↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/198

147 洗っていいんですか

 クリーンナップの魔法は霧状の温水を超音波振動させて汚れを分離するのが基本だ。

 洗浄を行いつつ汚水を浄化し水を綺麗な状態に戻す。

 これを繰り返し実行し、洗い終わったら水気が残らないように乾燥させるまでが術式になっている。


 これを言葉で説明するのは難しい。

 霧が振動するってどういうことなのかという疑問を予備知識のない相手に分かりやすく話すというのは考えただけでも骨が折れそうだ。

 そもそも超音波とは何ぞやとなってしまうのが目に見えているからね。

 しかも、それをクリアしたところで本当に汚れが落ちるのかと言われそうだし。


 そんな訳で先に納得してもらうのは最初から諦めている。

 できれば事前の説明で理解しておいてほしかったんだけどね。

 これを全身に使うと視界が真っ白になって何も見えなくなってしまうから何事かと思われそうだし。

 その結果、洗浄中に大きく動かれてしまうと魔法を制御している身としては面倒なことこの上ない状態になる。


 という訳で余計なことをさせないため先に俺自身でクリーンナップを使ってみせることにした。

 百聞は一見にしかずだし、論より証拠にもなる。


 問題があるとすれば汚れていない状態で洗っても効果を確かめる術がないことだ。

 ならば汚すまでということで地面の土を掴んで自分の服になすり付けた。

 気分はテレビの通販番組なんかでよく見た実演販売員である。

 ただ、何の説明もなくそんなことをされると見ている側からは奇行に走ったようにしか見えない。


「ちょっと、シド。何してるのよ!?」


 姉エレオノーラでさえ目を丸くさせてそんな風に聞いてくる始末だ。


「こうでもしないと本当に洗ったかどうか分からないじゃないですか」


「ビックリさせないでよ」


「すみませんね。じゃあ、これからクリーンナップの魔法を使います」


 予告した上でフィンガースナップでパチンと音を鳴らした。

 そういう予備動作はもちろん必要ないけど無詠唱で魔法を使う場合、宣言だけだと不意打ちを受けたように驚かれたりすることもあるからね。

 そんな訳で魔法を使い始める区切りの合図として使っている。


 術式が発動するとミストが全身を覆っていく。

 あっという間に服の中まで湿気が入ってきた。


「この状態になったら目は閉じてください」


 口を開いたことで口腔内にまでミストが入ってきたが気にしない。

 眼球が超音波振動でじかに叩かれるよりはマシだからね。

 超音波振動が始まると布がバタついた音を立て始め体中が何とも言えない微弱な刺激に包まれる。


「なにか薄ぼんやりと光っているようだが?」


 マチルダ夫人の言うようにミストが淡く光を放っている。


「これは浮かせた汚れを浄化しているからです」


「単純に浄化するだけじゃダメなのか?」


「服を着たまま浄化したのでは消費する魔力が桁違いに多くなりますよ」


「そうなのか?」


「浄化は出力が弱いと表面だけしか汚れを落とせませんからね」


「そういうことか。では、クリーンナップ? とかいう魔法は違うのだな」


「ええ。この魔法はミストで叩いて汚れを浮かせてから浄化しています」


「ミストで叩く?」


「そのあたりは言葉で説明するのが難しいですね。体感してもらえば分かると思います」


「そうか。分かった」


 深く追求されなくて助かった。

 ここでちょうど洗い終わったらしく浄化の手応えが無くなった。


 温風を吹きかけつつミストを気化させるイメージで乾燥させていく。

 別の言い方をするなら水属性の魔法を反転させて使う感じかな。

 やり過ぎると体から水分が抜けて脱水症状を起こしてしまう。

 乾燥は洗うよりも短い時間で終わるから注意が必要だ。


「御覧の通りです」


「うーん。確かに土の汚れが無くなっているな。まさか、これほどとは」


 始める前はやや懐疑的だったマチルダ夫人にも納得してもらえたようだ。


「白い霧で覆われている間に汚れが落とせるというのであれば試す価値はありそうだ」


