190 舐められてます?
緊急避難のピストン輸送を指示した後にGタイラントスパイダーのディアをともないワイバーンたちの元へと向かった。
え? 名前を何時決めたんだって?
さっさと決めないと不便だから、どうにかひねり出したんだよ。
まず、ハンター──戦ったときのイメージがそんな感じだった──から狩猟と月の女神ディアーヌが思い浮かんだ。
そこから女神のまんまだとおこがましいかと思って後ろを端折った。
今回の同行者はタッちゃんとリスタのみ。
時間はもちろん人的な余裕もないからね。
で、ワイバーンたちの元に到着する頃にはじゃれ合っている者など誰もいなかった。
それどころか着地して縦横のマス目状に整列している。
ガチガチに緊張しているように見えるのは気のせいではないようだ。
中には小刻みに震えているようなのもいる始末だからね。
最初はディアのせいかとも思ったのだけど、それにしては視線に落ち着きがない。
普通ならディアに集中するべきなのに俺の方をチラ見してくる。
かと言って俺が見られているような感じがしないんだよね。
よくよく観察してみると俺の側でフヨフヨと浮いているタッちゃんを気にしているようだ。
「もしかして──」
言いながらディアの方を見やる。
「タッちゃんに畏縮しているとか?」
「そのようです。部下の胆力が足りず申し訳ありません」
謝ってくるけど気にするようなことかな。
むしろ、こちらの方が申し訳ない気持ちになるんだけど。
「気にしなくていいよ。そのうち慣れるでしょ」
「恐れ入ります」
そんなやり取りをしたせいか今度は俺にも視線が向けられた。
ハッキリ言って軽い。
どう考えても人間の子供だと思って舐められている。
サイズ感で言えばタッちゃんより俺の方が大きいはずなんだけどな。
長さで負けてる? そういう問題じゃないと思うよ。
さすがに殺気を向けられることはなかったものの見た目で侮られているのは間違いないだろうからね。
どうしたものかと考えていたら……
「アンタたちぃ、主に対して舐めた態度取ってんじゃないよっ!!」
ディアが鬼教官モードのスイッチを入れて怒鳴っていた。
ワイバーンたち相手だと喋り方もずいぶんと変わってしまうみたいだね。
一喝された彼らはビシッと直立の姿勢になった。
でも、ディアを恐れているだけで俺に対する冷ややかな空気はさほど変わらない。
従っているように見えるのは表面上だけの話だろう。
面従腹背ってやつだな。
「しょうがないなぁ」
面倒くさくて嘆息が漏れるけど最初が肝心だから手は抜けない。
要するに、どちらが格上なのかを見せればハッキリする。
あの手この手で策を弄してくるような人間と比べればシンプルでやりやすくはあるんだけどね。
脳筋思考の面々を抱え込むことを思うと先々が思いやられるよ。
「シドよ、本気になるか」
「戦力として見込めるのはありがたいけど領民に危害が加えられない保証がないからね。彼らを納得させないと帰すしかなくなるよ」
俺の言葉でギョッと目をむいたディアを手で制する。
大人しく引き下がったディアを見てワイバーンたちの間に「嘘だろ」という驚愕の空気が広がっていった。
なんでこんな人間のガキにとか思ってるんだろうなぁ。
「そんじゃ、始めますかぁ」
とは言ったもののワイバーンたち相手にバトルを挑む訳ではない。
要は格に違いさえ見せられればいいのだ。
そのために普段は抑えこんでいる魔力を解放する。
イメージはバトルアニメに不滅の金字塔を打ち立てたと言っても過言ではないであろう作品に出てくるスーパーな感じの戦士だ。
見た目で侮ってくるなら見た目でもビビらせてやらないとね。
だからと言って髪の毛が金色になったり逆立ったりはしないんだけど。
仮に変化させたとしても前世の宍戸紀文ならともかく今の俺の髪は銀色だから変化が分かりにくい。
「はあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
一気に解放された魔力がオーラの奔流となってほとばしれば一瞬でワイバーンたちがビクリと反応した。
風属性の魔法を使う彼らが解き放たれた魔力に気付かない訳がない。
「ほう、面白い演出だな」
タッちゃんが喉を鳴らして笑っていた。
普通は魔力なんて可視化されないんだけど、そこをあえて例のアニメ風に見えるようにしている。
「見ていて分かりやすいだろ」
イメージで制御の仕方を変えているだけなので無駄に消費されるようなこともないし実にお手軽だ。
人によっては子供だましだの何だのと言ってくるかもしれないけれど。
目の前のワイバーンたちはそうは思わなかったようだ。
ズシンズシンと次々に尻餅をついていく。
表情の変化は人ではないので分からないが目は嘘をつけない。
驚愕は言うに及ばず間違いなく怯えの色を宿していた。
つまり、腰を抜かしたってことだ。
思った以上に驚いてくれたようでなによりである。
やり過ぎてしまったとも言えなくはなさそうだが失禁にまでは至らなかったので良しとしよう。
「とまあ、こんな感じだけど少しばかり本気で遊んでみるか?」
魔力の奔流を抑えこんで尋ねてみるが一斉に首をブンブンと振られてしまった。
人の言葉は話せないながらも「いいえ、結構です!」という声が聞こえてきそうだ。
もしかしてインパクトが強すぎてトラウマになったかな。
「馬鹿どもが」
嘆息するように呟きを漏らすディア。
怒りをあらわにしていてもおかしくないような台詞ではあったが、どちらかと言えば呆れているように見受けられる。
「この私が唯一負けた相手だって言ったじゃないか。それを見た目で侮って舐めた態度取ってるから、そういう目にあうんだよ」
ディアの説教が始まったが放っておく。
すぐに口をはさむと俺まで巻き込まれかねない空気を感じ取ったからだ。
あまりに長引くようなら止めるくらいでいいだろう。
そんな訳で待つことしばし。
時間にすれば数分程度だろうか。
もしかするともう少しばかり経過していたかもしれない。
なんにせよ、そろそろかなと思い始めたところでディアの説教タイムが終了。
程良く終わったようでワイバーンたちも神妙な感じでかしこまりながらも控えめにホッとした様子を見せていた。
絶妙なサジ加減と言えるだろう。
「それじゃあ、アンタたちはしばらくここで修行してな。主の敵が街に押し寄せてきたら分かってるね」
街中に連れて行けないからの指示だというのはすぐに理解できたものの修行の内容というのが気になる。
対アンデッドの魔法を鍛えるつもりだろうか。
ワイバーンが得意なのは風属性だけど、アンデッドに有効とは言い難いからね。
「修行って?」
「人化です。これができないことには不自由極まりないですから」
「ああ、そっちか。確かに今のままじゃ街へ入れる訳にはいかないもんな」
ディアの説明を聞いて、ようやく得心がいった。
事前に気付かなかったのが情けなくなるような話ではあるのだけど。
ただ、そんなことを気にしている場合ではないので恥じ入るのは今ではない。
このままではどれだけ頑張っても彼らは人化できないのだ。
その事実を告げると──
「どういうことですか!?」
ディアにとっては予想外だったようで驚いた顔で固まったまま聞いてきた。
「だって人間をまともに見たことないんだろ」
ワイバーンたちに顔を向けて問いかけると全員がコクコクと首肯した。
「それでどうやって人に化けるんだよ」
そのツッコミに俺とタッちゃん以外の全員が驚愕していた。
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