192 数を圧倒する力もある
両辺境伯にもどうにかこうにか納得してもらい、さっそく現状の説明を行うこととなった。
我が家へ移動し大型モニターを用意しつつ敵軍を罠にはめたことを述べると──
「燃やしたのか。ならば数を減らしたのだな」
シューバのオッちゃんが、なかば安堵していたのだが。
「おい、モニターを見ろ。妙なものが城壁の内側にあるぞ」
リーアル氏に言われてモニターに映し出されたモノを見てシューバは怪訝な表情を浮かべ──
「なんだ、あのやたらデカい変なものは!?」
燃えさかる街中に点在する巨大な繭を見るやいなや血相を変えていた。
「あまり想像したくないことだが罠にかかった反動で融合したのかもしれんな」
ノーヒントでその答えにたどり着くリーアル氏は大したものだ。
「融合だとぉ!?」
「シドくんがああなるようにしたのでなければ他に説明しようがあるまい」
「ぐぬぬ」
悔しげにうなるシューバだが反論の糸口がなくて歯噛みするばかりだ。
このまま放置すると関係ないことまで持ち出して口ゲンカを始めかねないな。
という訳で、あれがどういう経緯で繭状になったのかを見てもらうことにした。
スマホで操作してリアルタイムとこれから見せる映像で画面を分割する。
「右半分の方に注目してください。罠が発動するところからの映像を流します」
そう予告してから録画したものを再生する。
「これは凄い。振り返って見ることができるのか」
リーアル氏が驚きながら感心しているが、現代日本のテクノロジーを知る身からすると大袈裟だなと感じてしまう。
よくよく考えると無理からぬことなんだけどね。
「それよりも見ろ。ずいぶんと派手にやるじゃないか」
シューバのオッちゃんは流されている映像に釘付けで深く考えていないらしく録画した映像の再生技術についてはさほど気にならないようだ。
「おい、何だあれは!? 傷ついたアンデッドが集まっていくぞ!」
オッちゃん、うるさい。黙って見られんのかね。
これはアレだな。テレビでスポーツ観戦していると興奮して大声を張り上げるタイプ。
「静かにしろ。見れば分かる」
リーアル氏にツッコミを入れられてもなんのその。
オッちゃんは繭が形成されては「そういうことだったのかっ!」と声を発し、脈動に反応しては「なんじゃ、ありゃあっ!?」と驚きの声を上げていた。
「こんな感じでアレは繭状になって現在に至っています」
見せるものは見せたので早々に分割した画面を戻す。
それで静かになるとは考えにくかったが興奮材料を減らすに越したことはないだろう。
「今も燃やし続けている訳か。良く魔力が持つな」
「設置型の罠ですから地脈から引っ張ってきているんですよ」
「それは……、考えたな」
「そんなことより燃やしっぱなしなのはどうしてだ? ダメージが通っているようには見えんのだが」
シューバが素朴な疑問を口にする。
映像に釘付けだった状態からようやく戻ってきたようだ。
「それは確かに」
リーアル氏も素直に同意している。
「アレ、たまぁに脈動してますよね」
「しておるな」
「しているね」
「火力を弱めると間隔が縮まるんですよね」
「そういうことか」
「どういうことだ?」
リーアル氏がすぐ何かに思い至ったのに対しシューバは見当もつかないようだ。
「あの繭は燃やすことはできないものの炎の熱に耐えていることには違いないということだ」
「おお、言われてみればそうだな。つまり時間稼ぎで燃やし続けているのだな」
「その通りです。準備にかける時間はあればあるほど助かりますからね」
「けどよぉ、そこまで警戒しなきゃならんものか? せいぜいが目減りした数のアンデッドに戻るだけだろう」
中身がどうなっているのかを考慮しないと、そう考えるものなんだな。
「だといいんですけどね」
「何だ? 他に何かあるのか」
「これは僕の勝手な想像なんですが」
そう前置きしてから繭の中身について説明し始めた。
