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151 浄化の雨

 タッちゃんから受け取った魔力を練り上げつつ大雨を降らせるイメージを構築していく。

 規模が規模だけに簡単ではない。

 ウエイブル子爵領の領都はアルス国唯一の海の玄関口だ。

 冬になれば海が凍り付き身動きが取れなくなるものの海洋貿易の要となる街が小さい訳がない。

 上空からの映像が無ければ短時間では術式を構成させられなかったかもしれない。


 1分に満たない時間で空がにわかに掻き曇っていき街全体が覆われた。

 が、これだけでは何の意味もない。

 さらにイメージを追加させて仕上げにかかる。


 術式が混合していくに従い街を覆う黒雲が中心から徐々に光を放ち始め金色へと色を染め変えていった。

 黒雲に光というと稲妻を想像するかもしれないが、そうではない。

 やがて降り始めた雨がそれを証明していた。

 光る雨粒が激しく地面を打ち無慈悲に不死者の群れを討つ。

 ゾンビは光の水滴を浴びると、その場で痛みを感じているかのようにもがき始めた。

 穢れが洗い流されるたびに身や骨が削ぎ落とされていく。

 やがて、その存在が初めからなかったかのように消えていった。


 屋内にいようが関係ない。

 降りしきる光の雨が街全体を包み込む形になっているのだ。

 屋根も壁も浄化の効果は突き抜ける。

 じかに浴びる外よりも時間はかかるだろうが逃れる術はない。


 俺たちもずぶ濡れになっていくがそれだけだ。

 唯一の例外が倒れ伏していたバカである。

 気を失っていたはずが釣り上げられた魚のようにバタバタと暴れ始めた。


 どうやらコイツもゾンビになる手前の状態だったようだ。

 この様子だと戻って来られないだろう。

 その予測通り徐々に勢いを失い始めるとゾンビどもと同じ運命をたどっていった。


「これは……」


 マチルダ夫人が呆然とした面持ちで呟く。


「どうやらゾンビになる一歩手前の状態だったようだな」


 父アルブレヒトが魔法に集中している俺に代わって説明してくれた。


「なにっ!?」


「どうやら何らかの薬を継続的に摂取するとそうなるらしい」


「そんな危ないものが出回っていたのか!?」


「出回っていたというよりはゲオルグの側近だった男が意図的にばらまいたと見るべきだろうな」


「そうまでして、うちを手中に収めたいのか。領都しかない小領だというのに」


「我が国の海洋貿易を牛耳ることができるからな」


「くそっ、無茶苦茶しやがって」


 吐き捨てるように悪態をつく夫人だったが、ふと我に返る。


「アルのところは大丈夫なのか?」


「問題ないそうだぞ」


 そう言いながら父が俺をアゴで指し示す。

 浄化の雨はまだ継続中なんですけど?

