193 対抗手段の話
「しかし、あの一番デカいのはワイバーンも凌駕するのではないか?」
懸念を口にするシューバ。
「ワイバーンより大物ならこちらにもいますよ」
「なんと……」
短く言葉を発したきり続く言葉が出てこない。
唖然呆然とはまさにこのこと。
「そうは言うが……」
リーアル氏がそこまで言いかけてハッとした表情を見せる。
「全員、人化しているのか」
「御明察です」
「となると相応の頭数はそろっているということか」
すぐに復帰してきたシューバがうなりながら言った。
「ええ、そうです。ただ、大きさで対抗できても互角とは限りませんので油断は禁物ですが」
「問題あるまいよ。幽体型のアンデッドならばいざ知らず実体のあるグールに毛の生えたような連中だろう? それならぶっ叩けば良いだけのことよ」
「一撃では無理でもいずれは倒せると?」
自信満々のシューバに対し懐疑的な目を向けるリーアル氏。
「おうよ。どんな巨岩も叩き続ければ割れるものだ」
ドワーフらしくシューバは岩に例えたが、どちらかと言えば巨木の方がイメージは近いと思う。
叩き割るよりは切り倒す感じになってしまうけれども。
わざわざ訂正するつもりはないけどね。
「それが油断というのだ、シューバよ」
「何だとぉ?」
「完全ではないとは言え奴らは魔法の炎に耐えていることを見落としているぞ。魔法的な防御手段がある証拠ではないか」
「むう……」
反論の糸口すらつかめないようでシューバは短くうなったきり黙り込む。
「アレが殻を破って出てきたら普通は蹂躙されるのを覚悟せねばならんところだがワイバーンたちのおかげで抑えこむことは可能なんだったな」
そう言って俺の方をジッと見つめてくるリーアル氏。
「そうですね」
余程のことがない限り封じ込めることが難しいなんてことにはならないだろう。
こっちにはGタイラントスパイダーのディアがいるのだ。
……ところで今さらの話なんだが、うちの次姉はちゃんと呼ぶならディアネスだけど愛称がディアなんだよな。
南の島に移住したら名前が被ることになってややこしいことこの上ない。
後で姉さんに相談しておこう。
もちろん長姉エレオノーラのことだ。
島にいる次姉にスマホで連絡を取ってもいいのだけど、気にしないとかどうでもいいと言われて終了するのが目に見えているからね。
「抑えこんだ後はどうする。膠着状態が長引けば籠城する方が不利だぞ」
普通に考えればリーアル氏の言うことは正論である。
人は飲み食いしなければ生きていけないからね。
しかも向こうの頭数は領都を囲うには充分な数が残っている。
補給を受けるのが困難な状態であれば、いずれ食糧が尽きて飢えとの戦いも始まってしまう訳だ。
が、それは退路が断たれている場合の話であることをリーアル氏は失念しているな。
「そんなことはないですよ」
「なにっ!?」
「奴らがどんなに多かろうと大きかろうと我々はそのはるか上を飛ぶことができますからね」
俺の言葉にリーアル氏もさすがに気付いた。
「いかんな。自分たちも飛んできたというのに陸路でばかり考えてしまう」
自嘲気味に苦笑したリーアル氏を見てシューバのオッちゃんがバンと彼の背中を叩いた。
「痛いじゃないか」
「戒めとして痛みとともに覚えておくのだな」
そう言ってガハハと豪快に笑った。
「それはそうと退路が確保できるなら誘い込んで罠にはめることもできるのではないか」
「浅はかな。同じ手に何度も引っ掛かるとでも思っているのか」
シューバの提案にリーアル氏が先程の意趣返しとばかりに即反論した。
「そんなものは知らんよ。馬鹿ならかかるだろうし、そうでないなら別の手を打てば良いだけのことだ」
「仮にかかったとしても効果は見込めないぞ。あの繭の状態で燃えないのだからな」
「浅はかなのはどっちなんだか。ワシは炎の海にするとは言うてはおらぬ」
「なにぃ!? ならばどうすると言うんだ」
「氷漬けにするとか酸を浴びせるとか色々あるだろう」
氷漬けは難しいんじゃないかな。
アイツらすでに死んでるから低温で動けなくなるなんてことないだろうし。
生半可な氷ではパワーで破壊して脱出してきそうだ。
酸は効果があるかもしれないが大量に使うことになるから気化した空気が周囲に充満してこちらにも被害が出そうな気がする。
結界で囲っても気化状態だと素通りしてしまうであろうことがネックだ。
いずれも解決方法はあると思うけど、それを言うなら炎も同じである。
そもそも向こうが警戒して誘い込みに引っ掛かるとは思えない。
それを逆手にとって向こうに距離を取らせつつ迎撃するのがモアベターなのではないだろうか。
そんなことを考えている間にリーアル氏とシューバのオッちゃんが互いの主張を真っ向からぶつけ合う展開になっていた。
ああ言えばこう言う状況は子供の口ゲンカを見ているかのようだ。
「とりあえず罠はないな」
そう言ったのは今まで黙して語らずだった父アルブレヒトであった。
「奴らも同じ手を何度もくらうほど間抜けではあるまい」
その説明で反論を口に仕掛けていたシューバが悔しげに表情を歪めながらも口をつぐんだ。
「他にも対抗手段はあるのだろう?」
ヒートアップ状態から一気にクールダウンしたリーアル氏が聞いてくる。
「ええ。奴らの弱点を見つけました」
「何だとぉ!?」
「そんなものがあったのか……」
オッちゃんもリーアル氏も態度は対照的ながら、双方共に驚きをあらわにしている。
「ポーションを使います」
「「は?」」
ものの見事にハモっているな。
「生きている者には怪我を治す魔法の薬となりますが、アンデッドに使うと溶けてしまうんですよね」
両名ともに唖然呆然となっている。
衝撃が強すぎたのか理解に時間がかかるのかまでは不明だけれど。
「生者は正のアンデッドは負の生命力で動いていると言えば分かりやすいですか」
細胞の活性化が云々と説明しても「細胞って何だ?」ということになりかねないので、こういう問いかけになってしまった。
「それはつまり生きとし生けるものには薬となるものがアンデッドには毒になるというようなことか」
戸惑いながらも確認するように問うてくるリーアル氏。
「そのような解釈で良いと思います」
「よく気がついたな」
「本当にそんなことができるのか」
戸惑いの色を残しながらも感心しているリーアル氏に対して懐疑的なのはシューバである。
「連中がウエイブル子爵領へ向かうまでの間にゴーレムを用いて実験してあるので間違いないです」
「しかし、あれだけの規模の敵に使う量のポーションを確保するなど難しいだろう」
現実的な考えを口にするリーアル氏。
不可能だと決めつけないあたり配慮はしてくれているのだと思う。
「ポーションの生産は無休で実行していますし、ある程度は希釈しても効果があります」
「材料の確保は?」
「そこは魔法的な方法で強引なことをしていますが今回は非常事態なので」
「とにかくシドに任せておきゃ奴らに対する武器は不足なく確保できるってことでいいんだろう?」
細けえことはいいんだよとばかりにシューバが割り込んできた。
「そうですね。ポーションを用いた攻撃手段も用意してあります」
「抜かりのねえこった。これなら後はワシらしだいということになりそうだな」
シューバがニカッと歯を見せて笑みを浮かべた。
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