あの中はドロドロになっていて、言ってみればサナギの状態かもしれないこと。
それが成長することで元のグールからは想像もつかないような化け物になりかねないこと。
「まあ、有り体に言ってしまえばアンデッドの巨人ですね」
「嘘だろ、おい。城壁の上まで届くようなサイズのもあるんだぞ」
シューバが冷や汗を流して凍り付いたように固まってしまった。
「だが、あり得ないとは言い切れんな。常識はずれの大きさだがサナギと言えなくもない見た目をしている」
「おいおい、勘弁してくれよ。本当にそんな化け物になってしまうのか?」
「信じたくない気持ちは切り離して最悪の事態を想定するべきだろう。最も大きなものは数を凌駕する脅威になりかねん」
リーアル氏の言う通りだ。
アレが本当に繭の中で巨大アンデッドになっているのであれば手足は折りたたまれた状態のはず。
そんなものが外に出てくれば怪物以外の何者でもないだろう。
少なくとも破壊力は計り知れないものになり得る。
城壁など一蹴りで簡単に崩れ落ちるに違いない。
「そうは言うがな。あんなのに攻めてこられてみろ。人間じゃどう足掻いても止められんぞ」
「ならば先手を打って繭の状態でいる間に破壊するしかあるまい」
「どうやってだ? あれだけの炎で焼かれ続けても成長を遅らせるのがやっとの相手なんだぞ」
「地脈から吸い上げる魔力を増やすのはどうだろうか。火力が上がればあるいは消滅させられるかもしれん」
「できるのか?」
「無理ですね。魔力を一気に吸い上げると地脈の流れが無茶苦茶になったり破断したりしかねません」
「それってヤバいのか?」
シューバのオッちゃんは念のために聞いてきたのだろうが、最悪の場合はその手を使うのもやむを得ないくらいは考えていそうだ。
「ええ。魔物が異常繁殖したり植物が育たない不毛の地になったりする恐れがあります」
「そりゃあ話にならんな。いくらアンデッドを一掃するためとはいえ踏み越えちゃならねえ一線だ」
こういうのはエルフの専売特許みたいなイメージだったんだけど、ドワーフも自然を大事にするんだな。
「ならば吸い上げているうちの一部を溜め込むようにするのはどうだろうか」
リーアル氏は簡単には諦められないようだ。
「無理ですね。吸い上げた魔力を分離制御するような術式は記述してません。仮にそれができたとして必要な量まで溜め込む場所はどこにあるんです?」
吸い上げた魔力は使わなければ短時間で放出拡散してしまう。
魔石があれば話は別だが今回の件で必要になるであろう量を確保するのは不可能だ。
そんなものを用意する時間がないからであるのは言うまでもない。
「そ、それは……」
「諦めが肝心だぞ、リーアル」
「そうは言うがな。あんなのが本格的に動き出したらただ事では済まんのだぞ」
「誰も諦めるとは言うておらんだろう。そもそもシドには他の手立てがありそうだぞ」
「そうなのかっ!?」
シューバに向いていた視線を勢いよく俺の方へと戻してくるリーアル氏。
「まあ、いくつかありますけどね」
返事をすると絶句してしまったが。
一方で──
「なにっ!? 広場で見たワイバーン以外にも手立てがあるのか」
シューバのオッちゃんは驚きながらも冷静に先程見たものを思い出していたようだ。
「そうか、それを失念していた」
リーアルも思い出したようでフリーズ状態から復帰してくる。
「だが、1頭では話にならんな。向こうはサイズが様々とはいえ十数体は下らないのではないか」
「広場で見せた他にもワイバーンはいますよ。頭数はそろっていると思っていただいて結構です」
この言葉に両辺境伯が唖然とした顔になってしまった。
そりゃそうか。街のひとつやふたつは軽く壊滅状態に追い込める魔物だからな。
そんなのが群れ単位でいるとなれば信じ難くて当然だ。
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