 その言葉で懐疑的だっただけでなく抵抗感も感じていたのだと気付かされた。

 豪快な性格をしているのだとしても女の人なんだから当然と言えば当然か。

 デリカシーがなかったな。反省。


「しかも、こんな短時間でここまで綺麗になるなら、ぜひお願いしたい。もちろん2人ともな」


「汚れ具合で洗浄にかかる時間は変わります。今の実演と同じくらいで終わらせると中途半端な結果になると思います」


「臭わないようにしてくれればいいさ」


 汚れの落ち具合も気にならない訳じゃないだろうけど、より気になるのはそっちだよね。

 とはいえ難しい注文だ。


「とりあえずやってみますが、気になるなら再度クリーンナップを使って丁寧に洗わせてもらいます」


「どうせなら一発で終わらせてくれるかい。二度手間になれば魔力も無駄に使ってしまうだろう?」


「わかりました」


 多少の延長が認められたと思っていいかな。

 とはいえ今のままの術式だと結果は微妙な感じになりそうだ。

 もう一工夫は必要だろう。


 だからと言って画期的なことをパッと思いつけるものでもないので力業にならざるを得ない。

 単純に考えれば浄化の出力を上げるか間断をつけて使っていた浄化のタイミングを短くするかだ。


 とすると両方かな。

 出力を3割ほど上げた浄化をこれまでの半分のタイミングで入れていく術式としてクリーンナップをバージョンアップさせる。

 これならデモンストレーションとさほど見た感じが変わらず従来よりも明確に効果を上げることができるはずだ。

 あまり派手に変えてしまうと不測の事態が起こらないとも限らないから、このくらいが今できる限度だろう。


「では、始めます」


「ああ。頼む」


 そんな訳でバージョンアップ版クリーンナップをぶっつけ本番で使い始めた。

 まずは全身をミストで覆っていくところからだ。


「おおっ、温いな」


 マチルダ夫人が軽く驚きの声を上げた。

 もう1人の帰還女性はビクッと体を震わせたが無言である。

 ミストで姿が見えなくなったところで超音波振動を開始するべく声をかける。


「ここから先は目を閉じてくださいね」


「了解した」


 返事を聞いて超音波振動をオンにする。


「うぉっ!? これが叩かれる感覚か」


 またも驚きの声を上げるマチルダ夫人だが、その声音は楽しんでいるようにも聞こえる。


「痛くないですよね」


 念のために確認を取ってみるが。


「問題ない。目を閉じろといった意味はよく分かるがな」


 やはり派手な出力アップはしなくて正解だったようだ。

 むしろ3割増しの現状でも人によっては厳しいかもしれないな。

 今回は良いデータが得られたと思っておこう。


 そんなこんなでクリーンナップが終了した。

 乾燥の間は特に何も言われなかったが術式には手を加えていないので問題はないはず。


「終わりましたよ。どうですか?」


 パッと見では目立った汚れはなくなった。

 不快に感じる臭気も同様である。


「これは驚きだな。ここまで変わるとは」


 マチルダ夫人はそう言いながら軽く両手を広げて自分の姿を見回している。


「それにサッパリした感じがして気分がいい」


「それはどうも──」


 ありがとうございますと言おうとしたタイミングで。


「あ────────────────っ!!」


 と大声を上げる我が姉エレオノーラ。

 何事かと思ってそちらを見ると、わなわなと震えながら帰還女性を指差していた。


 当初は鳥の巣かと見紛うようなボサボサヘアだった帰還女性だったが、ウエーブのかかった長髪のお姉さんに変貌している。

 雑にまとめていたのが超音波振動で解けたのだろう。

 そのせいで隠れていた目元もあらわになり、まるで別人のようになっていた。


 まあ、姉が驚愕したのは帰還女性の変貌ぶりより見知った顔だったからのようだけど。

 父アルブレヒトも軽くではあるが目を見張っているな。

 帰還女性をよく見ると誰かに似ているような気がしなくもない。

 いったい誰なんだ?


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。