129 下ですが何か?
何日かレイチェル殿下と朝食を共にして思ったのは意外に奔放な方なんだなということである。
肝が据わっていないと、こういう性格にはならないよなぁ。
現に偏ったメニューでも気にしないし初めての料理でも物怖じしないどころか楽しんでいたくらいだ。
食事中の会話でもよく笑い何にでも興味を持ってくれた。
リスタのことも、そういうものだと理解し拒絶的な反応は一切されなかったし。
この調子ならドラゴンであるタッちゃんも大丈夫そうだと判断して紹介してみたら、思った通り少し驚きはしたものの、すぐに事実として受け入れてもらえた。
さすがは王族と言うべきか。
だからこそ魔道具に乗って空を飛ぶという前代未聞の話も受け入れてもらえただけでなく自ら乗りたいと希望されたのだろう。
他の王族であれば、興味は持っても自ら空を飛びたいとは言わなかったはずだ。
少なくとも初回から乗る気満々というような姿勢が見られるのはレイチェル殿下だけじゃなかろうか。
周囲の反対を押し切るくらいには熱意があるというのも変わっているよね。
まあ、そのおかげで説得するという労力が必要なかったのだから俺としてはありがたい。
さすがに何の試験も行わないのは勘弁してくれと父アルブレヒトや殿下の側仕えの2人からは懇願されてしまったけれど。
模型サイズとはいえ、すでに飛んでいるものがあるというのにね。
とはいえ大丈夫だと理解していても心配するのは無理からぬことか。
俺としては「殿下に言ってください」でかわすのみだったけど。
そうして空飛ぶ輸送機の試作型をお披露目する日が来た。
懇願してきた面子からすれば「とうとうこの日が来てしまった」だろう。
俺にとっては真逆の思いなんだけどね。
延期になったことでずっと待ち続けていたからさ。
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朝食後、全員で書庫の外に出る。
「本当にここでいいのか、シド?」
裏庭の片隅で立ち止まると父アルブレヒトは困惑の表情で聞いてくる。
「ええ。延期前だと林の奥へ向かう必要があったんですけどね」
そう言いながら俺は手にしたリモコンのボタンを押した。
すると軽く地面が揺れる。
感覚的なものだが震度1から2の間くらいだろうか。
揺れは一瞬で収まったにもかかわらず全員が何事かと周囲をキョロキョロと見回している。
地震に慣れている日本人の感覚を知っている俺でないとこんなものなのかもしれない。
外国人だと軽く揺れただけでも激しく動揺することがあるらしいし。
「御心配なく。この振動はゴーレムの技術を使ったギミックを地下で動かしたからです」
「地下、だと!?」
「そうですよ」
父とそんなやり取りをしている間に再び地面が小さく揺れ、同時に地面の一部が箱状に迫り上がっていく。
それを見たオリビアがすかさずレイチェル殿下との間に立ち剣の柄に手をかけ警戒態勢を取った。
「大丈夫ですよ。これが、いま言ったギミックです」
俺が前に進み出るとオリビアが険しくさせていた表情を緩め柄から手を離した。
完全に警戒を解いたわけではないのは立ち方を見れば明らかだ。
初見で地面からコンテナほどの高さのものが上がってくれば、そんなものだろう。
ちなみにボックスの大きさは全員が同時に入っても余裕がある程度にはしておいた。
狭いと皆を促しても動いてくれない気がしたからね。
「シド、扉があるようだけど階段でも作ったの?」
姉エレオノーラが聞いてきた。
「惜しいですね。階段ではありませんが地下に下りるためのものです」
言いながらリモコンのボタンを押すと両開きで扉がスライドする。
それだけで姉以外の面々がザワついたがスルーしてボックスの中の空間に入り込む。
「さあ、中へどうぞ」
促すと姉が躊躇うことなく入ってきた。
さして間を置かずにレイチェル殿下が興味深げに見回しながら続く。
「殿下っ!」
慌てて駆け込んでくるオリビア。
アルブレヒトも表情を変えてはいないものの何処か硬さの感じられる歩みで乗り込んできた。
残るは専属侍女であるアンナのみ。
表情を強張らせ身を固くさせていたが、しばしの葛藤の末に恐る恐るボックス内に入ってきた。
「じゃあ、閉じますよ」
先に宣言してからリモコンのボタンを押してドアを閉じた。
アンナがビクッと震えるが自動ドアなど経験したことはないだろうから仕方あるまい。
閉じ込められたと騒ぎ出さないだけマシな方だと思う。
「少し揺れますが地下に下りるだけなので御心配なく」
念のため予告してからリモコンの下降ボタンを押した。
そう、これはエレベーターである。
壁面にボタンがないけれど勝手に押されることがないようリモコンで操作するようにした結果だ。
パニックを起こして滅多矢鱈に壁を叩かれたりしたら、たまったもんじゃないからね。
下降し始めと停止する前に微妙な縦揺れがあったけど文句を言われることはなかった。
エレベーターの挙動にはそこそこ気を遣ったからね。
「到着しましたよ」
再びリモコンのボタンを押してドアを開けば、そこは地下空間であった。
ドアを開け外に出るが反応は様々。
スタスタと何事もなかったかのように出てくるのが姉エレオノーラ。
それを追い抜かんとするかのような必死の形相を見せながらも落ち着かない様子でビクビクしながら顔を覗かせるだけのアンナ。
レイチェル殿下に危害が加わるような何かがないか警戒しているのだろう。
それを見ながら苦笑して出てくる殿下はキョロキョロと興味深げに周囲を見渡している。
それに続く職務モードのオリビアがアンナの腰を抱えるようにして引きずり出す。
残るは父アルブレヒトだが、呆気にとられた状態から中に取り残されていることに気付いて慌てた様子で駆け出してきた。
「本当に地下なんですねえ。空が見えません」
上を見上げて感心したように、ほぅと息を漏らすレイチェル殿下。
「明るいのは魔法で照らしているからか」
父が呆れた様子で呟く。
「そうですよ。でないと光源がないので真っ暗になってしまいます」
「そんなことより、あの大きな箱状のものは?」
疑問を口にしたのは姉だ。
「タイヤがついているところを見ると自動車のようだけど」
「ええ、大人数を運ぶために特化させた自動車の試作型です」
「こんな大きなものが……」
色々と慣れている姉でさえ呆然とさせてしまったようだ。
今更だが、もう一回り小さくしても良かったかもしれない。
「一応、分類するためにバスと呼称しています」
「飛行機というものに乗って空を飛ぶと聞いていたのですが?」
殿下がやや困惑した顔を見せている。
「飛行機のある所までこれで移動します。けっこう距離があるんですよ」
「いつの間に……」
俺の返答を聞いてスケールの大きさに気付いたらしい父が呆れ顔を見せている。
「かなり前からですよ」
ということにしておく。
具体的にどのくらい前からと言及しなければ嘘にはならないだろう。
「飛行機は車の開発を進めている間に構想していましたから」
「でしょうね」
然もありなんと姉がうなずく。
「でないと空を飛んで王都を偵察するようなゴーレムなんてタイミング良く作れないでしょうし」
勝手に誤解してくれた上に皆が納得するようミスリードまでしてくれて助かるよ。
現に誰も異論をはさんでこない。
それどころか疑いもせず呆れたり感心したりと各々の反応を見せている。
「まったく。次から次へと……」
父は疲れた様子をにじませながら嘆息した。
「暇ですからねえ。アイデアがあるとつい実現したくなるんです」
まだまだ見せていないモノは多々あるんだけどね。
読んでくれてありがとう。
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