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123 そんなに難しいことじゃないですよ?

 実機を用意するので時間がほしいと言って1週間ほど待ってもらうことにした。

 あの場で基本設計のイメージはできていたので、その気になればサクッと造り上げることはできたのだけど。

 それをすれば騒ぎになるのは目に見えていたので自重した。

 実際のところ1週間でも驚かれたけどね。


「本気か、シド!? そんな短い期間で人を乗せて空を飛ぶ魔道具を用意するなど……」


 父アルブレヒトからして、こんな具合だった。

 レイチェル殿下と近衛騎士見習いのオリビア・エルブレインは絶句。

 殿下の専属侍女であるアンナ・シェフィールドは一瞬だけ目を見張った後はあり得ないと言わんばかりに頭を振った。


 まるで人が空を飛ぶことが不可能の象徴であるかのような反応だ。

 殿下たちがそうなるのは分からなくもない。

 俺とはまともに面識がなかった訳だし。

 見た目は間違いなく子供だからなぁ。

 今回の面会である程度は常識が覆ったかもしれないけれど、まだまだ俺を理解してもらえたとは思えない。


 そういう意味では父も同じなのか。

 色々と見せたから大丈夫だと思っていたのだけど。


「自動車と同様に前々から構想していましたから設計図はすでに頭の中にあります。試作は問題なくできますよ」


「いやいや、自動車とは違うだろう。空を飛ぶのだぞ、空を」


 本当に不可能だと思っているみたいだ。


「いま浮いてみせたじゃないですか」


「浮くのと飛ぶのは違うだろう」


 父がそう言うと、殿下たちは同意するようにうなずいていた。

 どうやら根本的に誤解されているようだ。


「浮いてしまえば飛ぶのはどうとでもできるんですよ」


「なっ!?」


 声に出して驚いたのは父だけだったが殿下たちも驚愕の表情を浮かべている。

 そんなに驚くほどのことか?


「大変なのは浮くことです」


 自然現象だけで考えるならね。

 魔法があるから前の世界より空を飛ぶのは難しいことではないのだ。


「それはそうだろう。フロートは上級に属する魔法だ」


 上級は下から数えて4番目に分類されるから、そういう風に思われるのも無理からぬところがある。

 まだ上に特級や超級、更には固有魔法があるけれど使える魔法使いが限られてくるのは確かだ。

 フロートが上級になっているのは重い物は浮かないというイメージがそれだけ根強いからだろう。

 前世でアニメやマンガに慣れ親しんできたせいか俺的にはあまり難しいと感じないのだけど。


「だからこそ空を飛ぶのは不可能に近いほど難しいのだぞ」


 だが、今のところ空を自在に飛ぶ魔法はこの世界にも存在していない。

 それが頑なにまで飛べないと思い込む根拠になっているみたいだな。


「偵察用のゴーレムが空を飛んでいるじゃないですか」


「ぐっ」


 一瞬、言葉に詰まる父だったが。


「あれは小さくて軽いのだろう。乗り物が飛ぶなど──」


「可能ですよ」


 なおも否定しようとする父の言に言葉を被せて潰す。


「方法は何も変わらないですからね」


「そんな何でもないことのように言うが格段に重さが違うだろう。浮かせることはできても、その状態のまま移動するなど考えられん」


 父たちにこびりついた常識はかなり頑固である。

 浮くだけなら可能でもそのまま移動するのは不可能だと思ってそうなのが分かっただけでも収穫と言える。


 もしかしたら横方向にも重力のような負荷がかかるなどという思い込みがあるのかもしれない。

 そうすると水の中で移動するイメージに近いような気がしてきた。

 全方向に重力と同じ力が働くと考えるなどナンセンスもいいところだけどね。

 重力の概念が明確化していないと、こんな風に誤解してしまう恐れがあるのか。


 まあ、この推測も正解と決まった訳じゃないけれど。

 いずれにせよ飛べないという思い込みが論理的なものでない時点で、それを覆すのは容易ではないことが明らかとなった。

 理詰めで説明していたら日が暮れても納得させられないんじゃないだろうか。

 ならばイメージを力業で飛び越えるしかない。


「重くなるなら魔法の出力を大きくすればいいだけです」


「無茶を言うな。それこそ転移するのと変わらぬほどの魔力が必要になるぞ」


 どうやら俺の推測は間違ってなさそうだ。


「しかも転移は一瞬だが、飛び続けるとなればどれほど魔力が必要になることやら」


 想像もつかないとばかりにアルブレヒトは渋面を浮かべながら語った。


「そんなのは魔力を増幅させれば解決する問題ですよ」


 正直に言えば、同じ距離を移動するのに必要な魔力量は転移よりも空を飛ぶ方がずっと少ない。

 だが、そんなはずがないと思い込んでいる相手にそれを説明したところで無駄に消耗するだけだ。

 だから思い込みを理詰めで切り崩すことはしない。

 シンプルにそれを超える方法があると豪語するのみ。


「不可能だ」


 簡単に信じてもらえないのは分かっているが。


「できますよ。少なくとも僕にとっては解決済みの問題ですから」


 それでも押し通す。

 無理が通れば道理が引っ込むってね。

 もっとも、向こうの主張は道理ではないのだけど。

 だとすると無理で無理を押し通すと言うべきなのかな。


「っ!?」


 驚きを見せた父は今度こそ続ける言葉を見失ったようだ。


「論より証拠だということを1週間後に証明してみせますよ」


 ここぞとばかりに畳みかけると絶句したまま頭を振られてしまった。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 空を飛ぶ魔道具の製作において最初に取り掛かったのは発魔機である。

 発魔機とは耳慣れない言葉だとは思うが発電機の魔力版魔道具と言えばイメージしやすいだろうか。

 もっとシンプルに言えば魔力ゼロの状態から魔力を生成させる魔道具だ。


 厳密に言うと魔道具を作動させる魔力が必要なので魔力ゼロは言い過ぎではある。

 ただ、構造的に魔力を増幅させたりはしないので認識としては間違っていない。


 ちなみに技術的には父に言っていた魔力増幅よりも発魔力の方が高度なものだったりする。

 どうして父には発魔機を作ると言わなかったのかは、それが理由だ。

 様子見のつもりで魔力を増幅させると言ったら不可能だと即答していたくらいだし。


 バカ正直に発魔機のことを話せば、どうなっていたことか。

 下手をすれば輸送機を試作する許可が得られなかったかもしれない。

 それでは困るもんね。


 事後承諾の形になるのは不可抗力ってことにしてもらおう。

 航続距離を考えると不採用にはできなかったし。

 人を乗せて空を飛ぶという証拠を見せれば魔力供給の問題は些末なことになる……と思いたい。


 少しばかりお小言をもらうことになるかもしれないが、それは甘んじて受けよう。

 技術の発展には犠牲はつきものだ。

 できれば、あまり負担のない犠牲でお願いしたくはあるけれど。


 ちなみに発魔機で魔力を発生させたとしても、それを用いて長距離を転移するのは難しい。

 発魔機で発生させた魔力はすぐに使わないと拡散してしまうからだ。

 必要な魔力が発生させられなければ魔法は発動しない。


 それは魔石にチャージすれば解決する問題ではあるが必要な魔力をチャージする魔石を用意するのも大変だ。

 ここから最終目標である無人島まで転移するのであれば、近隣に潜む魔物を狩りつくす勢いで集めたとしても難しいんじゃないだろうか。

 地脈から魔力を引っ張ってくる方が現実的である。


 そんな訳で、発魔機は輸送機に使うのが最適だと思う。

 常に稼働させれば航続距離が飛躍的に伸びるのは間違いない。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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