまうのも時間の問題ではなくて?」
安心できないと注意を促したオリビアを振り返りながら殿下は疑問を口にする。
「それにしては何時までたっても骨が露出する様子を見せませんな」
とはシューバである。
「言われてみれば……」
「流れ落ちている肉を吸収して再生しているみたいですね。本来のグールにはないはずの能力ですが、繭を形成する際のことを思い起こせばあり得る話です」
とんでもなく迷惑な能力を身につけてくれたものである。
この調子だと普通のアンデッドよりも様々な耐性が高いことだろう。
ポーションも言わずもがなである。
霊体型のアンデッドよりはマシと思う他あるまい。
読んでくれてありがとう。
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