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176 タッちゃんが気になるのか

「タッちゃん、何したのさ?」


 いきなり光った状態で飛び込んできたと思ったら魔物化した決闘相手のドワーフの周りをグルッと回った。

 それだけにもかかわらず爪の長い熊もどきの魔物は事切れて決闘は終了。


 奴が魔物化した時点で向こうの反則負けでいいとは思うけど結果にこだわったところで何の価値もない。

 俺が求めたものは魔物化したしないに関係なくアーカスとかいう相手を黙らせることだけだったし。

 結果についてはやむを得ないことだとは思うが相手の身内のことを考えると後ろめたさはある。


「割り込んでスマンな。決闘の末に死亡では禍根を残すことになりかねぬであろう」


「だから介入したと」


「左様。故に我が始末した」


「どうやって?」


「簡単なことだ。アレの周りを回った瞬間に全方向から練り上げた魔力をぶつけた」


「あー、そういうこと」


 道理で光っていた訳だ。

 魔力は高密度に練り込まれたとしても物質を透過する。

 それは生き物の体であっても同じことだが魔力同士であれは話は別。

 結論から言えば相殺されるのだけど、衝突した瞬間に衝撃波を発生させてから消滅するのだ。


「一点集中で心臓を狙ったのか」


 全方向から同時に放てば消費した魔力が極めて少量であっても心臓を潰すくらいはできるはず。

 高度な魔力の練り込みに寸分違わぬ制御とシビアなタイミングが要求されることに目をつむればの話だが。

 誰にでもできる技でないのは間違いない。


「うむ。あまり血を流すのもどうかと思ったのでな」


「なるほど」


 後始末のことも考えてくれたみたいだね。


「ちょっと待て」


 アーカスが魔物化したあたりから固まってしまっていた審判のリーアルが不意に割り込んできた。


「何です?」


「一体、何がどうなっているんだ?」


 フリーズ状態から抜け出せたものの頭の中はまだまだ混乱状態といったところか。


「人が魔物になってしまうなど前代未聞だぞ」


 目の前で起きたことを信じたくないという気持ちと目の当たりにした現実がせめぎ合っているのは間違いなさそうだ。


「そういう薬を作った輩がいるんですよ。元には戻れないというのに」


「君はまるで見てきたように言うのだな」


「人が魔物に変身するのは前に一度見ていますから」


 ウエイブル子爵領で、という言葉は飲み込んでおいた。

 事情を話すにしてもフォレー辺境伯だけでなくタルネー辺境伯にも聞いてもらわないとね。


「では、魔物の腕や脚が切られたのはどう説明するのだ? 身代わりのペンダントはつけたままだぞ」


 どうトドメを刺したのかではなく、ダメージを負うはずがないものが負っていることの方が驚きだったか。


「これに刻まれている術式は──」


 俺の首に掛かっているペンダントを持ち上げる。


「人にしか効果を発揮しないようになっていますよ。人ならざる者になってしまってはただの首飾りでしかありませんね」


「なんということだ……」


 フォレー辺境伯は再び固まってしまった。

 自分たちが受け継いできたものを正しく理解していなかったことがショックなのかもしれない。

 それについては本人に聞いてみないことには判然としないが俺的にはどうでもいいのでスルーしておく。


 いま俺が気にするべきは、こちらに近づきつつある決闘の未届け人たちの中の1人だろう。


「この度は誠に申し訳ありませんでした」


 俺とさほど背丈の変わらないタルネー辺境伯が目の前まで来てから謝罪する。


「お主が謝ることなどない。すべてはワシの息子が引き起こした事態だ。自業自得でしかなかろう」


「しかし、彼の命を絶ったのは私の従魔です」


「それは違うな」


 否定されてしまったが決闘相手を殺したのは間違いなくタッちゃんである。


「アレは人でなくなった時点で死んだ。君の従魔は危険な魔物を仕留めたにすぎない」


