135 想定外なんですが
Gタイラントスパイダーから泣きが入るとは思わなかったさ。
ライトニングのビリビリで戦意が折れてしまったみたい。
並の魔物なら消し炭になってもおかしくない攻撃だったから不思議ではないのかもしれないが。
なんにせよ、手間が省けたのは幸いというもの。
普通に殴ったくらいじゃダメージも入るかどうか怪しいサイズだからね。
バイクロボもGタイラントスパイダーからしてみれば小物でしかない訳だし。
痺れている影響で腹ばいになっているGタイラントスパイダーの前に降り立つが奴はピクリとも動かない。
いや、小刻みに震えているか。
それが痺れによるものか恐怖によるものなのかは分からないが。
いずれにせよ抵抗する意思が感じられないのでバイクロボを人型からバイクモードへと変形させる。
すると驚きの感情らしきものが頭の中に伝わってきた。
Gタイラントスパイダーが思念波を送ってきたか。
意図的にと言うよりは、ビックリして思わず声が出てしまう感じに似ている気がするな。
この調子なら触れても大丈夫そうだと判断した俺はバイクを降りて奴の顔の前に立つ。
少し間を置いてからゆっくりと手を伸ばし、そっと口元に触れた。
体格差を考えると無謀な行為ではあったもののGタイラントスパイダーは大人しく身を任せている。
暴れるのは無理でも拒否的な反応くらいは見せるかと思っていたんだけどね。
敗者は勝者に従うのみとでも言うつもりだろうか。
テイムした訳じゃないし言葉での意思疎通は困難なようなので真実は不明だが。
とにかく反抗する様子が見られないので触れた指先を通じて魔法を流す。
攻撃するのではなく治癒のための魔法だ。
結果としてGタイラントスパイダーはライトニングの魔法によるダメージから回復したのだけど奴はまたしても驚きをあらわにした。
「お前が弱ったままだと不都合があるから回復させた。不服か?」
問いかけに対してGタイラントスパイダーからは首を横に振った時のような否定的な思念が送られてきた。
それだけではなく、一度はゆっくりと立ち上がった奴は再び腹ばいになり足を折りたたんで俺の方を見る。
どうやら平伏しているつもりのようだ。
「気にしなくていい」
とは言ってみたけれど、Gタイラントスパイダーはそのままの姿勢を崩さない。
「ダメージを残されちゃ困るんだよ。言ったろ?」
今度は首肯するイメージが頭の中に流れてくる。
理解したということなのだろうけど、同時に困惑しているような雰囲気も感じられた。
「ここから北の方にワイバーンどもがいるだろう」
再び首肯するイメージ。
「アイツらが南下してくると困ったことになるんでな」
今度は首をかしげているようなイメージだ。
「ここからずっと南の方に俺たちが住む場所がある。そこには戦う力のない者もいるんだ。ワイバーンに襲われたらひとたまりもない」
どうやら納得がいったようで、またしても首を縦に振るイメージが来た。
「だから、お前を回復させて今まで通りここを縄張りにしてもらう。それだけでワイバーンどもは来なくなるからな」
これで最終的な理解が得られるものと思っていたのだけど、そう上手くいかないのが世の常というもの。
しばし待ってみたものの、何ら反応がなかったのだ。
「おーい、聞こえてるかー?」
これにはイエスの反応があった。
ということは何かが引っ掛かって俺の言うことを聞き入れられないところがあるということか。
「ま、無理にとは言わないさ。行きたいところがあれば好きにすればいい」
ワイバーンが襲来したら素材にしてやるまでだ。
うちの私兵たちの装備を新調するのもアリだろう。
ドラゴンほどではないにしても、そこらの魔物の素材よりも丈夫だろうし。
ミューラー伯爵領が危険にさらされるリスクはあるがメリットもある。
装備が強化されれば、今後予想される他領からの侵略に対して有利に戦局を動かすことができるはず。
「俺もここには用がないからな。帰らせてもらうぞ」
そう言って俺はバイクにまたがり──
「じゃあな」
別れを告げ走り出した。
充分に加速したところで変形してジャンプし空へと舞い上がるが飛行機に追いつくにはスピードが足りない。
そんな訳でフライの魔法を使う。
今まではフロートで浮いて風の魔法で飛び回っていたけど、それは省エネのためだ。
フロートとフライでは上級と超級で2段階の差があるから消費される魔力が桁違いなんだよね。
その分、フロートで飛んでいた時の何倍ものスピードで飛べるのは言うまでもない。
一気に加速すれば豆粒よりも小さかった飛行機があっという間に間近に迫ってきた。
フロートのままでダラダラ加速するよりも効率がいいのだ。
後は飛行機の格納庫に滑り込めばいいだけ。
飛行機の後ろにつき速度を合わせ位置を微調整する。
互いに飛んでいるのでそれが難しいのだけど。
風の流れを読み速度だけでなく動きもシンクロさせていく。
が、気流が乱れているせいでなかなか上手くいかない。
そういう時は魔法で風の流れを整えるまで。
飛行機とバイクロボの双方を包み込む風の流れを作れば……
思惑通り包み込まれた中だけは挙動が安定し、すぐにシンクロできた。
後はジワリと加速して飛行機の中へと入っていくまで。
次の手順は変形の解除。
バイク形体で着地して固定する。
「ふう」
と息が漏れ出るのもしょうがない。
ここまで来れば後はゆっくりできるからね。
そう思っていたのだけど……
「どうしてあんな無茶をするのだ!」
バスに戻るなり父に叱られてしまいましたよ。
やきもきすることがないようにバスの大型モニターで俺の戦いぶりが移されるようにしていたんだけど、それでもダメだったらしい。
わざわざ小型ドローンを同行させた甲斐がないじゃないか。
まあ、言いたいことは色々あるけれども、お口はチャックで神妙な仮面を顔面に貼り付けておく。
間違っても言い訳なんてしてはいけない。
火に油を注ぐも同然だからね。
ここは馬耳東風と行こう。
いや、心配している親に対する態度じゃないとは思うんだけど。
あれ以外に飛行機を脱出させる術は無かったという自負があるので無茶は承知の上なのだ。
言い訳はしないが、そこを曲げるつもりはない。
「外に飛び出した瞬間は肝が冷えたぞ」
空を飛ぶと事前に言っておけば良かったか。
「おまけに脱出できたにもかかわらずタイラントスパイダーと戦い始めるとは無鉄砲にも程がある」
そんなこと言われてもなぁ。
アイツが追ってくる恐れがあるから決着をつけなければならなかったし勝算は十二分にあったのだ。
最悪でも負けることだけはなかったと断言できる。
その場合はGタイラントスパイダーを殺すことになったから別の問題が浮上していたと思うけど、それは別の話。
なんにせよ父は俺が勝てるとは夢にも思っていなかったみたいだね。
「父さん」
父の説教が続く中、姉エレオノーラが口を挟んできた。
「あれはシドの本気ではありませんでしたよ」
「なにっ!?」
「この子は賢いですから無謀なことはしません。今回も勝算があるかどうかだけでなく先を見据えて行動しています」
「どういうことだ?」
「シドが苦戦していたように見えたのも、あの巨大蜘蛛を生かさんがためでしょう」
こちらを見ながらの姉の発言にうなずきを返しておく。
「む。ワイバーンか」
さすがに父もここまで話を聞けば察してくれるか。
説教は想定外だったけど、父アルブレヒトがわからず屋の頑固オヤジでなくて助かったよ。
読んでくれてありがとう。
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