194 魔導速射砲なんてものがある
その後もアンデッド対策の会議は続き説明は一通り終わった。
「これ以上驚くことなんてねえと思っていたんだがなぁ」
「まったくだ。シドくんには次から次へと驚愕させられるよ」
タルネーとフォレーの両辺境伯にはドン引きされている。
「それでゴーレムアーマーとやらはワシらも乗れるようになった方がいいのか?」
「シューバ、それは無理ではないか。現状は時間稼ぎをしているような状態だぞ。習熟できるとは思えん」
「そうは言うけどよ。リーリエの嬢ちゃんも乗りこなせるようになったって話だったじゃねえか。なら、俺たちだって短期間でいけるんじゃないか?」
「できなくはないですけど機体は用意できないですよ。量産前の試作機ですから気軽に製造できるものではありません」
その気になれば助っ人である辺境伯たちの私兵全員分を用意することは可能だけれど。
それをすると他のアンデッド対策がおろそかになってしまうのだ。
特にポーションは奴らに対する有効な攻撃手段になるのだから可能な限り増やしたい。
本末転倒にならぬよう当初の計画通りに進めるのがモアベターだろう。
「ぬうっ、もっと早くに気付いていれば」
シューバのオッちゃんはうなっているけれど無理難題である。
「シューバよ、お前は何時までさかのぼる気だ。もっと現実的なものの見方をしろ」
リーアル氏が絶妙なタイミングでツッコミを入れてくれましたよ。
おかげでオッちゃんは地団駄を踏みそうな勢いで悔しがっている。
「言われんでもわかっとるわいっ。現状の歯がゆさを言葉にしただけだっ」
そこまで焦る必要はないと思いたいのだけど、巨大なサナギを見た後では無理からぬことか。
強い危機感を抱いているのは悪いことではないと思っておくことにしよう。
「まあ、気持ちは分かるさ。助太刀に来たつもりが見ていることしかできそうにないからな」
「魔法をホイホイ使えるお前たちが言うことか」
シューバはこんなことを言っているが、ドワーフが魔法を使えない訳ではない。
エルフのように全員が使える訳ではないのは確かだけれども。
それにしたってシューバが連れて来た助っ人は精鋭ぞろいのはず。
エルフと比べれば見劣りはしてしまうかもしれないが魔法を使えない者の方が少ないだろう。
「あー、お二方とも」
呼びかけると両辺境伯は口ゲンカを中断してクルリと振り向いた。
無言で邪魔をするなとばかりに圧を放っている。
生憎とその程度でビビるほど中身は若くないのでね。
「皆さんにも攻撃手段は用意していますので魔法を使うのはそちらがダメになってからにしてもらえませんか」
「ああ、ポーションを用いるとか言っていたな。魔力を節約できそうなのはありがたい」
「そういや、それの具体的な話はまだ聞いてなかったな。悪ぃ悪ぃ、許せ」
なんにせよ話を聞く気にはなってもらえたようで何より。
「城壁の上に設置している弩をポーションを発射する魔導砲に置き換えていますので皆さんにはそれを使っていただきます」
「魔導砲って魔法が使えなくても魔法を撃ち出せるってアレか?」
記憶を探るようにして考える素振りを見せていたシューバが聞いてくる。
「そうです。今回は特殊な仕様になっていますから従来の魔導砲とは別物ですけど」
「ほう? それはどのようなものかな」
俺の説明に興味を示したリーアル氏が質問してきた。
「従来の魔導砲はボール系の魔法を撃ち出すものがほとんどですが」
その中で最多なのがファイヤーボールを発射する魔導砲のようだ。
「私もそう聞いている。ではシドくんのものは別物なのだな」
「ええ。速度重視で弾は小さめになっています」
「遠距離でも確実に当たるように、か」
「その通りです。あと、撃ち出すのは吸い上げた液体を簡易結界で包んだものです」
「はあ? なぁんで、結界なんぞ展開するんだ?」
結界という単語に引っかかりを覚えたらしいシューバのオッちゃんが割り込んできた。
「シューバ、話をちゃんと聞け。シドくんは結界を展開するとは言っていないだろう」
「結界なんぞ、どれも一緒だろう。攻撃になど使えるものか」
「それがお前の早とちりなんだ。結界ではなく簡易結界だし、それで液体を包んだものだ」
「どう違うというんだ?」
「簡易結界はフタをしたビンのようなものです。飛んでいる間は壊れませんが着弾すれば破裂します」
「中身が弾けて飛び散るってことか……。おおっ、それなら液体も途中で散らずに遠くまで届きそうだな」
先入観から誤解していたらしいシューバもどうにかポーションを遠くに飛ばすためのものだと理解してくれたようだ。
「面白れえことを考えるなぁ」
「節約しないと、すぐにポーションがなくなってしまいますからね」
最初は放水銃を考えていたけど、こういう理由で魔導砲になった。
厳密には魔導速射砲と言うべきなんだけど。
「それもそうか」
理解が及べば異論をはさむようなことはないようで何よりである。
「通常は水属性の術式も混合させて3倍に希釈したものを撃ち出すようになっています」
「おいおい、それで大丈夫なのか?」
「通常サイズのアンデッドには有効ですよ」
「城壁の外にまだ半数は残っているんだったな。そちらに対応するためか」
とリーアル氏。
「じゃあ、デカブツ相手にはどうするんだ? 薄めたものが通用しなかったら?」
シューバがそういう心配をしてしまうのも無理はない。
繭の状態でずっと燃えさかっている炎に耐え続けているからなぁ。
普通じゃ考えられないことなんだけど、同じ状態がずっと続くと見ている側も感覚が麻痺してしまうらしい。
「薄めず原液で撃ち出すモードがあるから大丈夫ですよ」
それですら効果が出ないようなら何か他の攻撃手段を考えるしかあるまい。
その際には通用する属性を探りながらということになるだろうか。
「抜かりねえなぁ」
苦笑するシューバのオッちゃん。
「用心深いだけですよ。巨大なアンデッドが出てくることまでは予想していませんでしたけど」
指揮を執っているグールが強化されているかもしれないとは考えていた。
「それなんだが──」
しばし考え込んでいたらしいリーアル氏が会話に戻ってくる。
「なんでしょう?」
「動かないのだから、こちらから先制しても良いのではないか?」
「それもそうだな。絶好のチャンスじゃねえか」
「あの繭にはポーションは効果がありませんよ」
「なぁにぃ!? なんでそんなことが断言できるんだ?」
「ポーションがアンデッドに効果があるのは生きている者とは逆のエネルギーで動いているからです。マイナスの生命力とでも言えばいいですかね」
そこまで説明すると──
「そうか。死者の理で動くからポーションが生者とは逆に作用する」
リーアル氏はきちんと理解してくれたようだ。
おそらく何故ポーションが無効なのかも察したことだろう。
「それがどうしたってんだ」
「あの繭の外皮は言ってみれば卵の殻みたいなものなんだよ、シューバ」
「意味が分からん」
シューバのオッちゃんは皆目見当がつかない様子である。
「お前はもう少し自分で考えろ」
「悪かったな。そういう間怠っこしいのは苦手なんだよ」
「まったく……」
呆れたように嘆息するリーアル氏だったが。
「殻は死者でも生者でもない」
それでも説明は続けてくれるらしい。
「ある意味、鎧のようなものだ」
「おお! 鎧じゃポーションも効かねえな」
「そういうことだ」
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