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133 暴君にして暗殺者?

「タイラントスパイダー……」


 知らない魔物だ。

 とっさにアカシックレコードへアクセスして情報を抜き出した。

 が、糸の攻撃がさらに激しくなってきて読み取る余裕がない。


「まさか、こんな近くに幻の魔物がいるとは!?」


 父アルブレヒトが驚愕している。

 幻の魔物? そんな二つ名がつくほど有名なのか。

 けれども先代のシドは人生を幾度となく繰り返す中で遭遇したことはもちろん話に聞いたことさえなかった。

 護国大臣だからこそ知っているレアな情報なのかもしれない。


 そんな風に父の発言に気を取られたことが良くなかった。

 研ぎ澄まされていた集中がわずかではあったものの緩んでしまったのだ。


「しまった!」


 関門のように2本同時に放たれた糸の間をすり抜けはしたものの片方にかすってしまった。

 試作機とはいえ飛行機はその程度で破損するほど柔には作っていない。

 だが、飛んできたのはクモの糸だ。

 当たればその粘着性でくっついてしまう。


 ガクンと急制動がかかった。

 もちろん、そんな操縦はしていない。


 これまで奴は糸を切り離さずに引き戻して再利用する形で連続使用していた。

 その結果がこれだ。

 もしも、この飛行機が空力だけで飛ぶものであったならバランスを崩して失速し墜落していただろう。


 フロートの術式を組み込んでおいて正解だったよ。

 タイラントスパイダーが糸を引き戻す力とで拮抗しているため糸の長さは変わらぬままだ。

 見ようによってはクモが凧揚げをしているように見えるかもしれない。

 ……いや、タイラントスパイダーは未だに姿が見えないままだから主語は透明人間に置き換わってしまうか。

 いずれにせよシュールな光景であることに変わりはない。


 とにかく脱出しないとな。

 フロートの出力を上げて力尽くで引っ張るが千切れそうにない。

 ただ、向こうも引き込むのに力を使っているせいか他の糸は飛んでこないのは助かる。


 均衡を保っている今なら回避に専念する必要がないためアカシックレコードの情報を読み取れそうだ。

 力の均衡が少しでも向こうに傾けば2本目3本目の糸が飛んで来かねないので素早く読み取っていく。


「………………」


 どうやら、このクモはワイバーンとタメを張るくらい巨大なようだ。

 道理で飛行機に負けないパワーがある訳だ。


 透明化に等しい高度な擬態能力を持ち隠れ潜む習性を持つって?

 超大型に分類されるような魔物のくせに姿が見えないと思ったら、そういうことか。

 隠れ潜んで通りがかった獲物を仕留めるため暗殺者の異名を持つらしい。

 思わずソロで残虐な狩りをする脳筋エイリアンが脳裏に浮かんでしまったよ。

 サイズはまるで違うけどね。


 距離がある時は白い筋状の糸を足の先や口から放ってくる?

 道理で同時に複数の糸を撃ち出せる訳だ。

 糸は粘着性があるため当たると動きが大幅に制限されてしまう、か。

 現に今その状態だよ。


 どうやら力尽くで糸を引き千切っての脱出は難しそうだ。

 フルパワーで引っ張ってもタイラントスパイダーを吊り上げるだけかもしれない。


 かと言って魔法で切断するのも上手くいくかどうか。

 これだけの引っ張り合いで切れないのだからウィンドカッターじゃ無理だろうな。


 燃やすことができれば楽なんだが、この辺りは見渡す限りの森林地帯だ。

 飛び火して火災が起きれば辺り一面が火の海になりかねない。

 消火するための労力を考えると二の足を踏んでしまう。


 あれこれと考えるに面倒極まりない状況ではあるが、やりようはある。

 幸いなことに糸は見えている訳で、その先に奴は間違いなくいるのだ。


「このままじゃ埒が明かないから本体を叩く」


「殺すなよ」


 決断を口にしたらタッちゃんに釘を刺された。


「なんでさ!?」


「ワイバーンどもが領都まで南下してきても知らんぞ。一般人には脅威なのだろう?」


 暗殺者の異名を持つだけあってワイバーンにも恐れられている訳か。


「しょうがない。外に出て糸を切るしかないか」


「その後はどうする?」


「どうするって撤退するしかないだろ」


「放置もしない方が良いぞ」


「この飛行機なら振り切るのは簡単だって」


「アレは凶暴でしつこいぞ。見失っても追ってくるだろうな」


「嘘だろぉ」


 もしもタイラントスパイダーに領都を見つけられるようなことがあれば被害は計り知れないものとなりそうだ。

 暴君蜘蛛なんて名付けられるくらいだからな。

 タッちゃんも凶暴だと言ってるし。


「どうすりゃいいんだよ」


「死なない程度に痛めつけて屈服させるしかあるまい」


「面倒くせー」


 ワイバーンすら餌にしかねないような大物相手に手加減して戦わねばならないとか冗談キツいっての。

 とはいえ他に手立てはない訳で。


「やりますよ。やりゃあいいんでしょ」


 ここまで来るとヤケクソである。

 父が何か言っている気がしたが聞こえちゃいない。


「リスタ、操縦を変わってくれ」


 黒猫モードで俺の隣に座っていたリスタにバトンタッチを頼む。

 するとリスタは色とサイズを変え始めた。

 うにょんと縦長に膨張し、ものの数秒で俺の姿そっくりに変形完了。

 ただし、スライム感丸出しのクリアカラーなので偽物感がハンパない。

 別の言い方をするならフィギュアかカプセルトイが近いだろうか。


 俺は飛行機の操縦をバトンタッチするべく窓を開ける。

 サイコキネシスの魔法で飛行機の操縦を維持しつつ窓枠へ飛び移った。


「ここは任せたぞ。糸を切ったら離脱しろ」


 言いながら窓枠の上部を掴んだ手にグイと力を込めてバスのルーフへ飛び乗った。

 すぐに格納スペースへと移動する。

 そこには飛行機の試作に合わせて完成させた搭載機が鎮座していた。

 バスと比べれば大したサイズではない。

 ただ、それの形状からすれば無駄に大きいと感じるはずだ。


「こんなこともあろうかと用意しておいて正解だったな」


 苦笑しながらも独り言ち俺はハンドルに手をかけながらサドルにまたがった。

 そう。コイツはバイクである。

 今のところは、だが。


 バイクを起動させると同時に飛行機の後部ハッチが開いていく。

 俺は躊躇うことなくバイクをバックさせ飛行機の外へと飛び出した。

 直後、バイクは変形しながら俺の全身を覆っていく。

 外から見れば全長数メートル程度の人型になっているはずだ。


 昔のアニメにそういうのがあったので参考にさせてもらいましたよ。

 前後のホイールは背部に回ってローター風の装備になったりしているのがオリジナルだ。

 フロートの魔法で飛んでいるので、これ見よがしな形になっている割には補助的な役割しか果たしていないんだけどね。


「こうして見ると太いな」


 ロボのカメラを通して見ると思わず声が漏れ出るくらいにタイラントスパイダーの糸は太かった。

 飛行機の操縦席にある下方確認用のモニターは小さくて確認しづらかったんだよね。

 あと飛び回っている間は太さなんて気にしている余裕はなかったさ。


 なんにせよ糸は切断することに変わりはない。

 まずは魔法で部分的に凍らせる。

 弾力性を失えば切りやすくなるはずだ。


 後はロボの腕に仕込んでいた光剣を引き出しながら刃を形成し氷ごと切断。

 何の抵抗もなく糸はあっさりと切れた。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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