187 実験とトラップと
その後、姉によって強制的に休ませられた俺は数時間の仮眠を経て再び動き出す。
具体的に言うならば遠隔操作による現場での実験を行った。
上手くいけば切り札にもなり得るからね。
実行する実験内容はさほど大変なものではない。
とある液体を搭載させた偵察機を敵陣の目立たない場所に送り込んで噴霧させ、それを観察するだけだ。
もちろん大半が操り人形でしかないアンデッドの軍勢だからこそ使える手なんだけど。
とはいえ所々に配置されているグールは現場を指揮するような素振りが見られるので油断は禁物。
思惑通りの実験結果ならアンデッドはダメージを受けるので敵側にも異常事態として察知される恐れはあるからね。
簡単に気付かれないよう光学迷彩と遮音を併用するのは必須だ。
慎重かつ大胆に実行した実験は敵に気取られることなく成功を収めた。
わずかな時間でアンデッドが死体も残さず消えてしまったからだ。
消滅はさすがに予想していなかったが嬉しい誤算である。
「よし! 増産決定」
本来の方法ではあの大群に対応できる量を用意しようとしても到底間に合わないのは分かっている。
故に固有魔法クリエイションを用いて創造する形で複製することにした。
この方法なら本気を出せば秒で3桁は出せるからね。
「シドよ、あれは何の液体をかけたのだ?」
画面越しの光景を見たタッちゃんが困惑しながら聞いてきた。
「初級ポーションだよ」
「なんと!? そんなものでゾンビが溶けてしまうのか」
この新事実は元ドラゴンの青龍であるタッちゃんすら知らなかったみたいだな。
「これは俺にとっても予想外かな。せいぜい動きが遅くなる程度だと思っていたんだけど」
「ううむ。負の生命とも言えるアンデッドが生命力を活性化させるポーションでダメージを受けるのは分かるが、まさか溶けて消えてしまうほどの効果を発揮するとは」
「だね。俺もビックリだ」
「これなら薄めて使っても効果がありそうだな」
タッちゃんがそんな予測を立てる。
「あー、そっか。それも実験してみないといけないか」
場合によっては一気に形勢逆転できるかもだけど、ぶっつけ本番はさすがに怖い。
効果が弱まるだけならまだしもノーダメージなんてことになったら目も当てられない。
「その場合は注意せねば敵に気取られる恐れがあるぞ」
そりゃそうだ。
どれだけ希釈するのが最適なのかを確認するには実験を繰り返す必要がある。
が、数をこなせばこなすほど発見される確率は上がっていく訳で。
一度で終わらせるべく同時に複数個所で行うのも同様である。
「ああ。次の実験は罠を発動させる直前に実行することにするよ」
「どさくさにまぎれさせる訳か」
「ああ。それに街中だと建物の影に隠れて発見されにくいから同時に複数個所でやりやすい」
「なるほどな。とはいえ、この実験に意味はあるのか?」
タッちゃんの疑問ももっともだ。
ポーションをかけるまでもなく爆発炎上させればアンデッドどもも無事では済まないのだから。
「保健だよ。あいつら全員が街に入るとも限らないし」
「敵の中に勘のいい奴がいるのだったな」
「そそ。7割8割は削りたいけど上手くいかないかもしれないもんね」
こればかりは予想がつかないのだ。
下手をすると罠が不発で終わることだって充分に考えられる。
どうなるかは神のみぞ知ると言いたいところなんだけど、こっちの世界の神様役はノーサムだ。
自分で世界の管理者って言ってるから神様とは似て非なるものなんだよな。
神託を下すような形で教えてくれたりはしない気がする。
さてさて、どうなりますやら。
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さらなる実験は別の問題があったけれど納得のいく結果に終わった。
ポーションを薄めれば薄めるほど効果を発揮するまでの時間が長くなったけれど、3倍までは普通にアンデッドを溶かしたからね。
動きを鈍らせるだけなら数十倍でも効果が見られた。
それができたところで進軍速度を遅らせるくらいしか効果が見込めないんだけど。
普通に考えると3倍に薄めたものを用意するのが定石なんだろう。
ただ、最初から薄めた状態のものにしてしまうと人間相手には非常に使いづらいものになってしまうんだよな。
こういうのは予備を多めに用意しておいて最終的に余らせるものだから本来の目的で使うことも考慮しておかないといけない。
その場合、緊急性の高い状況で治癒の遅いポーションなんて意味がない。
そう考えると使用時に希釈するようにするのがベストだ。
という訳で射出時に3倍に薄められるような魔道具もポーションと同時に用意する。
ドローンと放水銃の2種類だ。
実験の方は想定内の結果だったため良かったのだけど別の問題の方は想定外だった。
アンデッドの軍勢の半数以上をトラップに誘い込めたまでは良かったんだけどね。
最初の爆発で爆心地にいてバラバラになった奴らは仕留めたと思うのが普通だよな。
ところが爆発後に燃えさかる炎の中で再利用されていたのだ。
奴らを統率していたグールどもで無事なものを中心にスケルトンやゾンビどもが吸い寄せるように集められ巨大な繭か卵を思わせる形状になって乱立していた。
残骸同然のアンデッドまでもが使われるあたり微塵も無駄にすまいという執念じみた意思を感じる。
とにかく、あれなら炎が消えた後もグールどもは残るだろう。
まさしく肉の壁状態。
よく見れば腐肉と骨なんだけどさ。
なんにせよ結構な数のアンデッドが残ってしまうことが確定した。
最初に街に入ったのが半数だけだったのが用心されていたと見るべきか。
何かあると踏んでいたんだろうな。
その上で炎上から現場指揮官たちを守るあの一手は、おそらく決戦時の攻撃魔法対策の切り札として考案されたものじゃなかろうか。
今回のために用意した訳ではなくても応用が利くあたり単細胞ではないということだな。
これについては向こうの方が上手だった訳だ。
炎系の魔法は現ミューラー伯爵である父アルブレヒトが得意としていることで有名だから対策されるのは当然のこととして割り切るしかないだろう。
こちらも収穫はあった訳だし決戦に向けて準備を進めるだけだ。
そう思っていたのだけど……
「シド、あれはグールどもを残すだけでは終わりそうにないぞ」
「シド、北の方から招かれざる客が押し寄せてきているわ!」
「シド様、アルブレヒト様がお呼びです。来客からの御指名とのことです」
モニター越しに燃えさかる繭もどきを見ていたタッちゃんが不穏なことを言い始め。
姉エレオノーラが慌てた様子で書庫に駆け込んで来たり我が家の執事が呼びに来たりと次々にイベントが発生する。
いや、俺1人でどうしろと?
読んでくれてありがとう。
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