191 人化しただけですべてが解決する訳ではない
途方に暮れるワイバーンたち。
さすがのディアも根性でどうにかしろみたいな無茶振りはしないようだ。
ただ、解決手段を持ち合わせている訳ではないようなので渋い表情で沈黙するばかりだ。
「解決する手段はあるよ」
この一言にディアだけでなくワイバーンたち全員が色めき立った。
俺に注がれる視線の圧が一瞬で今までの何倍にもなったから間違いない。
「俺にテイムされれば、さほど苦労することなく人化できるようになるはずだよ」
テイムを受け入れれば俺とのつながりができるから記憶を流し込むことだってできる訳で。
それは人化のために必要なデータと術式をマニュアル付きで得るに等しい。
例えるならプラモデル製作が分かりやすいだろうか。
テイムで人化するのがはめ込み式のプラモデルを購入して作る状態とするなら自力での人化は一から材料を集めて造形するフルスクラッチに等しい。
出来映えさえ気にしなければ購入したプラモの製作を失敗することなど普通は考えられない。
テイム後の人化もこれ以上ないくらいお膳立てされた状態なので同様である。
よほどの不器用か魔法に適性がなさすぎるのでなければ失敗のしようがないのだ。
結論から言うと、そういう面子はディアが連れてきたワイバーンたちの中にはいなかった。
テイムを拒んだ者もいない。
むしろ提案するやいなや俺の前に整列したくらいだ。
これ、ディアが厳しく彼らを指導していなかったら我先に殺到していたんじゃなかろうかという勢いがあった。
そんなに人化したいものなのかな。
人以外で転生したことのない俺にはちょっと想像がつかない。
根拠レスの当てずっぽうで考えるなら食べ物事情が変わるとかだろうか。
ワイバーンの食事って質より量なのは疑いようもないからね。
調理なんてしたことないだろうし。
グルメな個体がいたとしても素材を吟味するくらいでしか味の差を感じる機会はなかったはず。
それが人のサイズに収まることで逆転するなんてことがあるのかもしれない。
あの巨体では人間の料理など軽く舐めて終わりだろうし。
小さくなれば、そのあたりがまず変わる。
今まで舌で感じたことのない複雑な味を知ればどうなることやら。
とはいえ、この予想は当てずっぽうで根拠など皆無である。
これまで北の果てで暮らしてきた彼らが人の料理を味わう機会など叶ったことを考えると的外れな気がしてならない。
他に思いつくものがないからこその適当な予想なのだ。
なんにせよ整列してくれたおかげでワイバーンたちのテイムはスムーズに終えることができた。
ただひとつの問題を除いては完璧だったと思う。
テイムした全員の名前を考えるという苦行のような時間が待ち受けているとはね。
想定外もいいところだ。
ワイバーンたちとの協議の結果、集団全体の名称だけで良いとなったのはラッキーと言わざるを得ない。
それで決まったグループ名というかチーム名はダブロスである。
頭文字がワイバーンと同じWの空を飛ぶ有名人として思い浮かんだのがライト兄弟。
これをWbrosと短くしてフィーリングで読んだ格好だ。
そんなこんなでダブロスの面々も人化した訳だけど俺の記憶をベースにしているため海外の有名人っぽい容姿の者ばかりである。
日本でも知られた外国の映画俳優やスポーツ選手のそっくりさんが一堂に会しているおかげで俺の方が場違いな感じがして居心地が悪い。
そのうち慣れるとは思うけど。
あと、居心地と言えば彼らの服である。
人化は成功したけど服までは魔力で構築できなかったんだよね。
そんな訳で服についてはディアが用意した布地を俺が魔法で加工して用意した。
まさか真っ裸で人前に連れて行く訳にはいかないから気合い入れましたよ。
ちなみにディア自身はどうしたのかというと人化の魔法を使った際に服も同時に構築していたという。
ダブロスにはそれができなかった訳だ。
制御能力の差が出たのだろう。
次からは服込みで人化できるよう要修行だな。
でないと元の姿に戻るたびに俺が服を作らなきゃならなくなるし。
事前に用意しておくなり戻る前に脱いでおけばいいという話があるかもだけど俺としては却下だ。
大きくなるたびに服を引き裂いてしまうのは普通に勿体ないし緊急時に悠長なことやってられないからね。
なんにせよ人化できたなら街に迎え入れても大丈夫な訳で。
ダブロスを連れて帰路につく。
屋敷に戻って皆に紹介したら使用人たちのうち何人かは卒倒してしまった。
気配で只者でないことを察していたところに人化した超大型の魔物の名称が出てくれば無理からぬところはあるか。
騎士や兵士の中で倒れ込むような者は出なかったけど顔色は変わっていた。
それだけ恐れられているってことなんだろうけど正直そこまでとは思っていなかったので驚かされてばかりだ。
俺の感覚って麻痺しているのかな。
けど、レイチェル殿下は平然としていたというか喜んでいたくらいなんだよな。
分からん。
よくよく考えたら殿下が普通じゃないのか。
知ってたけど……
こんな状態なら領民には知らせない方がとか考えていたら、父アルブレヒトがあっさりバラして回った。
ダブロスの中から1人選んで広場へ連れて行き元の姿に戻す念の入れようである。
おかげで最初は半信半疑だった者たちも信じざるを得なくなった。
結果として恐怖をまき散らすことになったのは言うまでもあるまい。
だけど不思議とパニックになることはなくて、せいぜいが驚かれたり怯えられたりしたくらいである。
それはそれで驚かされたけどさ。
最終的には父がそれだけ領民から信頼されているのだということで事実として受け入れることにした。
父が俺のことを凄腕のテイマーだと紹介したことが影響しているであろう点については深く考えないことにしている。
領民の視線が、ね。
拒絶の色は感じられなかったけど程度の差はあれ畏怖が混ざっていると居心地に影響するのだ。
もっと居心地が悪いのは少ないながら純粋に俺が凄いと思われることである。
まあ、父がそれだけ支持されているものとして受け止めておこう。
いかに領主の子息であるとはいえ10才児に尊敬の眼差しとか勘弁してほしいもんな。
そういうのは成人してから実績を積み重ねることで得ていくのが本筋というものだ。
などと現実逃避的にあれやこれやと考えていると飛行船が飛来して広場に着陸した。
タラップが下りるなりダダダダダッと駆け下ってくる約2名。
「今ここにワイバーンがいなかったかっ!?」
「どこに消えたのだ!?」
エルフのリーアル・フォレー辺境伯とドワーフのシューバ・タルネー辺境伯である。
「ここにいますよ。飛行船の着地に邪魔になるので人化させました」
「「人化だとぉっ!?」」
両名ともこれ以上ないというくらい大きく目を開ききっている。
「テイムしたので御安心ください」
「「テイムしたぁあ!?」」
今度はあんぐりと口を開けてしまう始末。
うちの領民よりも激しいリアクションである。
それでも驚きこそすれ錯乱状態にまで至らないのは人生経験のなせる業か領主としての矜持があるからか。
いずれにせよタイミングは悪くなかったと思いたい。
後で説明する方が絶対に面倒くさいもんなぁ。
読んでくれてありがとう。
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