160 帰りますが終わってません
エルフのリーリエ嬢は生真面目でガチガチな性格をしているのかと思ったけれど、融通が利かない訳ではないようだ。
少し話しただけなので絶対とは言えないけれど秘密厳守でと言えば守ってくれるはず。
そう判断して脱出のための切り札は隠さずお披露目することにした。
「ポチッとな」
スマホに入れたリモコンアプリのボタンをタップしてその切り札を召喚した。
「あ、端っこに寄っておいてくださいね」
全部は入りきらないのは端から承知している。
乗り込むためのハッチを開閉するスペースが確保できれば、他は透過するので問題ない。
「……分かった」
リーリエ嬢は困惑顔のままではあったが言う通りに鉄柵の近くへと移動してくれた。
と同時に影が濃くなって盛り上がる。
リーリエ嬢には影が形をなしたように見えたかもしれないが歴とした切り札だ。
「あー、こっちの方が狭いのか。後部ハッチ開くとギリギリだな」
子供たちが捕らわれていた檻の方が一回り以上広かったようだ。
「なっ、何だこれは!?」
リーリエ嬢が仰け反るような体勢になっている。
そこまで驚くようなことだろうかと思ったのだけど初見だとこうなるのも無理からぬことか。
「潜地艇ですよ。有り体に言ってしまうと地下に潜って移動する乗り物です」
色は影に溶け込むために黒を採用しているが見た目は某国際的な救助隊の4号機を大型化した上で胴長にしたような形状だ。
「センチテイ……。魔道具の類いか」
驚愕したばかりだというのに察しのいい人だ。
これなら乗り込むことを拒否されたりはしなさそうかな。
「ハッチ開けますよー」
予告してからスマホのアプリで後部ハッチを開く操作をすると潜地艇の後ろにあるハッチが倒れるように開いていき最終的にスロープとなった。
あらわになった内部のスペースは大型バスが2台並んで収容できる格納庫だ。
座席や操縦席は格納庫とは仕切られているため、そちらに入るためには余分にドアを開けなければならない。
本来であれば機体前部にあるドアから乗り込めば手間もかからなかったのだろう。
それでも座席に座ることを考えなければ、乗り込みやすさはこちらの方が上だ。
別に戦闘機動をする訳でもないので操縦についてはリモコンアプリで充分に対応可能だし。
子供たちもこちらから収容した。
彼らがここにいないのは、すでにうちの屋敷まで送って対応してもらっているからだ。
で、トンボ返りして今に至る。
「中へどうぞ」
俺が先に乗り込みながら言うと強張った表情ながらもリーリエ嬢は乗り込んでくれた。
キョドった感じで落ち着きがなかったのは仕方あるまい。
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そんなこんなで我が家に帰って参りました。
他に人がいれば、どうしてフォレー辺境伯領へ送り届けないのか言われそうだけど子供たちを治療するためである。
衰弱から少し回復した程度で連れて行ったら誤解されかねないからね。
そうでなくてもしばらく地下牢に捕らわれていた人をそのまま帰すのはどうかと思うよ。
そこそこ汚れているし飲まず食わずだったからね。
現にリーリエ嬢も到着前に潜地艇の中で結構大きな音でぐうと腹の音が鳴っていた。
聞こえないふりはしたけどさ。
で、夜中だというのに帰ってきて風呂と御飯ですよ。
家人には何も伝えていなかったために、子供たちを連れ帰ってきた時にはてんやわんやしたことは反省している。
せめてもの救いは真夜中じゃなかったことぐらいかな。
遅い時間だと使用人たちだって休んでいただろうし。
冬が近いこともあって日暮れも早まっていたから暗躍する時間が確保できたおかげだ。
地下牢じゃ時間は関係ないけど、先に他の場所に潜入したからね。
そこで発見した手記に子供たちやリーリエ嬢のことが記されていなかったらスルーしていたかもしれない。
危ない危ない。
……いや、どれだけ取り繕っても誰にも相談せず単独で殴り込みをかけたのはよろしくない。
だから姉はともかく父にはこってりと叱られましたよ?
無計画に無茶をするなって。
数多ある前世に照らし合わせても無茶をした覚えはないんだけど、そこは黙って聞きましたとも。
無事に帰ってきたことで安堵されたからね。
姉は端から心配する方がどうかしているとばかりに普段通りの反応だったけど。
一緒に無人島に跳ばされたこともあるから心配するだけ無駄だと信じているようだ。
それでも敵がリッチだと知った時は顔色を変えていた。
ただし、危険な相手として認識したというよりは正体に気付いたからみたい。
「まさかラビッシュ子爵に連なる者が……」
「おや、勘がいいですね。現当主を傀儡にして実権を握って暗躍していたようですよ」
「リッチとはそんなこともできるの!?」
「精神を攻撃する魔法はお手の物ですからね。魅了はそのうちのひとつですよ」
おかげで魔力を消耗した状態でも対処できた。
普通に攻撃魔法を使われていたらピンチだったよ。
「身内もお構いなしなのね」
「むしろ身内だから遠慮がないんじゃないですか」
「言い得て妙ね。先代のラビッシュ子爵も強欲で傲岸不遜な性格だったみたいだし」
そう言って姉エレオノーラは自らの発言がヒントになったかのように何かに気付いたような顔をした。
「まさかリッチの正体って……」
「そのようですね。僕の調べた限りでの話になりますが先代のラビッシュ子爵が進めていた不老不死の研究の結論がリッチになることだったみたいです」
研究施設に残されていた手記の情報なので間違いあるまい。
現当主スカムの父親は夭折しているので先代のラビッシュ子爵はスカムの祖父だ。
ただ、息子の死が引き金となって不老不死の研究を始めたのかと思いきやそうではない。
自身が婚姻する前の若い頃から死を恐れ密かに研究していたことが手記に記されていたのが、そう判断した根拠だ。
行き着く先が死んだも同然のアンデッドなのは失笑ものだけど。
気付いてないんだろうな。自らの意思でアンデッドになるということは著しく魂を歪めてしまうということを。
これは生への執着が差を分けるせいだ。
執着のある者がアンデッドになった場合は無意識のうちに不死の力に抗い魂の形が保たれることが多いという。
無ければ、その逆ということだ。
魂が歪んでしまうと二度と輪廻の輪には戻れない。
アンデッドとして倒されるようなことがあれば完全消滅である。
存在が無に帰すなど前ラビッシュ子爵がもっとも恐れた死よりも怖いことではないだろうか。
俺の知ったことではないけれど。
「そういうことだったのね。それでリッチになった後は身内を上手い具合に操って実権を握っていた、と」
「みたいですね」
死ぬ心配がなくなったから時間をかけてあれこれ暗躍していた訳だ。
それで成功しかかっていたのはウエイブル子爵領の乗っ取りである。
これについては運良く俺たちが計画を潰したが、奴がもっと大胆に進めていれば結果は違ったかもしれない。
「アンデッドになってもクソジジイだわ」
「でも、元の性格のおかげで助かりましたよ」
「そうなの?」
「慎重すぎるんですよ。良く言えば堅実なんでしょうけど、それも度を過ぎればただの臆病者です」
「辛辣ね。同感だけど。シドもそのおかげで命拾いしたんでしょう?」
「まあ、そうですね」
そこは認めざるを得ない。
はったりをかまして奴の警戒心を煽ったおかげで実害なく向こうに引かせることができたのだから。
そう、引かせただけだ。
まだ何も終わってはいない。
読んでくれてありがとう。
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