177 さすドラ
決闘は魔物となったアーカスをタッちゃんが仕留めディスインテグレイトの魔法で消し去ることで結末を迎えた。
何処かの誰かのように身内の記憶にすら残らなくなることはないけれど死の真相が公にされることは永劫にないだろう。
フォレー辺境伯家の屋敷の中にある訓練場はさながらお通夜のような空気であった。
時間とともに気まずさが増していくような気がする。
そこでリーアル・フォレー辺境伯の提案により場所を変えて話をすることになった。
向こうサイドとしてはショッキングな出来事があった訓練場では落ち着かないという事情もあるだろうし人を魔物化させる薬について知りたくもあるはず。
もちろん俺たちとしてもこれからのことを話さねばならない。
そんな訳で誰も反対する者はいなかった。
最初に案内された応接間に戻ってきて腰を落ち着ける。
すぐには誰も言葉を発することはなかったが用意されたお茶を飲んで一息ついたところでリーアルが代表する形で質問してきた。
それに答えるのは事情を一番把握している俺ではなく父アルブレヒトである。
大人の話だからしょうがないと思いながらも俺は暇を持て余すことになった。
時間を持て余すのは勿体ない。
という訳でゴーレムアーマーの改良案を考えることにした。
稼働時間の延長に魔力を補給する時間の短縮は最優先課題なので丁度いい。
これらができないと小型軽量化や出力アップは言うに及ばず飛行能力の付与も夢のまた夢である。
補給については魔力供給源の魔石の一部をカートリッジ式にする方法で対応は可能だろう。
他の方法は基礎研究のデータが不充分なので机上の空論に等しい。
稼働時間についても同様だ。
が、脳内シミュレーションである程度は問題点を絞り出せる。
それですべて頭の中だけで解決できるなら苦労はしないのだけど。
ひとつ解決しても別の問題が浮上してきたりするからね。
そんな訳であれやこれやと妄想状態に等しい時間を過ごしていた。
それなりに楽しいというか有意義な時間だったと思う。
ただ、それとて無限に続く訳ではない。
「……ド、シド。聞こえているか、シド」
不意に父が繰り返し俺の名を呼んでいるのが聞こえてきた。
いかんいかん。没入しすぎたようだ。
「はい。なんでしょうか?」
返事をしながら父の方を見ると胡乱げなものを見るようなジトッとした目が向けられていた。
これは呆れられているのか。
「話の最中に呆けているとはお前にしては珍しいな」
「失礼しました。少し考え事をしていたもので」
「そうか。では、今の話は聞いていなかったな」
「申し訳ありません」
「仕方あるまい。我々だけで話していたからな」
もっと叱責されるのかと思ったけど、そういうことにはならないみたいだ。
レイチェル殿下はクスクスと笑っているし両辺境伯も特に不機嫌そうな様子は見られない。
「ただ、そのせいで私では説明しきれなくなった」
……なんだか嫌な予感がムクムクと頭をもたげてきたな。
「すまないが彼らの質問に答えてくれ」
あー、やっぱり。
辺境伯たちの人となりがまだ把握し切れていない状態で色々と喋るのはリスキーなんだけどなぁ。
常識外れのことを口走って怒らせたりしたら領民の避難という目標も遠のいてしまう恐れがありそうだし。
慎重にと言いたいところだけど父アルブレヒトの口振りからすると、すでに喋らざるを得ないような状態な気がする。
こんなことなら思考を脱線させるんじゃなかった。
とはいえ拒否するという選択肢は最初からない訳で。
「僕に答えられることでしたら」
質問に答える前から帰りたい気分だけど、そういう内心を顔に出す訳にはいかない。
向こうも海千山千の貴族たちを相手にしてきたはずだから油断していると痛い目を見そうだし。
ただ、俺の中身が万年オッサン状態でなかったらやらかしていたかもなんて考えている間に質問は、来なかった。
見れば困惑の表情で俺の方に視線を向けてきている。
これは我が父がやらかしたか?
そう思ってアルブレヒトの方を見たのだけど、ものの見事に視線をそらされましたよ。
いきなり難易度上げてくれるじゃないか。
そうは言っても質問がないようなので終わりにしますとは言えないのが勘弁してほしいところだ。
しょうがない。
「何をお聞きになりたいですか」
促して初めて両辺境伯が我に返った。
「その、なんだ。そこの浮いている従魔がドラゴンというのは事実なのか」
よく豪放磊落な者が多いと言われるドワーフにしては聞きにくそうにしながらシューバ・タルネー辺境伯が口を開いた。
「ええ、そうです。珍しい種なので証明のしようがないですが」
実は大昔のドラゴンが復活して龍になりましたなんて言ってしまうと先がどうなるか読めないので回答も煮え切らないものになってしまう。
深く追求されるとは思わないけどフォローは必要か。
「ただ、タッちゃんの能力は御覧になりましたよね」
「確かに見たが、あの魔法は何だ? アルにも、お主の父親にも説明できぬと言われたぞ」
「あれは魔法じゃないですよ」
「「「そんな馬鹿な!?」」」
シューバだけでなくリーアルやアルブレヒトまでもが驚愕していた。
触れもせずに魔物を絶命させるなど魔法以外でできる訳がないという先入観があるせいだろうな。
「極限まで高密度に練り上げた魔力を全周囲から同時に照射したんです」
説明しながら軽く実演してみせることにした。
テーブルの何もないあたりに魔力の輪を作って練り上げると淡い光が発生し徐々に光量を増していく。
一気にやることもできるけど、時間をかけることで簡単に真似できることじゃないというメッセージを暗に込めておいた。
充分に魔力の密度が上がったところで中心に向けて解放。
バシッと乾いた音がして光の輪があったあたりから全方向に空気が押し出された。
音に驚いた面々がビクリと反応したり風を感じて目を白黒させたりと忙しい。
「実際は今よりもっと魔力の密度を上げていたみたいです」
これが俺の限界だと誤解してくれると助かる。
我が父やレイチェル殿下には色々と見せているから無意味だけど初見の人たちを変に刺激するのは良くないよね。
そういうのは段階を踏んで慣れてからでも遅くはない。
「なるほど。魔力同士がぶつかった瞬間の衝撃で内部破壊を行ったのか」
さすがはアルブレヒト。魔法の大家と言われるミューラー伯爵家の当代を務めるだけはある。
今ので完全に理解したようだ。
「それは変ではないか?」
異を唱えたのはシューバだ。
「体表面にぶつかった際に何も起こらなかったように思うのだが」
「変ではないな」
リーアルが否定する。
「何だと?」
「よく考えろ。魔法ではなくて魔力だ」
「むう。魔力同士では反応しても他のものはすり抜けるのか」
「そういうことだ」
「……さすがはドラゴンよな。そんな芸当、人間業ではあるまい」
「おいおい、しっかりしろよシューバ。いま目の前で見たばかりだろう」
「あ」
ギョッとした顔になったタルネー辺境伯が俺の方をギギギと音のしそうなぎこちない動作で振り向く。
「今の魔力衝撃波では威力が足りませんよ。もっと魔力の密度を高めないとダメですね」
そのために威力調整した訳じゃないけど助かった。
さすドラの後にさすシドなんてされたら化け物扱いされかねないからね。
読んでくれてありがとう。
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