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125 問題発生?

「そういうことですか」


 エレオノーラから愚痴まじりに事情を聞かされて忙しいはずの姉が来たことに納得がいった。

 仕事どころではない訳だ。


「殿下が食欲不振で倒れたと」


「倒れてはないわよ。エルブレイン卿が支えたから」


 俺の聞き間違いだと姉は言うけれど支えがなければ倒れていたんじゃないの?

 訂正する意味あるのかな。


「ふらついただけということですか?」


「そうね」


 それでも大きな差があるようには思えない。


「いずれにせよ今のままでは殿下は衰弱して寝たきりになりかねないんですね」


「あまり考えたくはないけど、そういうことよ」


 食欲不振の原因は問うまでもないだろう。

 命を狙われた上に身内は根絶やしにされたのだから。

 おまけに内戦勃発もしくは隣国が侵攻してくるのは時間の問題という状況である。

 精神的なショックは並大抵なものではあるまい。

 しかも、そこに生き残った王族は己のみという重圧が加わってくる。

 食べ物が喉を通らなくなっても不思議ではない。


「だったら、ここで愚痴っている場合ではないのでは?」


「愚痴を言いに来たんじゃないわよっ」


 姉の眉が吊り上がるが、すぐに落胆した表情になる。


「こんな状況だから例の件はレイチェル殿下の体調が戻るまで延期になったと言いに来たの」


 例の件……、輸送機のお披露目のことか。

 そうなるのは当然だろう。


「それは了解しましたが、それだけではないのでしょう?」


 延期になったと伝えるだけなら明日の朝食時でも何ら問題ないのだから。


「ええ。料理長が色々と工夫してくれているけど殿下の食欲不振は改善するきざしすら見られないのよ」


「それは大変ですね」


「他人事のように言わないでよ。なんとかならない、シド?」


 いつもの自信に満ちあふれた姉とは正反対のすがるような眼差しを向けられてしまいましたよ?

 まるで秘密道具を山ほど持つ猫型ロボットに頼ろうとするダメ少年のようだと思ってしまったのは内緒である。

 まあ、それを姉に言ったところで何のことやらサッパリ分からないとは思うけどね。


 いずれにせよ、子供の俺に頼ろうとする時点で切羽詰まっているのは間違いあるまい。

 話を聞いた限り現状はそこまで深刻だとも思えないけど。

 ただ、このままの状態が続けば最悪の事態に至る恐れは充分に考えられる。

 しかも八方ふさがりで手立てなしだと姉は言った。

 これでは焦って俺のところに来てすがろうとするのも無理はないかもしれない。


「なんとかと言われましてもね」


 情報が少なすぎて俺に対処可能なのかの判断もできない。


「ほら、このシューマイというものを殿下にお出しするとか」


「それは構いませんが、たぶん食べてもらえないですよ」


 物珍しいというだけで食べてくれるようになるなら当家の料理長がなんとかしているだろう。


「どんなモノをお出ししたんですか? それすら分からないのでは霧の中を無闇にさまようも同然ですよ」


 正解がどの方向にあるのすら分からない状況では、もがいてどうにかなるとも思えない。

 下手な鉄砲も数打ちゃ当たるとは言うけどね。

 反対方向を向いていたんじゃ当たるものも当たらない。


 そんな訳で姉に問うてみたら想像以上に酷いものだった。

 最初はいつも通りの献立になるよう専属侍女から話を聞いて食事を出していたそうだ。

 それでほとんど食べてもらえないため、さらに豪勢なものへとシフトしていったという。


「食欲がないのに品数を増やしていったんですか?」


「ええ。そのうちのどれかには手をつけてもらえるかと思ったのよね」


「誰か1人くらいは減らそうと意見しなかったんですか? 食欲のないときに品数が増えても余計に食欲を失うと思うんですが」


 俺の言葉に姉がハッとする。

 言われるまで気がつかなかったと言わんばかりだ。


「そうね。いなかったわ」


 殿下の側近も我が父と姉も、大の大人がそろいもそろって何をしているのだろう。

 エレオノーラもそのことを自覚してションボリしているので、あえてツッコミを入れたりはしなかったけどさ。


「それなら単品で消化の良いものをお出しすれば良いんじゃないですか。肉は食欲が戻ってからにすべきですね」


「でも、お肉なしなんて美味しくないんじゃない? 力も出ないわよ」


 肉以外を全否定するかのような姉の発言である。


「調理の仕方にもよりますね」


「そうなの?」


 料理をしたことのない姉には今ひとつピンとこないようだ。

 ここで味付けがどうこうと説明しても実感できるものではあるまい。


「それ以前に今の殿下が味の濃いものや脂っこいものを受け付けるかどうか怪しいのですが」


「うっ」


 心当たりがあるのか姉が言葉に詰まった。

 そういうものばかり料理人に作らせて出していたんだろうなぁ。

 精のつくものを出しても食べてもらえなきゃ栄養として吸収されることはないというのに。


「よく料理人から指摘されませんでしたね」


「何も言われなかったどころか料理長まで向きになっていたわ。私も父さんもおかしいとは思わなかったから同罪よね」


 ますます落ち込む姉である。


「気付けたんだから、いいじゃないですか」


「最初に気付くべきでしょ」


 否定はできない。

 とはいえ気付かぬまま堂々巡りをするよりは、ずっとマシだ。


「とにかく単品で消化に良いものを殿下にお出ししましょうよ」


「そうね。頼めるかしら、シド」


「……はいぃ?」


 エレオノーラの言葉には完全に虚を突かれてしまった。

 反応が遅れたし、まともに言葉が出てこない有様である。


「うちの料理人たちはガッツリ食べる料理しか作ったことがないわ。シドの言うようなものを指示しても味が濃くなったりしてしまうでしょうね」


 病気になる者がほぼいない脳筋家系ならではと言えそうだ。


「それなら知識も豊富で食事も自分で用意してきたシドの方が適任でしょう?」


 料理人でもない俺に無茶振りをしてくれるじゃないか。

 いや、前世では何度か料理人をやってきたけどさ。


 それでも姉が一度こうと決めてしまうと覆すのはまず無理だ。

 できるのだとしても時間と労力をどれほど使わねばならないことか。


「どうなっても知りませんよ」


 断れそうにないので予防線を張っておくが、やるからには全力を出すつもり。

 周りからは、まるでそう見えなかったとしてもね。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 そんな訳でさっそくやって来ました母屋の厨房。

 昼食終わりの時間のため人はいないものだと思っていたのだけど。


「姉さん」


「何かしら?」


「どうして人がこんなにいるんです?」


 休憩に入っているはずの料理人が遠巻きに集まっている。

 それどころか、その背後には他の使用人たちまでもが集まっていた。


「そりゃあシドがレイチェル殿下の食欲不振を解消する調理を始めるとなればねえ」


 それだけで、ここまで人が集まるとは思えない。

 八方ふさがりに陥って落胆していた彼らに調子のいいことを言うくらいはしているはず。

 本来であれば存在が消えたオルランの影響で皆は俺に対して複雑な感情があるはずなのだが、そのあたりはノーサムが処理してくれたのでフラットになっている。

 でないと感情を切っ掛けにして無いはずの記憶を呼び起こそうとしてしまうことになるという。

 よく分からないが、それは非常にマズいらしいので丁寧に処理してくれたのだそうだ。


 記憶が消えるなら感情も連動して消えるんじゃないのかとは思ったけど定着してしまった感情はそうではないらしい。

 ノーサム曰く、洗濯物の染みつき汚れのようなものなんだとか。

 言いたいことは伝わったけど例え方はもう少しどうにかならなかったのかね。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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