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149 数で押し寄せられたらヤバいらしい

 ゴーレムの映像を確認するまでもなく不穏な気配の正体が判明しましたよ。


「ゾンビだと!? 街中だぞっ」


 信じ難い思いを乗せて吠えたのはウエイブル子爵だ。


「間違いないんだね」


 同じように動揺が顔に出ているマチルダ夫人の方が幾分かは冷静なようだ。


「はっ、間違いありません! 襲われた者も一部がゾンビになっている模様です」


「嬉しくない知らせだね」


 不機嫌さを隠そうともしないマチルダ夫人。


「くそっ、どこから入り込んだんだ。港方面だと入り込む余地がないだろう。しかも大量にだと!?」


 子爵は動揺から立ち直れぬまま苛立ちをあらわにする。


「何処からなんて、そんなのは後で考えることだよ。しっかりしな!」


「お、おう」


 夫人に発破をかけられて子爵もどうにか持ち直す。


「俺が現場に出る。マティはここに残って避難してくる者を守ってくれ」


「あいよ」


 この夫婦はつうかあだね。

 住民の避難誘導をするという旦那の意図を夫人は瞬時に察して返事をしている。


「ヤバいと思ったらすぐ逃げるんだよ。相手は人間じゃないんだからね」


「そいつは約束できねえな。住人を守るのが領主の仕事だろ」


「そう思うんなら気合い入れな。奴らの仲間入りなんてするんじゃないよ」


「おうとも!」


 威勢よく返事をしたウエイブル子爵が現場に向かうべく俺たちに背を向けた。

 が、このまま突撃するのは死にに行くようなものだ。


「ウエイブル卿!」


「シドくん、悪いが後にしてくれ!」


 そのまま駆け出そうとする子爵だったが。


「ゾンビは頭が弱点です。確実に潰してください」


 俺が助言をすると驚いて振り返った。


「他はたとえ切り落としても平然と襲ってきますよ」


「そいつはありがたい情報だ。倒せるならやりようはある」


 そう言ってニッと不敵な笑みを浮かべ今度こそ走り去った。


「シドくん、旦那に代わって礼を言うよ。恩に着る」


 そうは言うもののマチルダ夫人は悲壮感を漂わせている。

 分の悪い賭けになると見ているのだろう。


 それは決して間違った見通しではない。

 ゾンビは世間じゃ死に神のごとく恐れられているからね。

 痛覚がないから異常なほどタフだし噛みつかれるとゾンビ化する恐れがあるせいだろう。

 もっともゾンビが多数存在する場合は貪り食われてしまって骨しか残らないことの方が多いのだが。


「いえ」


 かける言葉が見つからないので短く返事をするにとどめた。

 何を言っても気休めだと思われかねないからね。


「アル、今ならまだ間に合うだろう。帰んな」


 マチルダ夫人は我が父に対して素っ気なく言い放った。

 しかしながら返事はない。

 まるで怒っていることを押し隠そうとするかのように押し黙っている。


 どうも迷いがあるようだ。

 殿下の安全を最優先すべきと考えつつも友達を助けたいといったところか。

 あるいは助けたくても越権行為に当たるため勝手な真似はできないことに苛立ちを感じているのか。


 いや、それはないと見ていいだろう。

 父アルブレヒトは護国大臣だ。

 魔物の討伐に関しては大きな権限を与えられている。

 だとすればレイチェル殿下をどう避難させるかで頭を悩ませていると思って間違いあるまい。


 その上で色々とシミュレーションしても結論が出せずにいるようだ。

 自分だけ残っても別行動になった殿下の方がゾンビどもに襲われたら目も当てられないとか考えていそうだな。

 この事態を解決できるとは夢にも思っていないらしい。


 衛兵の報告で大量のゾンビが出たと聞いて無力感にさいなまれているのだろうか。

 世間じゃアンデッドは過大評価されているみたいだし数で押し寄せられたら生存も危ういと見ていそうだ。


