130 ロマンを求めてしまうんだよね
「では、移動しましょうか」
バスに乗り込み皆を促す。
ここでも姉エレオノーラが真っ先に乗り込んできた。
続いてレイチェル殿下なのも同様である。
「シド、この大きさならもっと座席を確保できるんじゃないか?」
乗り込んできた父アルブレヒトがバスの中を見渡して質問してきた。
もっともな疑問だろう。
このバスは中型サイズだから本来であれば三十名弱は座ることができるはずなのだ。
にもかかわらず中はスカスカで運転席以外の座席は今日の面子の分しか確保されていない。
「ええ、その気になれば二十何人かは座ることができると思います」
俺の返答に父は然もありなんと鷹揚にうなずいているが、俺の話はまだ終わっていない。
「ですが──」
言葉を続けると「まだ何か?」と言わんばかりの表情を見せながら父は目を向けてきた。
「今日は試験飛行用に座席をセッティングしたので余分な座席は入れなかったんですよ」
「なにっ? ……もしかして、このバスが空を飛ぶのか!?」
驚きにギョッと目を見開いた父が聞いてきた。
「バス単体では飛びませんよ」
できなくはないけど、空力完全無視では魔力を無駄に消費してしまう。
それは航続距離を大きく減らすことにつながるので車の形をしたもので飛行させることはない。
短距離なら機能として盛り込むのもありかもしれないけど。
ジャンプする車なんていうのは古い外国のドラマや映画で見かけたくらいだけどね。
「そうか」
何処か安堵したような様子を見せる父アルブレヒト。
気を抜くのはちょっと早いんだよな。
俺の話はまだ終わっていないんだからさ。
「ただ、バスから降りずに飛行機に乗り込みます」
「なんと……」
短く声を漏らしたかと思うと、そのまま絶句してしまう。
だから気を抜くのは早いと……言ってはいないな。
まあ、ここで説明を続けるより現場でどうなるかを見てもらった方が手間がかからない。
百聞は一見にしかずだからね。
そんな訳で全員が乗り込んだら座席に座ってもらいシートベルトなどの説明をする。
着用して正しく装着されているかを確認。
問題なかったので前に移動して振り返る。
「えー、これから飛行機のある場所まで移動します」
たったこれだけの言葉なのにレイチェル殿下はパチパチと拍手してくれた。
待ちきれない様子がうかがえて微笑ましい気持ちにはなったのだけど。
「しかしながら地下は殺風景で退屈かと存じます。そこでこんなものを用意しました」
パチンとフィンガースナップで指を鳴らすとバスの天井に格納されていた大型モニターが展開される。
「これに外の様子を映しますのでお楽しみください」
言い終わると同時にモニターには見下ろした形の外の風景が映し出された。
森の奥へ移動するので、さして代わり映えのない映像が続くことになるけど壁しか見えないの窓よりはマシなはず。
とにかく移動しなければ始まらない。
一礼した俺は運転席に乗り込み出発準備を整える。
「それでは発車しまーす」
後ろに声をかけてからアクセルをジワリと踏み込んでバスをゆっくり発進させる。
「あっ、動きましたわ」
車に乗るのはこれが初めての殿下が驚きながらもどこか嬉しそうな声を上げた。
微笑ましくはあるが、いちいち反応しているわけにはいかないので運転に集中だ。
広めの格納空間からバスはトンネルへと入っていく。
ここから先の窓の景色は代わり映えしなくなるのでモニターがなければ5分と経たずに飽きると思う。
現に殿下はモニターに釘付けになっていた。
目論見通りの結果になったのでホッと一安心である。
そしてバスをそこそこのスピードで走らせ移動することしばし。
大型モニターに映し出されている外の景色に川や岩山が見えるようになってきた。
運転席のモニターにも同じものが流れるようになっているので俺も確認できる。
目的地は近い。
眼前に壁が迫ってくることでも、それが分かった。
急ブレーキにならないよう減速していき隔壁の前で停車する。
「シド、行き止まりのようだけど?」
エレオノーラが聞いてきた。
同じ疑問は皆も抱いているだろうけどね。
「いま開けます」
パッシングで合図を出すとゴゴゴと重厚な音を響かせながら隔壁が迫り上がっていく。
ただ、振動が伝わってくることはない。
ゴーレムの技術を使っているから動きは滑らかなのだ。
音も壁の厚みを実感するためトンネル側にだけ聞こえるよう指向性を持たせて付け加えた効果音だし。
「こんな仕掛けが……」
唖然としつつもアルブレヒトが呟いた。
他の面々も言葉を発しはしないものの似たような状態だ。
皆より俺のやることに慣れている姉だけが苦笑している。
こういうのも一日の長と言うんだろうかね。
隔壁が完全に開ききった。
開けた先には今まで走ってきたトンネルよりもずっと広い空間がある。
このバスなら何十台と置くことができるだろう。
それでも岩山をくり抜いているので柱は少なめだ。
崩落しないよう補強もしているけどね。
今回の試験飛行だけで考えるなら必要のない広さなのは言うまでもない。
それでもあえてこうしたのは今後を考えてのことである。
今は殺風景に感じるほど格納されているものが無い状態だ。
それがここを未完成な雰囲気を演出しているとも言える。
とにかくバスを中に走らせる。
トンネルを走り続けた道中とは違って徐行運転だ。
格納庫の奥へ移動させ壁の前で停車し再びパッシングで合図を出す。
するとバスが上昇を始めた。
浮いている訳ではなく床の一部が昇降機になっているのだ。
何事かと皆があたふたしている。
次は何が起きるのかと言わんばかりにニコニコしているお方もいらっしゃるが。
レイチェル殿下は秘密基地とかのロマンがお分かりになるようだ。
上昇が止まると壁面がくり抜かれており百メートル弱はそれが続いていた。
そして、そこにはバスよりも大きな先客が鎮座している。
これこそが試験飛行用に用意した飛行機だ。
基本形状はリフティングボディのデルタ翼であり威圧感を少なくするために尖った部分をなくしている。
ただ、今は機体後部から前方にかけて大きく開いた状態だ。
上から見ればVの字っぽく見えるだろう。
その空いたスペースにバスを滑り込ませていくと視界が奪われていく。
車内が照明で照らされていなければ真っ暗になっただろう。
完全にバスが収まったところで軽くバスが揺れた。
飛行機との接続が完了しロックされた証拠だ。
「ドッキング完了」
思わず言葉が漏れていた。
合体は漢のロマンだよな。
「シド、これでは外の様子が分からないわ」
余韻に浸る間もなくエレオノーラが淡々とした口調でクレームをつけてきた。
それもそのはず。窓の外が真っ暗なだけでなく大型モニターも格納庫へ入る前に映像を切って収納していたからだ。
にもかかわらず姉からは俺をとがめるような雰囲気はまったく感じられない。
俺がこのままで終わらせるわけがないと確信しているからだろう。
「御心配なく。いま外の様子が分かるようにしますから」
そう言うと同時にセンターパネルにあるボタンのひとつを押した。
すべての窓が明るく外の映像を映し出すと後ろの座席から口々に発せられる感嘆の声が聞こえてきた。
ただ、変化はそれだけではない。
ハンドルなど運転席まわりが変形していく。
ものの数秒で戦闘機のコクピットのようになっていた。
これで準備は完了だ。
読んでくれてありがとう。
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