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166 納得しかねるなら確かめるのが一番

「ゴーレムアーマーを増やすのは難しくないですが、乗りこなすのに時間が必要ですよ」


「どういうことなの?」


 怪訝な表情になる姉エレオノーラ。

 姉さんにしては珍しく冷静さを失っているな。

 少し考えれば容易に想像がつくだろうに。

 アンデッドの軍勢1万2千のインパクトは思った以上に強かったか。


「姉さんは馬に騎乗して戦えるようになるまで、どのくらいかかりましたか?」


 質問に質問で返す。

 普通に答えるよりも、こうした方が落ち着きを取り戻してくれるかと思ってのことだったのだが。


「何なの、急に?」


 さらに怪訝さを増したようで姉は首を大いにかしげさせた。

 どうやら目論見通りにはいかなかったみたい。


「では、初めて剣を握った日のことを思い出してください。まともに戦えましたか?」


 この質問には反応があった。

 どうやら素直に思い出してくれたみたいだ。

 あまり愉快なことではなかったらしく渋面を浮かべている。


「そんな訳ないじゃない。父さんにコテンパンにされてしまったわ」


 おおう。それはそれは……

 素質はあっても何の下地もない状態では素人同然のはずなのに父アルブレヒトと模擬戦をしたのか。


 本人も申告しているように結果は聞くまでもないだろう。

 魔物退治の専門家である我が国の護国大臣が弱いはずはないからね。

 国内最強クラスであるのは間違いあるまい。

 剣を握ったばかりの子供相手に容赦しなかった父も父だけど。


「訓練が必要と言いたいのね」


 どうやら気付いてくれたようだ。

 ひとたび冷静になれば難しい話ではない。


「そういうことです。とはいえ、そこまで難しいものではないですけどね」


 誰も使いこなせませんでしたじゃ話にならないから操作性には気を遣いましたよ?


「操作を覚えて慣れるくらいの時間は必要だと思ってもらえれば認識に大きな差は出ないと思います」


「自動車と同じくらいかしら?」


「操作方法がまるで違うので何とも言えませんが……」


 そう言いながら父アルブレヒトの方を見る。


「どうですか、父さん?」


「アレは人によるな。すぐに馴染んだ者もいれば、苦戦している者もいる」


 おそらく適当に操作したら思い通りに操れたという感覚派が多いんじゃないかな。

 慣れないうちは頭で考えて操作しようとすると追いつかないところがあるから。


「だが、操縦できるようにならねば勝ちはないであろうな」


 敵の数を報告したのはこれが初めてなんだけど父は勝てると踏んでいるようだ。

 ゴーレムアーマー以外にも手札があるからなんだけど。


「それほどのものなの?」


 切り札がゴーレムアーマーだと思い込んでいる姉とは認識に差があるのはしょうがないか。


「あれに乗ると不思議な高揚感があるのだ。正直、そこいらの魔物が群れで襲いかかってきても負ける気がしない」


 おや? まさか本気でゴーレムアーマーだけで勝てるとか思っちゃいませんよね?


