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143/200

143 決着は

 俺は落下して地面に突き刺さったショートソードを引っこ抜き対戦相手のバカの元へ歩を進める。

 奴が剣を振り回している時から気付いてはいたが、この剣は刃引きされていない。

 手に取って確認すれば間違いのない事実であることが確定した。


 そうまでしてあのバカに勝たせたいのかね。

 と言うより殺しにかかっているだろ。

 ここの領主であるウエイブル子爵はおそらくこの事実を知らないはず。


 バカが持っていたショートソードの刃の状態を俺が確認しても気にした素振りすら見せなかったからだ。

 もし領主が事実を知っていて顔色ひとつ変えなかったのだとすれば大した役者である。

 決闘が始まってからチラ見した感じでは、それはなさそうだけどな。

 あの単調な戦いを純粋に楽しんでいたみたいだし。


 どこまで脳筋なんだか。

 第一印象からして見るからに大雑把なオッサンという感じだったが、実際もその通りなのだろう。


 さて、バカを真下に見下ろす位置まで来た。

 苦悶の表情を浮かべ、うめくような呼吸をしている。

 先程までと異なり戦意は完全に消失。

 ダメージで細めた目が怯えの色に染まっていることからも、それは明らかだった。


 こういう輩はダメージがある間はこんなものだろう。

 回復すれば元通りになるのも含めてね。

 このままだと敗北しても逆恨みするのが目に見えている。


 本当の恐怖を知らない悪童はそんなものだ。

 数多の前世でこの手の輩は散々見てきたから確信に近いものがある。


 ちなみに決闘はまだ続いていた。

 審判は何もアクションを起こしていないからね。


 という訳で俺はバカの喉を軽く踏みつけてやる。

 そして冷たい視線を落としてやれば奴の目は怯えと驚愕で見開かれた。

 これ以上はまさかやらないよなという顔をして見てくるが俺からは何も返さない。


 たったそれだけで奴の表情は絶望に染まった。

 首の骨を折られるとでも思ったのだろう。

 それをやってしまうと、この決闘で禁止されている殺しになってしまうということを失念しているよな。

 あるいは、そんなものを無視して本気で殺しにかかってくると思ったか。


 奴自身が俺を殺しにかかっていたから、そういう心境になるのだろう。

 つくづくバカなガキだよ。

 何者かに利用されているとも知らず後ろ盾があると勘違いして調子に乗った挙げ句の果てがこれだからな。

 状況や立場というものをまるで理解していない。


 まあ、死の恐怖を感じているというのなら、こちらはそれを利用するまでだ。

 俺も見た目はガキだけど中身は少年寄りのオッサンなんでね。

 前世の記憶が何世代分もあるのって何人もの人生の経験値を独り占めしてると思えば反則級のチートだよな。


 とにかく決着をつける必要がある。


「審判!」


 奴にだけは、ゆるく殺気を突き付けたまま呼びかけた。

 返事はないが構わない。


「殺しは御法度でも喉を潰すくらいは問題ないんだよな」


 確認するように言いつつ、わずかに足を踏み込んでやる。


「ひっ」


 バカがビクンと体を痙攣させて短い悲鳴を漏らしたかと思うと咳き込んだ。

 どうやら、むせ込んだらしい。

 落下ダメージがあっても、これは耐えられないようでバタバタと激しく体を暴れさせる。

 逃げようとする意思が足の裏から伝わってこないので無意識なんだろう。

 いずれにせよ邪魔なことに変わりはないので魔法で押さえつけた。


「大人しくしろ。加減を間違えて首の骨が折れても知らんぞ」


 という言葉をそえておいた。

 バカの意思で暴れるのをやめたように見えればラッキーぐらいの気持ちだけどね。


「審判。殺せる訳がないとか思っちゃいないだろうな?」


 ここまでやっているにもかかわらず審判からの返事がない。

 これは俺が本気で殺すつもりはないと思われていそうだ。

 実際、その通りなんだけどさ。


 殺気をぶつけられても何処かで俺のことを子供だと侮る気持ちが残っていそうだな。

 もっとわかりやすい形でバカが傷つけば、その傲慢な考えも消えるだろうか。


「それじゃあ、こっちの剣で耳を削ぎ落としてやろうか?」


 問いかけるように予告してから奪った剣を軽く振るえば、バカの頬に一筋の赤い線が走った。


「──────────っ!」


 かすっただけなので強い痛みを感じるほどの大した傷ではなかったはずにもかかわらずコイツはあっさりと意識を手放した。

 それでも審判からは何のアクションもない。

 ずいぶんと強情なことで。


「おや、目測を誤った」


 ためらいなく次のモーションに入ったところで──


「待て!」


 さすがにマズいと思ったのかウエイブル子爵から席から腰を浮かせて待ったをかけてきた。


「何ですか? まだ決闘は続いていますよ。審判が何も言わないですからね。邪魔しないでください」


「この決闘、俺が預かる」


 結局は没収試合という形でこの決闘は終わることになった。

 それならそれで構わないさ。


 決闘が終わって威圧する理由がなくなったので審判に向けていた殺気を解いた。

 するとどうだろう。

 今まで硬い表情で大きなアクションを見せなかった審判がストンと尻餅をつく。

 え!? どういうこと?


 もしかして軽く殺気立っていただけで仕事にならないほど怯えていたのか?

 嘘だろう? 素人ならいざ知らず戦う訓練を受けている衛兵だろうに。

 しかも他の面々には気付かれにくいよう殺気は弱めで放っていたんだぞ。

 気付く人は気付いていたみたいだけどさ。


 まあ、何でもいいよ。

 そんなことより決闘へ誘導した黒幕の方を気にしないとな。

 タッちゃんに頼んでいたから容疑者は絞れていると思うんだけど。


『どうだった、タッちゃん?』


『妙なのは1人だけじゃったぞ』


 数はそんなに問題じゃない。

 うちの面子以外で観戦しているのは少なかったからね。

 普通なら向こうサイドの護衛がもっといても良さそうなものなんだけど。

 そのあたりは父アルブレヒトとウエイブル子爵の関係が良好だからというのもあるのだろう。


『子爵じゃないんだよな』


『うむ、あの者は純粋に楽しんでおった。まるで子供じゃよ』


 タッちゃんにそう言わせるほど楽しんでいたとは格闘技の番組を観戦する感覚で見ていたんじゃなかろうか。

 娯楽の少ない異世界じゃ仕方のないことなのかもしれないけど。


『ということは……』


『あの者の後ろに立っておる男じゃよ』


 該当するのはウエイブル子爵の側近として紹介されていた男だ。

 名前は覚えていないが子爵の右腕的なポジションにいるという話だった。

 執事とかではなくて副官みたいな感じ。

 その割に存在感が薄めというか年齢不詳な感じがして薄気味悪いと思ったのは内緒である。


 その割に子爵には事務処理能力が凄いからと事務仕事を丸投げされるくらい信頼されているようだ。

 人となりとかちゃんと見極めて採用してるんだろうかと疑問に思う。

 それくらい胡散臭さを感じるのだ。

 この男がスパイだったとしても俺は驚かない。


 子爵んとこ大丈夫かなと思ってしまうよ。

 お金の流れとか人の配置とか治安とか。

 少なくとも治安が良いとはお世辞にも言えない。


 あと、コイツがいなくなったらここの領地は混乱しそうだよな。

 子爵は事務方の仕事などは苦手だから丸投げしていると豪快に笑いながら言ってたもんな。

 笑えないっての。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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