 厳密に言えば確かにその通りなので返す言葉が見当たらない。

 居心地の悪さを感じると同時に辺境伯が父アルブレヒトの説明を受けていたようで安堵もした。

 それを顔に出す訳にはいかないけれど。


「シドくんだったな。感謝する」


「いえ、そんな……」


「本来ならばワシが手を下さねばならなかったのだ。が、君の従魔に間に合わぬと止められてな」


「そうでしたか」


 タッちゃんならそう言っても不思議ではない。

 俺の手の内を知らないタルネー辺境伯には信じられなかったかもしれないけど。

 それでもタッちゃんが手を下したのはタルネー辺境伯から俺が恨まれることがないようにと配慮してくれたからだろうね。


「問題はこれをどうするかだな」


 タルネー辺境伯が視線を俺からずらして話しかけるとフォレー辺境伯がうなずいた。


「こんな場所に魔物が出たと発覚すれば大騒ぎになってもおかしくない。ましてや人が魔物になってしまったなどと知られるようなことがあれば想像もつかん」


 要するに時間をかけず秘密裏に処理したいと。


「問題ない。我に任せよ」


 おや、いつもは見守るスタンスのタッちゃんが今日に限って積極的だね。


「死体は残らなくても問題あるまいな」


 タッちゃんが即座に行動に移さずタルネー辺境伯に確認を取る。


「もちろんだ。ワシの息子は体を失って死んだのだ」


 魔物化した瞬間に絶命したと言いたいのか。


「それは魔物の死体でしかない」


 淡々と返事をする様子からは内心まではうかがい知れないけれども決して軽く考えている訳ではないだろう。

 悼む気持ちがない訳ではないはずだから。

 アーカスのことをほとんど知らない俺が軽々に口を出していい話ではない。


 だから俺から提案することはしなかった。

 それにタッちゃんがなんとかしてくれそうなので問題にはならないはず。


「分かった。ならば消滅させるとしよう。良いか?」


「消滅だと? どうやって?」


「そういう魔法があるのだ」


「なに?」


 困惑の表情で我が父アルブレヒトの方を見るタルネー辺境伯。


「おそらくディスインテグレイトだろう。抵抗に失敗すれば跡形もなく消え去る魔法だ」


「なんと!? そんな魔法が……」


 タルネー辺境伯は大きく目を見開き驚愕をあらわにする。

 それだけ信じ難かったのだろうけど、ちょっと驚きすぎなんじゃないかと思う。

 最上位の固有魔法のひとつ下に分類される超級の魔法ではあるけどさ。


「それは伝説の魔法ではないのか」


 たまらずといった様子でフォレー辺境伯が話に入ってくると、そうだそうだと言わんばかりにタルネー辺境伯がうなずいていた。

 そんなにヤバい魔法だっけ?


「伝説級というのは言い過ぎだとは思うが使い手が限られるのは事実だ。私も使えない」


 父の返答に両辺境伯がやっぱりという顔をする。


「そんな魔法が使える従魔がいるというのが信じられん」


 フォレー辺境伯が眉間にシワを寄せながら頭を振った。


「珍しい魔物だと思っておったが何者なんだ?」


 タルネー辺境伯も似たような反応である。

 これ、俺も使えますなんて言ったらとんでもないことになりそうだな。


「それについては場所を変えて話そう。とにかく今は人のいないうちに」


「おお、そうだったな」


 やや泡を食った感じでタルネー辺境伯はタッちゃんに向き直ると、神妙な面持ちで姿勢を正し深々と頭を下げた。


「よろしくお頼み申す」


「心得た」


 タッちゃんが返事をしてしばし、魔物の死体が徐々に光に包まれていく。

 それと同時に死体はゆっくりと姿を消していった。


 ディスインテグレイトは光ったり抵抗もされない相手に時間がかかったりはしないのだけれど。

 タルネー辺境伯を気遣ってタッちゃんがそういう演出をしたということなんだろう。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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