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182/202

182 南の島は北国の常識が通じない

 ウエイブル子爵たちのことも含めあれやこれやと説明することしばし。


「ダンジョンだけでなく古代の遺跡を発見するとはな」


 先に発見したのは遺跡の方なんだけど辺境伯たちの興味はダンジョンに傾いているようだ。


「ゲオルグもなかなかやるではないか。脳筋だと思っておったのだがな」


「奴もお前には言われたくないと思うぞ」


「ワシはメリハリをつけておる。力で解決する方が手っ取り早いときはそうしているだけだ」


「その結果、大半が力押しではないか」


 両辺境伯が軽口を叩き合っているけど普段からこんな感じな気がする。

 そんな空気感だ。


「とにかく新たに国を興せるくらいの土地は余裕であるのだな」


 唐突に漫談をやめて俺の方へ話を振ってくるタルネー辺境伯。

 ドワーフってこんなに落ち着きのない種族だっけ?


「仮に国ごと移住したとしても、おつりが来ますよ」


 レイチェル殿下を駒のように利用するか抹殺を画策するような輩はお断りだけどね。

 なんにせよ移住先の無人島は文明が途絶えて長い年月が経過しているため土地はあっても住み処がない状態だ。

 大勢で移住するとなると住む場所を確保するだけでも一大事業である。


「だが、しばらくはテント暮らしを余儀なくされるのだろう?」


 フォレー辺境伯もそのあたりについては、すぐに気付いたようだ。


「それはそうですね。一気に人が増えるとは想定していませんでしたから」


「不自由が長く続くと民は不平不満のはけ口を求めるようになるぞ」


「ですから本格的な移住は春以降を予定していたのですよ」


「冬の間に街を作り上げようというのか!?」


 驚愕と言ってしまうと大袈裟だがフォレー辺境伯は少なからず驚いている。

 少なくとも俺が違和感を感じたくらいには強めの反応だ。


「そういうことです」


「しかしな、そんなことが可能なのか?」


「土木作業のほとんどはゴーレムに任せていますから大丈夫ですよ」


「ほう、自立性の高いゴーレムを使っておるのだな」


 細かな話に興味はないと言わんばかりに無言を貫いていたタルネー辺境伯が興味を示した。


「だとしてもだ」


 フォレー辺境伯が少しばかり渋めの表情でシャットアウトする。

 話が脱線してしまうのを嫌ったのだろう。


「いかにゴーレムといえども雪中の作業は困難だろう。少なくとも急ピッチで進めるのは無理ではないのか」


 道理で違和感を感じるはずだよ。

 妙に驚いていると思ったら完全に誤解されていた。

 南の島の気候的な環境を正確には想像できなかったんだな。

 豪雪の国で生まれ育ったから無理もないとは思うのだけれど。


「御心配なく。雪が積もるほど降ることはまれですよ。積もっても何日も雪が残るようなことはありませんし」


「なっ……!?」


 あー、固まっちゃった。

 近隣諸国はどこも冬は雪深くなる国々ばかりだからなぁ。

 冬に雪が積もらないなんて、それこそ奇想天外なことなのかもしれない。


「それだけ温暖な気候ということか」


 そう言いながら感慨深げに目を閉じるタルネー辺境伯。

 あの様子だと頭の中でまだ見ぬ無人島の夏を再現しているような気がする。


「おそらくですが夏は信じられないほど暑いですよ」


 俺としては日本の九州とか沖縄あたりが気候的に近いんじゃないかと予想している。


「ほう。それはそれは想像がつかんのう」


 そう言いながらもタルネー辺境伯はどこか楽しげだ。

 ドワーフは鍛冶を生業にしている者が多いから過酷な環境でも抵抗はないのかもね。


「そのような場所では作物は育たないのではないか」


 冷害によって自領で行き詰まりを感じているというフォレー辺境伯はそこが気になるようだ。

 寒すぎてダメなら暑すぎてもと警戒するのは仕方ないか。


「寒冷地でしか育たないものはそうでしょうね。ただ、不毛の地とは正反対の場所ですから食糧確保ができないなんてことにはならないと思いますよ」


「正反対……」


 短く呟くフォレー辺境伯は己の予想が掛け離れていたことに茫然自失の状態だ。

 未知であるが故に環境が大幅に異なる場所を想像することは至難の業なのだろう。

 これは言葉を尽くして説明しても容易に覆せそうにないなぁ。

 ならば百聞は一見にしかずで行くか。


「古代遺跡の結界が中途半端に作動しているおかげで上空からは小さな島にしか見えませんが──」


 先に前置きしてから上空警戒用ドローンの映像を出しっぱなしにしていた大型モニターに流す。

 映し出されたのは海上にぽつんと浮かぶそこそこの広さの島。

 ほぼ全域が緑に覆われている。


「これが現地の島です」


「うん? 言うほど小さい島ではないのではないか?」


 先に反応したのはタルネー辺境伯の方であった。


「いや、我々が領民を引き連れて行くならば決して広いとは言えぬ」


 復帰してきたフォレー辺境伯が冷静に分析している。

 何も言わずに見せていたら、もっと否定的な言葉が飛び出していたかもしれない。


「となると、結界の影響がいかほどあるのかが気になるのう」


「そこは気にするまでもないだろう」


「なんだと?」


 自分の懸念事項がバッサリと切り落とされて不機嫌そうな視線を隣に向けるタルネー辺境伯。

 その視線に、どういうことか説明しろという意味が込められているのは誰の目にも明らかだった。


「殿下が全幅の信頼を置いて説明を任された少年の言葉に偽りがあると思うか」


「むう、そういうことか」


 深く息を吐き出しながら言ったタルネー辺境伯の顔から険がするりと流れ落ちた。


「我らに移住を提案するだけの広さはあると」


「そういうことだ。それよりも──」


 一旦、言葉を句切って嘆息するフォレー辺境伯。


「あんなにも豊かな森が広がっているとはな」


 想像の埒外だったと言わんばかりに気の抜けた表情を見せている。


「あれが全てではないですけどね。本来であれば見えているはずの山も見えませんし」


「なにぃっ?」


「山を丸ごと隠してしまうとは恐ろしい結界だな」


「隠すというか島の外周部を大幅に収束させて見せているようです」


「どっちでも同じであろう」


 タルネー辺境伯は「細けえことはいいんだよ」のノリで俺の説明をバッサリ切り捨ててくる。


「よく気付いたな」


 とはフォレー辺境伯だ。


「開墾を進めていますから島全体が緑に覆われているということはなくなっています」


 言いながら地表近くを飛んでいるゴーレムからの映像に切り替えた。

 結構な広さの場所が密林から開けた状態となっている。


「ほほう」


 食い入るように開墾された土地を見るタルネー辺境伯。


「上空で待機するゴーレムからだと、ここが映っていないんですよ。おかしな話でしょう」


「それは気付かぬ方がおかしいというものだな」


「ええ。そこで島の形状を測量で確定させることにしたんです」


「なるほど。上から見た島の形状と測量結果が似ても似つかないなら別の場所を映し出しているということも考えられるのか」


「そして同じ形なら全体を縮小しているか外周部を切り抜いて中央に寄せるように縮めたかが考えられるな」


 タルネー辺境伯に追随するようにフォレー辺境伯が推測したことを語る。


「そういうことです。開墾した場所や山が確認できなかったので後者であることは割と簡単に気付けましたよ」


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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