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188 まずは来客から

 俺は聖徳太子じゃないんだよと内心でツッコミを入れていた。

 2人同時ならまだしも3人が別々の用件を伝えてくるとかシャレにならん。

 しかも、そのうちの2件はどう考えても片手間に終わらせることができるとは思えない。


 タッちゃんの言うグールのただならぬ状態に姉エレオノーラが血相を変える招かれざる客。

 どちらを優先すべきかと思案し始めたところで……


「シド、まずはお主を指名した来客とやらに会いに行くが良い」


「なんだって!? 大丈夫なのか、タッちゃん」


「グールの方はすぐにどうこうなる訳ではない」


「そうなんだ」


 よく分からないが、タッちゃんがそう言うなら時間的な猶予はあるのだろう。

 どういう結果をもたらすのかは不明なままなのが一抹の不安を感じさせるけど。


「それと招かれざる客とやらは街から離れた場所で待機しているだけだ」


「本当に大丈夫なの?」


 タッちゃんの言葉に間髪を容れず反応したのは懐疑的な目をしたエレオノーラだった。


「無論だ。奴らは殺気を放ってはおらぬ」


「それにしては派手に飛び回っているわよ」


 一体、なにが来たんだ?

 殺気を放たずとも脅威を感じるような迫力のあるのが複数いるってことだよな。

 それも空を飛んでいるとくれば……

 思い当たる節がなくはない。


 ただ、それを素直に肯定できないのも事実だ。

 本来であれば奴らが飛来するはずはないのだから。

 けれども、今ここで得られる情報のみを元に考えるならばアレしかない。


「もしかして招かれざる客とはワイバーンのことですか?」


 たまらず姉に聞いてしまったさ。

 無理からぬことだと思う。

 俺の半信半疑な推測通りであるなら厄介なことになったと言わざるを得ない。


 ワイバーンとは人間を丸呑みできるほどの巨体を持つ翼竜である。

 世間的にはドラゴンの一種と思われたりもしているが厳密にはドラゴンではない。

 その証拠に風の魔法は使えるもののドラゴンの代名詞とも言えるブレスは使えないからね。

 群れを作る習性を持つのもドラゴンとは異なる。

 単体で容易く国を滅ぼせるほどの存在であるドラゴンほど強くないせいだろう。

 それでも気性の激しさから空の暴君の異名を持つくらいには人々から恐れられている。

 奴らがその気になれば街くらいは簡単に壊滅させられるはずだ。


「その通りよ」


 Gタイラントスパイダーの奴は何をやってんだぁ。

 ワイバーンどもが南下してこないよう牽制に向かわせたにもかかわらず今のありさまだ。

 巨大蜘蛛はテイムしたから職務放棄はあり得ない。

 しかも通常種よりもさらに大きな特殊固体だからワイバーンの群れに対抗できず敗北したということも考えにくいのだが。

 そうなるとワイバーンどもの群れが複数あって対処しきれなかったと見るべきか。


「そのような難しい顔をしなくとも大丈夫だ。奴らは暇を持て余して仲間同士でじゃれ合っておるだけよ」


「じゃれっ……」


 理解不能と言わんばかりに大きく目を見開き固まってしまうエレオノーラ。

 気持ちは分からんでもない。

 ペットの猫なんかがそうするなら可愛いものだが、あんなデカブツが遊びに夢中になると普通の人間には暴れ回っているようにしか見えないだろう。


「タッちゃんがそう言うなら、そっちは保留でいいか」


「ちょっ」


 再起動したエレオノーラが口をはさもうとしてくるが言葉が続かない。

 姉には明確な対案がないというのもあるだろうけど一応は俺も信用されていると思っていいのかな。


 とにかくグールどもに関しては猶予があるしワイバーンは放置しても問題なしなのは分かった。

 となれば残された選択肢は来客対応か。


 俺を指名するなんて有名になった覚えはないんだが誰なんだ?

 少し考えたくらいでは心当たりなどまったく思いつかないし新たに情報が入ってくる訳でもないだろう。

 いつまでも書庫でうだうだと考え込んでいても、らちがあかない。


「しょうがない。行ってくるよ」


「我も行こう」


 俺1人で行こうと思っていたのにタッちゃんが同行することになり──


「私も行くわ」


 姉エレオノーラまでもが来ることになった。

 大挙してとまでは言わないが、俺を指名した相手は混乱するか礼節に欠けると怒るかもしれない。

 大丈夫かなと思いつつも執事の先導で母屋へと向かう。

 とりあえずは彼が何も言わないので良しということにしておくか。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「お待たせしました」


 応接間に入った直後の俺の感想は「誰?」であった。

 よくぞ声に出さなかったものだと自賛したい。


 姉の視線を感じてそちらを見ると「知ってる?」と視線で問われた。

 もちろん答えはノーだ。


 父アルブレヒトの正面に座る人物は、このあたりでは見慣れない衣装に身を包んだ黒髪の美女だった。

 気の強そうな印象を抱かせる切れ長の目をしており日本人形のようだと思ったのは内緒である。

 言ったところで誰にも伝わらないからね。


 あと、人によってはオバさんと呼んでしまうくらいの年齢に見える。

 怖そうな雰囲気があるので口が裂けても言うつもりはないが。

 雰囲気で思い出したけど、ロボットアニメの金字塔と言われることもある某アニメのスピンオフ作品に出てきたあの方にそっくりかも。

 上官に騙されて汚れ仕事をさせられた上に責任をなすり付けられたオバ……もとい、デカい中佐殿だ。


「シドは面識がなさそうだな」


 俺の表情を見た父にまでそんなことを言われてしまったが客人は動じることなく俺のことをじっと見ている。


「人違いではないのか?」


 客人に問いかけるアルブレヒト。


「君が言った、このあたりでもっとも強大な魔力を持つ子供はこの子しかおらんのだが」


 名前じゃなくてそういう指名の仕方だったのか。

 父は人違いだと思い始めているようだけど、俺は逆に彼女に指定されたと確信していた。

 容姿に見覚えがなかったせいで魔力を丁寧に探った結果なので間違いない。


 この魔力には覚えがあったのだ。

 遭遇したのは偶然で一度きりではあったけど鮮烈な印象が残っている。

 その時とは姿形がまるで異なるけれど、それは魔法で今の姿になっているのであろうことは容易に想像がついた。


 心配はいらないという確信はあるのだけどタッちゃんが同行すると言ったのもうなずける相手だ。

 俺には危害が加えられなくても他の人や物に対してはその限りではない。

 ハッキリ言って性格はまるで分からないんだよなぁ。

 レイチェル殿下がこの場にいないのは正直安心するよ。


「その姿では初めましてですが知っているか否かで言えば知っていますよ、父上」


「なにっ、どういうことだ!?」


 父が驚き困惑するのも無理からぬこと。

 見たことがないのに知己であると言われれば誰だってそういう反応をするだろう。


「魔法で人化しておるのだ。本来の姿であれば尋常ならざる大きさだからな」


 俺より先にタッちゃんが説明してくれた。


「あと元の姿だと人語でコミュニケーションができません」


 リスタと同じように発声器官を持たないからね。

 変身してでもコミュニケーションを取ろうとするあたりは違うけど。


「それもあるな。いくら契約者とつながりができたことで人語を解するようになっても声を発するような種族ではないからのう」


 俺たちのやり取りで父アルブレヒトの顔からサーッと血の気が引いていく。

 ギギギと音のしそうなぎこちない動きで振り向き──


「まさか、あの時の……」


 そういうのが精一杯らしく固まってしまったのはしょうがないかな。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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