 仕方ないのでうなずくだけはしておく。

 細かい説明などは以下略ということで強制的に了承してもらおう。


 ちなみに何かあったのかと問われると無いと答えるしかない。

 殿下が襲われた一件の後に念のため偵察用のゴーレムを使用し領民たちには密かに浄化をかけて回ったのだ。

 結果、何も起きなかった。

 対処しなければ今回のようなことが発生していたかもしれないが実際がどうなのかは分からない。

 何も起こらなければそれでいいのだ。


 ちなみに魔力の確保や浄化で派手に光ったんじゃないのかという疑問が出てくるかもしれないが、そのあたりは問題のないようにした。

 魔力供給に関しては今回のように急ぐ必要はなかったので地脈を利用。

 浄化の光については時間をかければ光り輝く状態になることもなく終わらせられる。

 そのため住民たちが寝静まった夜中にやる羽目になったけど元々は自分の活動時間帯だったので特に問題はなかった。


 こういう説明は口頭で行うとあれこれ質問されたりしかねないので全カットできたのは非常にありがたい。

 マチルダ夫人が納得できたかどうかは知らないが。

 父のあっさりした返答に唖然としているみたいなので納得できるかどうかを気にする以前の問題か。

 この件が終わった後に深掘りされる恐れがあるけど、今は少なくとも詳細を説明する必要がなさそうなので良しとする。


 いや、説明する方が退屈せずにすんだかもな。

 浄化の雨を維持する以外にすることがないからね。

 魔法の発動時には制御で神経を使ったけど、ひとたび魔法が発動し安定した状態にまで持ち込んでしまえば、さほど集中力を要求されることもない。


 そうなると必然的に暇になる訳で。

 ぶっちゃけると手持ち無沙汰みたいな状態だったりする。

 それだけ時間がかかっている証拠だとも言えるが正直なところ先程から暇で暇で仕方ない状態だったりするのだ。


 だからと言って唐突に喋り始めたりしたら変に思われてしまう。

 そもそも不謹慎だ。

 あれこれ考えている時点で不真面目だとは思うが、思考は外へダダ漏れになることはないのでね。


 仕方がないので今後のことについて考えることにした。

 まず、やるべきは子爵領の復興だろう。

 深刻な被害になるだろうから現状では先行きがどうなるか読めないけれど。

 当初の目的であった大型船舶の購入どころではない。

 いや、うちが船を買えば復興資金にできるか。


 後は隣領の主への対応だな。

 もはや明確に敵だし高確率で次の手を打ってくる恐れがある。

 ここまでのことをする野心家が簡単に諦めるはずがないのだ。


 という訳で、この世から消えてもらう。

 最初からそうしておけば良かったな。

 うちにも手引きをする輩がいたらウエイブル子爵領と同様にもっとひどいことになっていただろうし。

 とにかく遠慮は無用だ。


 とはいえ、舐めてかかっていい相手ではない。

 これだけのことをしでかすような奴がやり返される心配をせずにいると思う方がどうかしている。

 とにかく無策はあり得ない。


 ならば、まずは偵察か。

 一応は偵察用のゴーレムを向こうの領都に貼り付けてはいるが、何かあった時のために待機させているだけだ。

 大きな動きがあるならともかく領内の状況を把握しつつ領主とその関係者の動向に探りを入れるなら単機では難しい。

 複数機の追加投入は確定だな。


 これで向こうのたくらみを暴くことができるだろう。

 もっとも暴いたからと言って、そのネタで断罪する訳ではないけれど。

 そんなことをする以前に奴の罪は確定しているので結果は変わらないからね。

 これだけのことを目論む奴に情状酌量の余地が生じるとは到底思えないし。


 仮に何かあったとして事情をくんだりするつもりは皆無である。

 当たり前だ。

 これだけのことをされて少しは大目に見ようと思うほど俺はお人好しではない。

 そう考えるのは俺だけではないはずだ。

 この場にいる全員が同じ意見だと見て間違いあるまい。


 後は奴をどう料理するかだ。

 密かに終わらせるのはほぼ決定事項だとして、奴にどういう痛苦を味わわせるのが最適なのか。

 少し考えたくらいでは結論が出そうにない。

 それだけ腸が煮えくり返っているのだから当然と言えば当然か。

 おかげで考えを巡らせる間にそれなりの時間が経過していた。


「シドよ、もう良かろう」


 不意にタッちゃんが終わりを告げてきた。


「あ、そう?」


 タッちゃんが言うなら間違いあるまいということで浄化の雨を終了させた。

 これにて一件落着という訳ではないが俺の役目は終わったということでホッと一息つけるはずもなく……


「じゃあ、もう一丁デカいの行くから頼むよ」


「うむ。心得た」


 ずぶ濡れになった人たちを放っておくと風邪を引いたりしかねないからね。

 街全体を除湿乾燥させるのは術式が複合しないので浄化の雨よりは楽だ。

 後は気楽にやろう。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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