141 決闘することになった
どうしてこうなった?
あれよあれよという間に望みもしない決闘の場に立たされることになった。
まるでゲームの強制イベントが発生したかのようだ。
そう。いま俺は何故か決闘の対戦相手と対峙している。
審判の到着が遅れているのですぐに始まる訳ではないのだが相手の方は今にも飛びかかってきそうなくらいこちらを睨み付けてきているが。
俺より少し年嵩であろう少年が怒気をまき散らしたところで圧は感じない。
あれで殺気を放っているつもりなのだろうか。
それとも審判なしでおっ始めめるつもりか?
記録に残らなくなってしまうというのに。
街中でコイツがからんできた時に返り討ちにしたから俺を地面に這いつくばらせたことを公的に残したがっていると思ったのだけど。
その程度の辛抱もできないのだとしたらお子様もいいところだ。
とにかく決闘騒の元凶はコイツで間違いない。
一から説明するとなると結構さかのぼることになるけれど。
そもそもの切っ掛けは船の買い付けのために海がある方の隣領へ訪れることになったからだ。
内陸側の隣領は不穏な動きを見せていたけど、偵察部隊が帰還すると大人しくなったので放置しても問題あるまいと判断された。
なお、どうして船を買いに行くことになったのかというと移住用の移動手段を用意するのが楽だということに気付いたからだ。
素材から大型旅客機を作るより大型の船を飛べるように改造する方が労力が少ないとね。
巡航速度や操縦性なんかの性能面は落ちるけど魔法で飛ぶから乗り心地は変わらないはずだし航続距離が大きく変わることもない。
それに向こうは島だから普通に再利用できる。
一石二鳥という訳だ。
ということで朝食の席で父アルブレヒトに相談したところ隣領の領主であるウエイブル子爵に会いに行こうということになったのである。
同行者は先日の飛行試験と同じ面子になった。
朝食の席で話をしたのだから当然と言えば当然の話だ。
ただ、今回は人に会いに行くため護衛も何人か見繕っている。
先触れは出したけど、2台のミニバンに分乗しての移動だったから向こうの出迎え準備が間に合わなかったのは悪いことをした。
飛行機を使わなかっただけでも自重したと思いたい。
なお、領都が見える頃合いでゴーレムの馬を出してミニバンを引かせた。
馬で自動車を牽引することになるとは夢にも思わなかったけど仕方あるまい。
これも自動車の存在を伏せるためだ。
見慣れない形やゴーレム馬のせいで注目を集める結果になったけど、それはまた別の話。
どうにかウエイブル子爵に会うことはできた。
ただ、それでいきなり商談とはいかない。
求める船を吟味する必要もある。
それは翌日以降にという話になって大人たちは雑談を始めてしまった。
見た目は子供でしかない俺が暇を持て余すことになり……
散歩でもと領主の館を出てぶらつき始めた時に思いついてしまったのだ。
ついでに港へ行って先に下見するのも悪くないと。
ハッキリ言ってしまうと悪い思いつきだったけどね。
うちの領と違って治安がよろしくなかったのだ。
表通りでカツアゲをしようとする輩に囲まれるくらいには。
しかも中学に入りたてぐらいの連中が手慣れた感じでからんできたし。
領主はちゃんと統治しているのかと言いたくなったさ。
とはいえ、よその土地で一方的にやらかすのは父に迷惑をかける恐れがあると判断してしばらくは様子を見ることにした。
向こうの連中にはそんな俺がふてぶてしく見えたようで生意気だ何だと難癖をつけ始めただけでなく胸ぐらも掴んで威嚇してきた。
それでも顔色ひとつ変えなかったことで勝手に頭に血を上らせた相手が殴りかかってきたので反撃した。
まずは肘で拳をブロック。
カウンターにはなったものの元のパンチがショボかったため拳を骨折するようなことにはならなかった。
が、それでも相手は泣きわめきながら痛がるばかり。
胸ぐらを掴んだ手まで離してしまうほどである。
周りの取り巻きたちも、その光景を見て腰が引けてしまっていた。
今まで反撃されることはなかったのだろうが拍子抜けもいいところだ。
俺からするとケンカ慣れしていないのは見え見えだった。
だからと言って俺が手加減する義理はない。
正当防衛ということで俺がしっかりと無力化させていただきましたよ。
向こうにとってはそうなることも織り込み済みだったようだけど。
胸ぐらを掴んでいた奴を無力化したところで制服に身を包んだ衛兵が来たのだ。
これがどうしようもない男で、俺の方が囲まれていたにもかかわらず一方的に悪者扱いしてきた。
「いかんなぁ。よそ者が我が領民に暴力を振るうなど許されないことだ」
「は? コイツらが囲んでカツアゲしてきたんだが?」
「嘘は良くない。現にその少年は倒れているじゃないか」
「胸ぐら掴まれた上に殴られそうになったから反撃しただけだ」
「嘘は良くないと言ったはずだが? とてもそうは見えなかったぞ」
見ていたのにそう言うのか、結果だけを見て決めつけているのか。
いずれにせよ俺を捕まえようと手を伸ばしてきたので威嚇した。
「無礼者め、衛兵風情が貴族の子息に触れようとするな!」
こういう物言いは好きではないが、こういう頭の中が輩じみた相手には有効だ。
ビクッと反応して動きが止まったからね。
「嘘は──」
懐から鞘に納めたままの短剣を取り出し、そこにあしらわれた紋章を見せると衛兵は顔を引きつらせて固まった。
「そ、それを良く見せてもらえないだろうか。何処の家紋か確認したい」
どうにか威厳を保とうとしているようで貴族家の人間相手だというのに言葉遣いを改めない衛兵。
声も体も震えているので台無しだが。
加えて顔で「ヤバい」と語ってしまっている。
おまけに言っていることは無茶苦茶だ。
家紋の確認? あり得ない。
隣領の貴族の家紋をパッと見で判断できないなど衛兵失格である。
まあ、コイツがこう言うのには理由があるのだが。
「言っておくが、これを奪い取って見なかったことにしようという魂胆は通用しないぞ。すでに家人を呼んでおいたからな」
呼んだというよりは俺の影に潜んでいるリスタから姉たちの護衛として残してきた透明化状態のタッちゃんに視覚情報が送られていただけなんだけども。
「は? 何を言っている。嘘は良くないと何度も言っているだろう」
「俺は最初から嘘なんて一言も言っていない」
そう言ってアゴで後ろを指し示した。
衛兵が振り返ると、すごい勢いで大通りを駆け抜けてくるエレオノーラの姿が見えた。
あっという間に到着し怒気をあらわにした表情で衛兵を睨み付ける。
たったそれだけで衛兵は腰を抜かして尻餅をついた。
カツアゲの仲間たちもだ。
形勢逆転と言いたいところだったけど全員を領主の館に連れて行くと雲行きが怪しくなっていった。
衛兵があることないことを言い、カツアゲ未遂の連中も同調する。
このクソガキどもは領主の部下の子供だったようで一定の信用があるようだ。
こちらの証言と真っ向から対立する格好になっても領主はどちらの証言を信じるべきか判断できずにいたくらいにはね。
で、最終的に向こうの代表と俺とで決闘することになったのだ。
勝った方の言い分を聞くとか意味が分からん。
大雑把というか脳筋思考というか、とにかく無茶苦茶だ。
これが我が領であれば、そういうことはまかり通らないのだけど。
生憎とここはよその領なので決定権は領主にある。
父も渋い顔をしていたけど強くは言えなかったため、こうなった。
考えるのが面倒だからって無茶苦茶するなっての。
読んでくれてありがとう。
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