 まあ、城壁に覆われた領都という閉された空間の中に湧いて出たようなものだから逃げ場がないのは分かる。

 広域の殲滅魔法なんて使えないし、死を恐れる概念が欠如した相手を弱点を知らぬまま各個撃破するのは厄介だ。

 他の魔物のように痛みや出血を気にすることもないからね。


 そう考えると俺が考えている以上に重く受けて止めていそうだ。

 父も撤退はやむなしで結論を出すんじゃないだろうか。

 それはそれで友を見捨てることになる罪悪感やらなんやらで心理的に責めさいなまれるだろうけど。


 もしも父の考えていることが俺の想像通りだとするなら解決手段があることを失念している。

 領都に浄化の魔法が使える人材がいないのか確認していない時点でどうかと思うのだけど俺やタッちゃんのこと忘れてるよね。


「シドくん」


 不意にレイチェル殿下から呼びかけられた。


「何ですか?」


 考え事をしていたせいで危うく「殿下」と言ってしまいそうになったよ。

 魔法で変装しているのに俺が正体をばらすようなことを言ってしまっちゃあ台無しだ。


「解除してもらっていいかしら」


「……分かりました」


 すぐに殿下の姿を覆っている幻影を解く。

 直後にマチルダ夫人が目を見開き──


「なっ!?」


 と短く驚きの声を上げた。

 一瞬の硬直はあったものの即座に跪き頭を垂れる。

 次姉ディアネスが何のことか分からない様子で困惑しつつも、それにならう。


「ご無沙汰しております、レイチェル殿下」


 夫人の言葉でディアネスがビクッと震えた。

 殿下と面識がなかったんじゃ無理もない。

 顔を伏せているので表情は確認できないが小刻みに震え始めた様子から察するに相当パニクっていそうだ。


「状況が状況です。堅苦しいのはなしにしましょう」


「はっ」


 返事は気を張っていたものの戸惑いを感じる。

 前に謁見した時とは態度がまるで違うのだろう。


「楽になさい。しっかり返事をしておいて改めないのはどうかと思うのだけど」


 そこまで言われて、ようやくといった感じで再び顔を上げて立つマチルダ夫人。

 その気配を察したディアネスも続くが緊張を絵に描いたような有様だ。


「それじゃあ、今から指揮は私が執ります。いいですね」


「いけませんっ、殿下」


 マチルダ夫人は驚愕を顔に貼り付け抵抗の意思を見せる。

 殿下が荒事に不慣れなことを知っているが故だろう。


「大丈夫よ。これは勝つことが約束された戦いだもの」


「冗談ではないのですよ」


「冗談? いいえ。この戦いは私にとって決着をつけなければならないものなのです」


「何を仰っているのです?」


 決着という言葉に違和感を感じたようで夫人は大いに困惑していた。


「今この街に現れたゾンビは私が襲われた時と端を同じく発するものです」


「っ!? 殿下が襲撃されたのですかっ?」


 一瞬、言葉に詰まったマチルダ夫人だが、信じられない思いを言葉に乗せ確認してきた。


「そうよ。視察の帰りにね」


 昏睡しているところを本来であれば護衛であるはずの近衛騎士だった成れの果てどもから命を狙われた。

 リベンジマッチに意欲を燃やしているのは疑いようもない。

 でなければ自ら指揮を執るなどと言ったりする人ではないからね。


「まさか……」


「冗談でこんなことを言ったりしないわ」


「でしたら、なおのこと避難していただかないと」


「今回は私が狙われている訳ではないわ。計画の残滓が熾火となって燃え移ったというところかしら」


 残滓とは言い得て妙か。規模は残りカスとは真逆だけれど。

 とにかく領都ごとゾンビの大群で殿下を襲うという予備プランがあったのは想像に難くない。

 何がなんでも暗殺する気だったんだな。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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