154 デモ飛行はじめます?
「それじゃあ、試しに飛んでみましょうか」
「は?」
困惑顔で気の抜けた声を出したマチルダ夫人のことはスルーして準備に取り掛かる。
と言っても、飛べる機体を用意するだけだ。
本来であればストレージの魔法で亜空間から引っ張り出して準備完了なんだが、飛ぶ前に仰天されると復帰させるまでの手間が面倒なんだよな。
という訳で光属性の魔法を照射して地面に魔法陣を描いた。
もちろんダミーである。
召喚魔法っぽくなるように演出しているだけなので本当に召喚する訳ではない。
あくまで魔法陣をカモフラージュにしてストレージを使うだけだ。
そうやって召喚するふりをして飛行機を引っ張り出した。
いつぞやのレイチェル殿下が搭乗して飛んだ大型のものと比べると明らかに小さい。
まあ、あっちはバスと合体するなどという無駄なギミックがあった上に仕様は輸送型だからね。
今回の飛行機はシンプルなデルタ翼機なので、そこまで大きくはない。
むしろ小さいと言えるだろう。
何人か乗せて飛ぶことができれば良いのでね。
故にサイズは翼を除けばちょっと大きめのミニバンを少し高くした程度である。
ただ、定員は8人だけど荷物についてはかなりの量が積載できるようにした。
翼の部分にも積めるようにした上で空間を魔法で拡張させているのだ。
こういう仕様にしたのは相応の理由がある。
領内の村を視察がてら回るため、あまり大きいと威圧感が増してしまう。
このため前回の試作機は使いづらいが支援物資を運ぶことも視野に入れているので小さすぎてもダメなのだ。
車の方が威圧感がないし分乗すれば量も運べると言われればそれまでなんだけど。
もっとも、それは道がきちんと舗装されていればの話だ。
人口の少ない村になるほど通じている道の状態は悪くなっていく。
そういう村に限って領都から離れているため始末に負えない。
時間をかければ行けなくはないが、それでは本格的な冬が来る前にすべての村を何度も回るということができなくなる。
そこで飛行機の出番という訳だ。
短時間で見て回りつつ物資の配給も行うためにはモアベターな選択だと自負している。
道を舗装するという発想もあるとは思うが、それはあえて行わない。
何とか説得して移住させるためである。
ズルい考え方だとは思うけど不便を感じる状態の方が短期間で説得しやすいからね。
奥地に行けば行くほど生存率が低くなっていくから背に腹はかえられないと思っている。
あと、雪が積もってしまうと車では移動できなくなってしまうが飛行機なら道の状態に左右されない。
緊急時には積雪しているから行けませんなんて言っていられないからね。
普通の飛行機はきちんと整備された滑走路が必要だけど垂直離着陸機にしてしまえば不要だ。
何度か往復することになるかもしれないことを考えると、こうするのがもっとも効率的だろう。
それに移住には空を飛ぶことになるので飛行機を見せて空を飛べるのだということを理解してもらう必要がある。
陸路で移動してきて空を飛んで移住しますと言われても、ね。
それなら論より証拠で飛んでみせた方が説明の手間も省けるというもの。
説得もしやすくなるとまでは言わないけれど。
故郷というものに愛着を感じていればいるほど理詰めでの説得は困難になる。
加えて空を飛ぶのが怖いという漠然とした不安を抱える者も出てくることだって考えられる。
高所恐怖症の人間もいるだろうしなぁ。
感情や本能からくる拒否感を無くすのは容易ではない。
越冬が困難であることを地道に訴えていくしかないだろう。
俺たちがいなくなれば補給物資の運搬も満足に行えなくなるというところから切り崩すしかないと思っている。
実際に説得するのは子供の俺じゃなくて父や姉なんだけどね。
とにかく、そういう仕様で作った試作機があるのだ。
これでウエイブル夫妻を乗せて軽く一回りしてみせれば、空飛ぶ魔道具が作れるという事実を理解してもらうことができるはず。
「これが試作した飛行機という空飛ぶ魔道具です」
「ずいぶんと奇妙な形をしているのだな」
困惑を残したままの顔でマチルダ夫人が感想を口にした。
「この方がスピードを出しやすいんですよ」
空気抵抗やら揚力などがどうとかいう話は説明を始めると時間がかかってしまうので省略した。
「ふむ。そういうものか」
「という訳で乗っていただきます」
「見るだけじゃなく実際に体感しろということか」
「ええ。実感するには、それが一番ですよね」
「まあ、そうだろうな」
マチルダ夫人が苦笑したので了承されたと思っていいだろう。
そんなこんなで夫妻ともう1人の姉ディアネスを乗せて軽く飛行することになった。
ちなみにレイチェル殿下はすでにこの機体の試験飛行時に乗っているので今回は同乗を見送った。
今回も乗ると言い出すんじゃないかと思っていたので肩透かしを食らった気分である。
「楽しんでくるといいわよ」
なんてウエイブル夫妻たちに芝居がかった笑顔で言っていたので何か思惑があるのだと思う。
殿下が何を考えているのかまでは読み切れないが。
なにかしらイタズラめいたことを考えているんだろうなとしか分からないけれども。
そんなことより3人を乗せて飛行してこないとね。
ぐだぐだしてると日が暮れてしまう。
夜中でも飛行はできるけど、同乗する3名が外の景色を見られなってはデモ飛行をしても実感が伴いにくいだろうし。
そんな訳でウエイブル夫妻たちに搭乗をうながし俺も操縦席に乗り込んだのだが何か引っ掛かるものがあった。
タッちゃんがそばにいて危機的な何かを見逃すはずはないので気にせず離陸することにした。
「じゃあ飛びますよ」
「お、おう」
ぎこちない返事をしたのはウエイブル子爵だ。
生まれて初めて空を飛ぼうというのだから力んだり武者震いをしたりがあってもおかしくはないか。
なんにせよテイクオフだ。
フワリと飛行機が浮いただけで機内は騒がしくなった。
「おーっ、スッゲー! うちの弟は天才だったのかぁ!」
「ほほほ本当に飛んだぁっ!!」
「うるさいんだよ、この宿六が! 飛ぶって言われてたんだから飛ぶに決まってるじゃないか」
次姉のはしゃぎっぷりとは裏腹に約1名がビビって騒いでいるね。
乗り込む時はそんな風に感じなかったのに。
いや、そういえば妙に勿体ぶって乗り込んでいた気がする。
あれって飛ぶのが怖くて搭乗したくなかった気持ちの表れだったんだな。
道理で違和感があったはずだ。
まあ、今更そんなことが判明しても意味はない。
ここで中止しては何のためにデモ飛行をするのかという話になってしまうからね。
「じゃあ、行きまーす」
一声かけてからドンと加速する。
あっという間に子爵領の領都を飛び出したので領民に目撃されても何だったのかという程度の話で終わるだろう。
もっとも、浮上した直後に光学迷彩の術式を機体表面に展開させたので気付かれることはないはず。
こうしておかないと街道から目撃されたりなんてことにもなりかねないからね。
それに折り返し地点はもっと人が多いので堂々と飛行機の姿をさらすのはよろしくない。
「凄いものだな。景色の激流だ」
呆然とした面持ちで感想を呟くマチルダ夫人である。
折り返し地点に到着したらさらに驚くんじゃないかな。
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