189 馳せ参じる
「お察しの通りGタイラントスパイダーですよ、父上」
自分でそう言って、ふと気付いた。
客人が誰か分からなくて父上呼びしていたけど判明した今は普段通り父さんで良いのではないかと。
まあ、いま気にすることではないかもしれないが。
「なんということだ」
どうにかといった感じで声を絞り出す父アルブレヒト。
無理からぬことだろうね。
本来であれば通常種のタイラントスパイターでさえワイバーンとタメを張るほど巨大と言われるのだ。
それと対比すれば幼児と大人ぐらいの差があるほどデカいもんな。
さすがは上位種といったところか。
しかしながら人化した状態でもシルエットは完璧なのに違和感を抱かせるほどの大きさがある。
そんな彼女が席を立ち俺の前に来た。
「ちょっと」
抗議するように口を出したのは俺の後ろにいた姉エレオノーラである。
「大丈夫ですよ、姉さん。テイムしているんですから」
その契約状態を破棄させてしまうような酷い真似をしているならともかく何もしていない状態で危害を加えられるようなことはない。
それを証明するかのごとくGタイラントスパイダーの女は背筋を伸ばしたまま片膝をつくような姿勢になった。
人間の礼儀にならうとはリスタやタッちゃんとはまた違ったタイプだな。
ちなみにこれはカーテシーの一種だ。
スカートの裾を摘まんでお辞儀をするのはより丁寧なものとされている。
こういう人間の常識的な知識は俺とリンクができた際に流れ込んだものだろう。
偶然なのか何なのか、こっちの世界でも同じだったので違和感がなくて助かっている。
「お久しゅうございます、我が主よ」
「ん。久しぶり」
彼女がかような言葉で挨拶をするほど日数が経過している訳ではないのだが確かに久々感がある。
俺の方はなんやかやあったせいなのは言うまでもない。
向こうも北方のワイバーンどもを相手に大立ち回りを繰り返していたはずだからなぁ。
戦っている間はあっと言う間に感じられても、それを積み重ねれば不思議と長く感じるものだ。
「誠に申し訳ございません。こちらの様子をうかがっていたところ居ても立ってもいられなくなりまして。僭越ながらまかり越しました」
ずいぶんと流暢に喋るようになったものだ。
いや、それよりもずいぶんと遠くから見られていたんだな。
千里眼にも等しいんじゃなかろうか。
「つまり、街の外でじゃれ合っているデカいのはお前が連れて来たんだな」
「はい。教育を施して連れてきた手の者です。人化が未習得のため離れた場所で待機させております」
抑えこめばそれでいいと思って送り出したら制圧して手下にしていましたよ?
まあ、不都合はないけどさ。
むしろ万が一の可能性が当初の想定よりも低くなったと見るべきだろうな。
それと彼女は恐縮しているが制限はもうけていないので叱責には値しない。
むしろ、よくやったと言うべきか。
「おい、シド。デカいのって何だ!?」
思わずと言った様子で父が問い詰めるように聞いてきた。
そういえば来客対応をしていたアルブレヒトは知らないんだったな。
「ワイバーンですよ、父さん。少々元気が有り余っているようで奔放な待機の仕方になっているようですが」
「なにっ!?」
「御心配なく。タッちゃんによればじゃれ合っているだけのようですよ。こちらに被害が出る様子もないようですし大丈夫でしょう」
「そ、そうか。それならば……」
焦りを見せていた父だが、街が襲われている訳ではないと理解すると緊張を解いて胸をなで下ろした。
もっとも、複雑な表情は残していたけれど。
無理もない。
護国大臣を任じられ実戦派で鳴らしたはず父が対応に頭を悩ませる超大型の魔物が領都の目と鼻の先で複数いて戯れていると聞かされては心中穏やかではいられまい。
顔に出たとしても誰が責められようか。
「主よ、この様子では街の人間が怯えるのではありませんか」
「かもね」
スマホを取り出して領都の定点ゴーレムで街中の様子を確認していくが静かなものだ。
「でも、大丈夫でしょ。パニックになって街のあちこちで混乱状態になっているようには見えないから」
「いえ。これでは何のために人化した私だけが参上したのか」
苦々しげに吐露する──
そういやGタイラントスパイダーの名前を決めてなかった。
今すぐとは言わないけど考えないといけないよなぁ。
「地獄を垣間見せただけでは足りなかったのでしょう。再教育が必要なようです」
静かに怒気をたぎらせているあたり本気っぷりがハンパない。
「度を超していないようだし口頭注意でいいんじゃないかな。繰り返すようなら再教育ってことで」
「主がそう仰るなら」
命拾いしたのはワイバーンたちのはずなのに何故か俺まで安堵させられてしまいましたよ?
なんにせよ超強力な戦力が得られたのは大きい。
これなら犠牲を限りなくゼロに近づけることも不可能ではないだろう。
「それよりもワイバーンたちをどうするかだろう」
父が悩ましげに問題提起する。
「どうって、領民の避難が完了するまでは待機でいいんじゃないですかね」
「むぅ。これ以上、領民を怯えさせる訳にもいかんか」
そういうこと。
姉が血相を変えて俺の所へ飛び込んできたくらいだし。
「そんなことより領民の避難を急いだ方がいいと思いますよ」
「ん? 何か別の問題があるのか」
怪訝な表情を覗かせるアルブレヒト。
「ええ、まあ。どうなるかは今後しだいではあるんですが……」
言いながら大型モニターを引っ張り出す。
もはや慣れっこの面々は特に表情を変えることはなかったが、Gタイラントスパイダーは何が始まるのかと興味津々だ。
「奴らがウエイブル子爵領に向かったので爆破したら、この有様です」
スマホを操作してモニターに現状を映し出す。
そこには火の海と化した城壁の内側で巨大な繭が炎にあぶられていた。
「これは……」
「アンデッドたちの成れの果てですよ、父さん」
「何をどうすればこうなるんだ」
「誘い込んで爆破炎上させた結果がこれです。中心にいるグールが身を守るためにゾンビやスケルトンを引き寄せてこうなりました」
「そんな話、聞いたことすらないぞ」
呆れた様子で頭を振るアルブレヒト。
「おそらくですが父さんの魔法に対抗するために奴らが用意していた策なのではないかと」
「……言われてみれば少しは炎に耐性ができているようだな。耐えきって火が消えれば再び動き出すということか」
「断言はできませんが、その可能性もあるかと」
だから火を消さずに放置してるんだけどね。
「ならばこれを注視しつつ避難を急ぐとしよう」
即座に決断した父が配下の騎士を呼び寄せ指示を出していく。
主に住民の避難誘導についてだ。
今までは飛行船が到着してから領民を集めていたが、指示後は飛行船が帰ってくる前に定員に相当する数を待機させるよう改めた。
あと、通信で連絡して飛行船の速度を上げさせるのも忘れない。
戦闘機で言うところのアフターバーナー的な加速をすることになるのだけど魔力消費はハンパない。
近距離の往復なら持つけど今回の緊急避難後すぐには移住できなくなる。
魔力がスッカラカンになるだろうし再充填にそれなりの時間がかかるからさ。
まだまだ改良の余地はあるけど、この戦いが終わらないことにはね。
アンデッドどもの討伐を終わらせても休めそうにないよ。
やれやれだ。
読んでくれてありがとう。
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