138 シド、前世を暴露する(盛ってます)
「古い記憶だとあやふやなことも多いんですよね」
ということにしておく。
「比較的最近の前世だと宍戸紀文という異世界の日本という国で技術者をしていましたよ」
「異世界とな?」
「シドの名前に似ているわね」
「技術者ですか。それはどのような」
父アルブレヒトと姉エレオノーラ、そしてレイチェル殿下が一斉に喋ってくれたので危うく聞き逃すところだったよ。
「シシドが家名です。日本では家の名前が先に来るんですよ」
まずは姉の誤解を訂正しておく。
「変わった文化があるものね」
「他の国々はそうでないところがほとんどですけどね」
さらに誤解されても困るので説明を補足しておくことを忘れない。
「異世界は説明が難しいですね。魂の状態でなければ行き来できない場所だと思ってください」
まあ、その状態でも自由に往来ができる訳ではないのだが。
わざわざそれを言って話をややこしくすることもないだろう。
「あと、向こうの世界ではこことは異なる法則が働いているため魔法は絵空事とされています」
「魔法が使えないのか。それは不便そうだな」
父が眉をしかめてうなっている。
「そうでもありませんよ。科学という学問が発達しているため色々な技術が発達していましたから」
「もしかして自動車や飛行機は……」
驚きに目を見張りながら姉が俺を見てくる。
今度はレイチェル殿下ではなくエレオノーラが勘の良さを発揮したか。
俺と接する時間が一番長いし当然と言えば当然かな。
「そうですね。向こうでは当たり前の移動手段でしたよ。魔法技術を使った方が色々と省略できて楽ですけど」
俺の返事を聞いて腑に落ちたという顔になる一同である。
無理もないのか。
自動車だけならいざ知らず飛行機はこの世界では突拍子もない発想の産物だろうし。
「それから宍戸紀文の職については上手く説明できる自信が無いですね。こちらで言えば魔法の術式を構築して魔道具に記述する仕事が近いと思います」
「魔道具職人のようなものかしら」
レイチェル殿下は首をかしげている。
やはり伝わりきらなかったか。
「道具は自分では作らないんですけどね」
「弟子のようなことをしていたということ?」
「そう思えるかもしれませんが、そういう専門職があるのです」
「分からないわね」
殿下は困り顔でギブアップした。
深く追求されないなら好都合なので特に補足説明などはしない。
「魔法が使えない世界で転生していたのに常人離れした魔法が使えるのはどうしてかしら」
上手くやり過ごせたと思ったけど、一難去ってまた一難である。
俺くらいの年齢だと一般的に知られているような魔法しか知識にないのが普通だ。
当然、ゴーレムを作ったり空を飛んだり稲妻を放ったりということはできない訳で。
このように追及されてしまうのも道理というもの。
「別に宍戸紀文の世界がそうだというだけで他の前世もありますから」
魔法使いにはなれなかったがループし続ける人生の中で知識を蓄えた先代の分もあるし。
そうでなくても、こういう時の言い訳は考えてある。
「魔法使いだったことがあると?」
「そうですね。何度かありますよ」
ゲームの中でだけどね。
自キャラを前世と言い張るのは暴挙と言われても仕方ない。
しかしながら、壮大かつ重厚なストーリーをエンディングまでプレイすれば1人の人生を体験したと言っても過言ではないとも思うのだ。
俺的にはギリセーフかな。
仮想とは言えキャラクターを通して追体験した世界がある。
我が事のように感情移入した冒険を無かったことにはできないからね。
一般人には理解できないだろうけど。
たかがオタ趣味されどオタ趣味だ。
その後も魔法使いとしてどんな活躍をしたとか聞かれたけどなんとか切り抜けられたと思う。
魔王級のラスボスを倒しに行くパーティメンバーだったとかは言ってない。
さすがに嘘くさく聞こえるだろうからね。
盛りすぎ注意だ。
殿下はそれで良かったが話をすればするほど表情を渋らせていく人がいたんだよね。
この中で誰よりも俺のことを理解しているであろう人、姉エレオノーラである。
どうやら何かに気付いたみたいだ。
確証は持てないながらも話を聞くにつれ徐々に疑う余地はないと確信していったように見受けられる。
俺としてはボロを出したつもりはないんだけど。
それで焦って墓穴を掘る訳にはいかないので、こちらから探りを入れるような真似はしない。
スルーされるなら放置がもっとも安全だ。
「ちょっと、シド」
どうやらスルーはしてもらえないらしい。
「何です、姉さん?」
「農業の本は前世の知識でしょう」
おや、まあ。そこに気付くとはね。
赤の他人なら嫌いだよと言っているところである。
それにしても、随分前の話なのによく覚えていたものだ。
おまけに少しも揺るぎなく断定的に言われてしまった。
そう。言われたのだ。聞かれるのではなく、ね。
少しでも疑念があるなら決めつけるようには言わなかっただろう。
つまり、それだけ確信しているということだ。
その推測に自信が無いのであれば誤魔化しようもあったんだけどなぁ。
どうやら望み薄のようだ。
「まあ、そんなところです。前世で読んだ本を再現しました」
「ちょっと待て。そんなことが可能なのか!?」
ここで父アルブレヒトが驚きをあらわにして口を挟んできた。
そんなビックリするような話じゃないと思うんだけどな。
「父さん。シドは素材さえあれば魔道具さえ朝飯前で作ってしまうのですよ。本のレプリカを作ることなど造作も……」
何故か最後まで言い切ることなく宙に視線をさまよわせ始めるエレオノーラ。
かと思うとブツブツと独り言を呟き始めた。
端から見ると危ない人そのものなせいで皆は引き気味だ。
俺は姉の独り言の意味が分かるので、それも思い出したかと内心で冷や汗をかいていた。
「異世界というのは本当に技術が発展しているのね」
その発言に皆はキョトンとする他ないのだけど俺には印刷のことを言いたいのだと分かった。
「印刷と言ったかしら。あれって同じ内容の本を大量に作ることができるわよね」
「そうですね。写本するよりはるかに効率的ですよ」
このやり取りを聞いていた父や王女殿下は唖然呆然状態である。
騎士のオリビアや侍女のアンナは話の内容について行けないのか困惑するばかりだったけど。
「ちょっと待て。本を大量に複製できるのか?」
そんなことがあり得るのかと目で語りながら聞いてくる父アルブレヒト。
その問いを祈るような面持ちで見ているレイチェル殿下。
もっと信じ難いものを見て体験してきたというのに、この反応だ。
そこまで驚くようなことだろうかと思ってしまうのだが。
「可能ですよ」
「信じられん。実現すれば教育が変わってしまうではないか」
「そうですね。識字率も今の倍以上になるのは間違いないでしょう。何もかもが革命的に変わっていくでしょうね」
父も殿下も反応が大袈裟だと思ったものの、よくよく思い出してみると印刷技術が普及する前と後では確かに違った。
これも無理からぬことみたいだな。
とはいえ、今このタイミングで印刷技術を公開するつもりはない。
どう考えても火種になるのは目に見えているからね。
読んでくれてありがとう。
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