 我が姉も引き気味だ。

 ゴーレムアーマーの実機がどういうものか知る者とそうでない者の差が出たね。

 それも良くない形で。

 エレオノーラの父に向ける視線は胡乱なものを見るそれである。


 それに気付いたアルブレヒトは苦笑した。


「もちろん、そんな精神干渉系の魔法はかけられてはいない。思い通りに操れたときの高揚感がそう思わせるだけだ」


 それは有り体に言ってしまうと厨二心をくすぐられるというやつだろうな。

 人型メカに乗って操縦するなんて漢のロマンしか勝たんの世界だし。


 あー、でも、うちの姉も触発されるかもしれない。

 戦うの好きだもんね。

 ゴーレムアーマーのシミュレーターで仮想標的を次々と倒していったら、どうなることやら。


「そもそもシドが作ったものだぞ。変なものであるはずがない」


 そうきたか。父の信頼が重い。


 いまひとつ納得しかねた様子だったエレオノーラも、この一言で多少は納得してくれたみたい。

 ただし、俺にはジトッとした目を向けてきたけど。

 ゴーレムアーマーのことは秘密にしていたから当然と言えば当然か。

 ならば……


「姉さんも乗ってみますか?」


 知ってしまえば得体の知れないものではなくなってしまうというもの。


「えっ!?」


 提案された側としては予想外の申し出だったみたいで面食らっていたけどね。

 そりゃそうか。自分は除け者にされていたはずが一転して引き込まれる訳なんだから。

 実際はたまたま姉のデスクワークが増えたタイミングでそうなっただけなんだが。


「いきなり実機に乗ってもらうのは危険なので最初はシミュレーターですけど」


「シミュ……?」


 聞き慣れない単語を耳にしてエレオノーラは首をかしげている。


「シミュレーターですよ。前に車の模型を走らせたことがあったじゃないですか。あれの模型がない状態だと思ってもらえれば」


「ああ、あれね」


 見覚えがあるもので説明すると、やはり分かりやすいようだ。


「操縦感覚はあれよりもっと実機に近いですよ」


 シミュレーターはGの再現もしているからね。

 限度はあるから実機とそっくりそのままとはいかないけれど。


「望むところだわ」


 好戦的な笑みを浮かべるエレオノーラ。

 やる気があること自体は良いことなんだけど小さい子が見たら泣き出してしまいそうなくらいの獰猛さがある。

 この調子だと再婚は夢のまた夢だろうなぁ。


 そんなこんなで朝食が終わって間もないというのに訓練場の裏手にまでやって来ましたよ。

 デスクワークで消化が終わるのを待つという発想は皆無なんだね。

 戦場では腹ごなしがどうのとか言ってられないのは分かるんだけど一抹の不安を覚えなくもない。


「いつの間にこんな大きな倉庫が……」


 唖然としした面持ちで平屋の倉庫を端から端まで見回す我が姉である。


「ゴーレムアーマーの納品と同時ですよ。これは倉庫ではなくて格納庫ですから」


「ちょっ、ちょっと待ってください!」


 今まで沈黙を続けていたリーリエが泡を食った様子で話に割って入ってきた。


「何ですか?」


「この規模の建物を家人に悟られることなく建造したってことですか!?」


 いくら平屋建てとはいえ、これだけの大きさになると目立たない訳はないから普通はバレない方がおかしい。

 彼女としてはそう言いたいのだろう。


「リーリエ嬢、諦めたまえ。うちの息子は少しばかり普通ではないのだ」


「少しじゃありませんよ!」


 全力で否定してからハッとしてリーリエはオロオロし始めた。


「いえ、あの……失礼しました。誠に申し訳ありません」


 激しく動揺しながらも、どうにか謝ってくる。


「別に失礼だとかは思っていませんよ。そんな風に言われるのは慣れていますし」


 フォローしたつもりだけど効果は今ひとつ。

 リーリエの動揺は鳴りを潜めることを良しとしてくれなかったようだ。


 どうしたものかと逡巡していると──


「気にしなくて良い、というのは無理でしょう」


 レイチェル殿下が話し始めた。

 普段の楽しげな笑顔は鳴りを潜め威厳を漂わせている立ち姿は生粋の王女様である。

 オンとオフを切り替えているのは分かるんだけど、本当の姿はどちらなのかと言いたくなるくらいギャップが大きい。

 そのせいか、リーリエは動揺することも忘れ畏縮気味である。


「今はそういうものだと思っておきなさい」


「は、はい」


 返事をした後のリーリエは静かになった。


 威容で黙らせるとか思いつきもしませんでしたよ。

 さすがは殿下とか思っていたのに……


「そのうち慣れるわよ、先輩」


 イタズラっぽく笑って締めくくるんだもんなぁ。

 この人にはホント敵わないよ。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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