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168 シミュレーター訓練

 モニターに映る仮初めの木々を抜けた後は起伏のある草原が続く。

 無造作に踏み込むと接地をしくじってバランスを崩すので油断ならない場所である。

 ゴーレムアーマーの足裏の感覚は操縦席のペダルに反映されるようになっているので探りながら前進するのが正解だ。


 慣れれば普通の歩行速度で進むのはもちろん走ることも可能。

 現に習熟に差はあったものの全員が走り回れるようになっていた。

 一番危なっかしく見えたアンナも根性で乗り越えている。

 専属侍女としてレイチェル殿下に追いつくために必死になっていたおかげか。


 続いて岩場へフィールドを変更して落石や投石を回避する課題を出した。

 シールドの使用は禁じていないので、そこまでハードなものではない。

 ただ、全方位から攻撃を受けるとなると一気に移動速度が落ちてしまう。


 言うまでもなく止まれば集中砲火を浴びることになる訳で。

 結果としてそれなりにブーイングやクレームが来た。

 しかしながら、魔法を含む敵の様々な攻撃から逃げるという状況に陥った時を想定したものだと言ったら静かになった。


 黙々と訓練を続けるが、ここで昼食の時間となってタイムアウト。

 今日のシミュレーター訓練は終わりということになった。

 誰も脱落しないからと調子に乗って激しく動く方へとシフトしていったせいで相応に疲れているのが見て取れたからね。


 特に普段からフィジカルを鍛えていないアンナはそれが顕著だった。

 シミュレーターから出てくるなりへたり込むほどのヘロヘロ状態。

 もっと早めに切り上げておくべきだったな。


 次は魔力も消費する攻撃や防御もシミュレーションに組み込むからさらに疲労度が増すはず。

 機体操作はゴーレムアーマーが保持する魔力で動作するけど魔法で消費する魔力は自前だからね。

 多少の増幅や軽減は行われるけど劇的に変わるようなものではない。


 慎重にペース配分を考えないとね。

 最終的にはヘロヘロ状態でも操縦できるようになるのが理想だけど、初っ端からスパルタでは伸び悩むことになりかねないだろうし。


 だというのに昼食を取ってすぐにシミュレーターでの訓練を希望されてしまいましたよ?

 誰かとは言いませんけどね。


 調子が良かったから、つい先にステージを進めたくなったんだろう。

 ゲーム感覚は勘弁してほしいものだ。

 ここは格納庫内に設置した訓練施設であってゲーセンではない。


 それに今はハイになっているから何も感じないんだろうけど疲労は確実に蓄積しているからね。

 何度も訓練を繰り返して慣れているならいざ知らず、これが初回なのだ。

 本人が自覚していない疲れは確実にある。

 明日になれば嫌でも分かるはず。


 今日の訓練を行ったメンバーで何とも思わない可能性があるのは普段から剣の鍛錬を行っているような者だけだ。

 筋力と体力があるだけで全然違うからね。


 で、結果どうなったかというと……

 姉とオリビアが平然と書庫に現れ、残りは程度の差はあれども疲れをにじませた表情を見せていた。

 ここまでは読み通り。

 ただ、誰も疲労困憊の状態でなかったのは予想外でもあった。


 その程度であるなら疲労回復のポーションを希釈したもので充分に癒やせる。

 気付かれないよう朝食に混ぜておきましたよ?

 でないと平気で無茶したり些細なことでもすぐにポーションを頼りにしたりしかねないからね。


 だったら、疲労が出てくる前の昨日の段階で使っておけば気付かれるリスクも少なくなると考えるのが道理だろう。

 それをしなかったのは各人がどのくらい疲れるのかを確認したかったが故だ。

 本日のシミュレーター訓練の内容と時間を決定するための目安にするためである。

 あと、本人も疲労を自覚すれば無茶はしなくなるだろうという読みもない訳ではない。


 そんな訳で2日目も午前中で終わらせた。

 いずれは慣れるとしても、そんなすぐじゃない。

 そもそも初心者相手に数時間もの訓練を連日のように課す時点で尋常ではないのだけど。


 他にすることが無いに等しい面子だからこそ可能なことだ。

 エレオノーラのように通常業務を抱えている面子も含まれてはいるけど、鍛え方が違うからね。


 そんな訳で2日目の訓練を始めた。

 軽く一通り前日のおさらいをしてから、まずはゴーレムアーマーで武器や盾を使う練習だ。

 これはさほど難しくはない。

 ゴーレムの技術を使って機体制御を補助しているおかげである。


 とはいえ素人ではまともに戦うことなどできない。

 ただ、アンナも殿下の専属侍女として最低限の護衛ができる程度には訓練を受けているので無様な姿をさらすことはなかった。

 むしろ、ゴーレムアーマーの方が戦えていると殿下に評されていたくらいである。

 俺としてもここまでは初日の延長とも言えるので、あまり心配はしていなかったのだけど。


 問題はゴーレムアーマーを通して魔法を使う攻撃や防御だ。

 訓練のメンバーで魔法を使えない者はいないが感覚が大きく違う。

 通常の魔法は発現する魔法に意識を集中させるが、ゴーレムアーマーで魔法を使う場合は魔力を流すことだけを意識しなければならない。

 魔法の発動はゴーレムアーマーが行うからだ。


 これが意外に難しかったりする。

 魔法に長けた者であればあるほど魔力だけを操ることがない。

 言うまでもなく魔法を行使する以外に魔力操作を行う必要がないからだ。


 しかも慣れていくにしたがい魔法が発動するまでの時間を短くしようとする。

 戦うために使用される魔法であれば理由は語るまでもないだろう。

 日常的に使われる魔法だって時間を有効活用したければ魔法が発動するまでの時間が短い方が良いに決まっている。


 そうなってくると魔力操作と同時進行で術式を構築するテクニックが求められる訳だ。

 それは魔法に習熟すればするほど無意識で行われるようになっていく。

 必然的に魔力操作だけを行うことはなくなるため意識的でないと難しくなるという寸法である。

 場合によっては意識しても難しくなるなんてこともあるようだ。

 それは父アルブレヒトの部下の中にそういう者がいたので間違いない。


 で、女性陣はどうだったのかというとリーリエが大苦戦。

 姉エレオノーラも厳しいんじゃないかと思っていたけれど難なくこなしていた。

 聞けば魔力操作の鍛錬を欠かしていないらしい。


 残りの面子は多少苦戦した程度ですんだ。

 魔法を使う機会が少ないから魔法を行使する際のルーチンが洗練されていなかったことが幸いしたようだ。


 ただ、苦戦しなかったが故に他のことが気になったようで……


「シドくん、分からないことがあるのだけど」


 シミュレーター訓練が終了し外に出てきたレイチェル殿下に声をかけられた。


「何でしょうか?」


「このシミュレーターはどこまで再現しているの?」


「と言いますと?」


「ゴーレムアーマーで魔法を使うと本当に魔法を使ったように魔力が減っているような気がするのよね」


「気のせいじゃなくて本当に減っていますよ」


「えっ、おかしくないかしら!? だって、ゴーレムアーマーが魔法を使っても実際に発動している訳じゃないでしょう?」


 もっともな疑問だ。


「パイロットの魔力を使って魔法を行使する仕様ですから再現しないと実戦で違和感ではすまないギャップが生じてしまうんですよ」


「言いたいことは分かるけど、それじゃあ注ぎ込んだ魔力はどうなるの?」


 どうやら空撃ちした魔力が勿体ないと言いたいようだ。


「大丈夫ですよ。空の魔石に流し込むようになってますから」


 抜かりなしってね。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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